最終章 11. これが俺の戦い方
マリスによって海に叩き落とされた俺は、海中用に融合しどうにか持ち堪えていた。
(あの速さと強さ、尋常じゃないな……)
装備に魔力を込め、全力を出したマリスの強さは俺の想像を絶していた。
あの強さに勝つには、こちらも玉砕覚悟で挑まなければならないだろう。
(やってやるよ、俺と魔獣達の力全てをぶつけてやる)
マリスと戦うなら、もう出し惜しみをしている場合ではない。
魔獣達の力を総動員して、多彩な戦術で圧倒するしかないのだ。
「いくぞ皆!」
俺はモンスターボックスにいる魔獣達にそう呼び掛けると、勢いよく海中を飛び出すと共に翼を生やし飛翔する。
「ようやく出てきたか、今度こそ仕留める!」
海中から姿を現した俺を確認すると、マリスは一直線に突撃してくる。
その目には最早温情は一切無く、ただ俺を斬ることだけを目的としていた。
「舞え!花吹雪!」
俺はそんなマリスに対し、周囲に花弁を散らせて桃色の吹雪を吹かせる。
これはゴーレムとなったフリーをも足止めさせた強力な毒を含んでいるため、いくら勇者とはいえ効くはずだ。
「こんな怪しい花、当たるわけないだろ!」
だが、マリスにとって花弁に触れずに移動することなど容易く、いかにも怪しい俺の花吹雪は簡単に避けられてしまった。
まぁ今のマリスが花弁を避けることは予想済みだ。
だからこそ俺は、すでに次の一手を仕込んでいる。
「甘いなマリス……、雷網!」
「ぐがっ、あああぁ!」
俺は周囲に舞う花弁を伝うように電気を流し、雷の網を作り上げた。
マリスが花弁を紙一重で避けることは予想していたからな。
だから元々花弁には電気を通しやすい金属を含ませておいたのだ。
それによってマリスは、俺の作り上げた雷の網に見事に引っかかったという訳である。
「効くだろそれ」
「ぐうぅ、こ、こんなもの……!」
「ほぉー、無理やり振り切ったか。だが……、もう遅い!」
マリスは勇者の剣を振り抜いて、雷の網を断ち切った。
だがその時にはもうすでに、俺は次の攻撃を用意していたのだ。
「最強最速の突きでお前を仕留める……、死突!」
俺は竜種、昆虫種、マイラ達などあらゆる魔獣の力を右手の先に集約させ、最高速の飛行能力にライチの雷を纏って加速を付与する。
これが今の俺の出せる最強最速の一撃だ。
「速い……!けどこの程度なら見切れるぞ!」
「ぐっ!」
俺は未だ体を痺れさせているマリス目掛け渾身の突きを放ったが、それは奴の展開した盾によって止められてしまった。
だがまだ完全に負けている訳では無い。
俺の勢いは死んでいないのだから、このまま力で押し切ってやる。
「うおおぉぉぉぉぉ!」
「す、凄い力だ……!でも、この程度じゃ僕には敵わない!」
マリスは俺の突きを盾で止めつつ、右手に握る勇者の剣で斬り上げてきたのだ。
一点にしか集中していなかった俺は、結果体勢を崩され見事に隙を晒してしまうこととなる。
「終わりだ灯……」
マリスは無防備を晒している俺を見て冷徹な声音でそう言うと、剣を天高く掲げる。
それでとどめを刺す気なのだろう。
「「「まだだ」」」
「えっ!?」
「「「まだ終わりじゃねぇ!」」」
だが剣を振り上げていたマリスは、突如周囲から聞こえてくる俺の声に驚き、動きが止まる。
その一瞬の隙をついて距離を取った俺は、恐らく悪どい笑みを浮かべていたのだろう。
実はマリスに突きを放つのと同時に、俺はプルムと融合し体を分裂させていた。
その数は総勢200名。
俺の突きをマリスは打ち破ったが、それでも威力は十分に高くそれ故に奴は俺の分裂体が周囲を囲む様に展開していることには、気づいていなかったという訳だ。
「マリス、お前はあと何発耐えれるかな?」
「行くぞ俺達!」
「「「おぉ!」」」
分裂体の俺1人の合図で、俺達は一斉に刺突の体勢に構え突撃を開始する。
「くそっ……!」
「おらおらおらぁ!」
「どうした勇者!こんなものなのか!?」
炎、水、風、氷、雷、様々な属性の突きが多方向から飛来し、マリスは先程までの余裕が嘘のように死にものぐるいで凌いでいた。
盾で防ぎ、剣でいなし、時にはすり抜けざまに斬り落とす。
そうして俺の突きにどうにか耐えていたが、その状況にも次第に綻びが見え始めた。
「辛そうだな。だがこっちも手加減してられないんだ。卑怯と言われようが、どんな手でも使わせてもらう……、擬態!」
マリスは先程俺の擬態を見破った。
だがそれは相手が俺1人しかおらず、混戦した状況になかったからだ。
しかし現在は無数の俺が連続で攻撃を仕掛けているため、マリス自身にも焦りが見える。
今の状況なら、冷静に俺の擬態を見切ることは不可能な筈だ。
だから俺はこの隙を突く。
(悪く思うなよ、これが俺の戦い方なんだ!)
「が、は……」
擬態して透明になった俺は予想通りマリスにバレることなく、腹部を俺の右腕が深々と貫いていた。
「致命傷だな、もう諦めろマリス」
「あ、かり、ごふっ……」
擬態を解き俺の存在に気づいたマリスは、驚愕に顔色を染め上げる。
口からはどす黒い血反吐を吐き、今にも意識を失いそうなほど目は虚ろになっていた。
「悪いな、仲間達を救う為にも俺は負けるわけにはいかないんだよ」
「ま、まだ、終わりじゃ、ない……」
「そんな傷で無理するな。早く治療しないとほんとに死ぬぞ」
まだ諦めまいとするマリスに、俺は彼の腹から腕を引き抜くとまだ浮かんでいる船に向けて突き落とす。
力無く落下していくマリスを眺めながら俺は勝利を確信したのだった。
――
灯がマリスと激戦を繰り広げている頃、獣人族を引き連れた魔人達の艦隊は竜の島へと到着していた。
「やっと到着したわね。クウ、リツ頼んだわよ!」
「クウー!」
「任せて下さい」
島へと降り立ったシンリーは、魔獣人国への扉を開けるためクウとリツにそう頼む。
最初に新世界の扉を開けるには灯がクウとリツと融合する必要がある。
だが既に1度扉が開いた今なら、クウとリツの両方さえいれば入口を開くことは可能になっているのだ。
「よっしゃ、皆とっとと入りやがれ!」
「「「はい!」」」
魔獣人国へのトビラが開いたことを確認したガンマは、獣人族達を先導していく。
あと少しで、灯達の野望派達成はするのだ。
「ふぅ、どうにか逃げきれたな」
「随分と慌ただしい出航になってしまいましたけどね」
「ははっ!まぁそれも俺達らしいしいいんじゃねぇか?」
「うん」
無事王国騎士団から逃げ切れたことに、魔人達は口々に喜び合う。
だが彼らは本当に心から喜んでいる訳ではなかった。
それは、灯を1人殿に残していたことが起因しているのだろう。
「ねぇ、ここはもう大丈夫なんだし早くダーリンを助けに向かいましょうよ!」
「クウ?」
「灯を助けに行くって、それに先程の会話もどういうことなのですか?」
「え?ああ、大将の野郎クウとリツには伝えてなかったのか……」
先程からの会話やシンリーの一言に、クウとリツは疑問を口にする。
2匹の竜は、灯が1人囮になって残っていることを知らされていなかったのだ。
「実はですね――」
不安げな表情を浮かべるクウとリツに、シーラ丁寧に灯のとった行動を説明した。
そうして話を聞いているうちに、2匹の竜達はみるみる顔色を悪くしていく。
「そんな、灯が1人残って戦っているだなんて……、なぜ皆様はそれを知っていながら助けようとしなかったのですか!?」
「なっ、俺達だって当然――」
「それがご主人様の意思。だから私達はそれに従った」
リツの言い分に噛み付こうとするガンマだが、そんな彼の言葉はドロシーによって阻まれた。
彼女のセリフの重みに、リツは何も言い返すことが出来ず押し黙る。
だが、そんな中でもクウだけは納得することが出来ないでいた。
「クウーーーーーー!」
クウは今にも泣き出しそうなほど悲痛な叫び声を上げながら、ワープを駆使して灯の元へひた走る。
その姿に、魔人達もリツも誰も引き止めることは出来なかった。
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