最終章 3. 帝国を救うための小芝居
魔人達を説得し俺1人残ることが決まった。
次はこの状況で、どうやって騎士団から皆を振り切らせるかだ。
「クウ、リツ出でこい!」
「クウ!(外だー!)」
「どうしました?」
俺は皆の脱出方法に関して一瞬悩んだ後、クウとリツをモンスターボックスから呼び出す。
「クウとリツは獣人族達が騎士団から逃げ切るのをアシストした後、そのままジェンシャンまで送り届けてくれ」
「……承りました」
「クウー!(任せてー!)」
リツは俺の発言から別行動をするのだろうと察するも、何も言わずに従ってくれる。
クウはまだ本当に意味を理解しているわけではないようで、無邪気な声で鳴いていた。
クウにはこのまま真実を伝えない方が良さそうだ。きっとシンリー以上に食い下がるだろうし、クウ相手だと俺も折れてしまうかもしれないから。
「じゃあ俺が騎士団の気を引くから、その隙に全速力で脱出してくれ。お前らなら可能だろ?」
「おう!溶岩を噴射させりゃ加速すんぜ!」
「波を操作すれば容易いですわ」
「あしも風でサポートするぜよ!」
「私も根っこで船を漕ぐわ!」
「泥出す」
俺の問い掛けに、魔人達はそれぞれ脱出の手段を口にする。
全員人智を凌ぐ存在なのだから、きっと有言実行してくれるだろうし心配はいらない。
さらにリツとクウのサポートも入るからな。一瞬隙さえ作れば後は簡単に抜け出せるだろう。
問題はどうやって騎士団の気を引きつけるかだが、そっちもすでに考えてある。
「じゃあ皆、目立つ合図を打ち上げるからそれが見えたら……、後を頼むぞ」
「ご主人様……」
「ダーリン、絶対に生き残りなさいよ!」
「おう」
何かを察したらしい魔人達は、全員いつもの緩けた表情とは打って変わって真面目な面持ちとなる。
俺の内に隠してあった焦りや不安が、透けてしまったようだ。
「……そんじゃ頼んだぜ!」
これ以上ここに居るのはまずいと思い、俺は翼を生やして船から飛び立つ。
皆の視線を背中に浴び後ろめたさが俺の心を揺さぶる中、俺はある人物の元へと飛翔する。
「クウ?(灯、どこへ行くの?)」
最後に小さく鳴いたクウの声は、俺の耳には届かなかった。
――
魔人達やクウ、リツと別れた俺は、1人再び港へと戻ってきていた。
目的の人物、ゼクシリアに会うために。
「よぉ、さっきぶりだな」
「灯!一体何が起こってるんだ!?」
「落ち着けって、順に説明すっから」
港から俺達を見送ろうとしていたゼクシリア達は、矢の雨や津波のことなど色々聞きたいことが溜まっていた様子であった。
俺はそんなゼクシリア達帝家に、ゆっくりと事の顛末を打ち明ける。ただし魔人達の時同様、俺が全ての責任を背負うことだけは伏せておいたが。
「……遂に王国が攻めてきたのか」
「そ、それで皆様はご無事なのですか……!?」
「え?あ、ああ、獣人族は船1隻分被害を受けたが、シンリーの治療のお陰でどうにか最小限には抑えられたよ」
「そうでしたか……」
メルフィナは王国が攻めてきたというのに、真っ先に獣人族達の安否を心配してくれた。
普通自分の国が攻められていたらまず自分の心配をするものだが、彼女は本当に心優しいお姫様だ。
「で、灯はどうするつもりなんだ?何か策があるから俺達の元へ来たんだろ」
「ああ、さすがよく分かってるな」
「ふっ、お前とは短いが濃い時間を過ごしたからな」
ゼクシリアと過ごした時間は2ヶ月にも満たないが、それでもこの世界では数少ない俺にとって親友と呼べる存在であった。
向こうも俺のことをそう思ってるようなのは、素直に嬉しい。
「そんじゃ親友のよしみで頼むよ。ゼクシリア、俺の人質になってくれ」
「……はぁ?」
俺はゼクシリアを親友と見込んでそう申し入れる。
そんな頼みが来るとは想定していなかったらしいゼクシリアは、少しの間を置いた後素っ頓狂な声を上げた。
「灯らには多大な恩がある故、どんな頼みでも引き受けるつもりではいるが、人質は意味が分からないな……」
「まぁそりゃそうなんだろうけど、悪いようにはしないからさ。頼むよ」
さすがにいきなり人質になってくれと言われて、簡単に受け入れる奴なんてこの世にはいないか。
だがその理由を説明すると、俺の作戦も話さなくてはならなくなる。
このことは出来ればメルフィナらには聞かせたくない。だからどうにかゼクシリアだけでも連れ出さないと。
「はぁ……、分かった。で、私は何をすればいいのだ?」
「おっ、サンキューゼクシリア。説明は行きながらするから、取り敢えず一緒に来てくれ」
「了解だ」
どうしようか悩んでいると、ゼクシリアの方からやってくれると言ってもらえたので、俺は彼を引き連れて行くことにした。
「灯様、何やら嫌な予感がしますが、どうか無茶だけはなさらないで下さいね……」
「……ああ、危険な真似はしないよ」
嘘だ。
1人で王国騎士団と戦うというのは想像を絶する危険を伴う。
だが、それでメルフィナを心配させるわけにもいかないので、俺は嘘をつくしかなかった。
だから彼女の為にも、魔人達の為にも、クウ達の為にも失敗だけは許されない。
メルフィナに別れを告げゼクシリアと共に飛び立った俺は、彼に作戦の概要と人質の役割を説明する。
「馬鹿か貴様は!?なぜ貴様がエミヨンの代わりを務める必要があるんだ!?」
「だからそれは今説明しただろ。獣人族も帝国も全部救うには俺がエミヨンに代わって侵略者となるしかないって。そんでゼクシリアには、帝国の無実を晴らすためにも俺の人質になってもらったんだよ」
ゼクシリアを人質にした理由は、彼を俺の敵とすることで、王国に宣戦布告を仕掛けたのは反逆者の独断であり、帝国の意思ではというないことを示すためだ。
ゼクシリアが俺と敵対した存在となってくれれば、王国も今回のことで以上帝国に戦争を仕掛ける理由は無くなるからな。
「灯が責任を背負う必要などどこにもないだろう!?仮にやるとしたらそれは私の役目だ!」
「いや、この役目は俺だから出来ること、俺にしか出来ないことだ」
「どういう意味だ?」
「帝国を支配し王国に宣戦布告を仕掛ける程実力のある人間じゃなきゃ務まらないって言ってんだよ。魔人達も出来る可能性はあるが、無数の魔獣を率いた俺が1番適任なんだ」
俺は納得がいかず食い下がるゼクシリアを説得する為、言葉を強くして俺の本気を伝えた。
「私じゃ力不足ということか」
「そういうことだ」
「……分かった。そこまで言うなら、帝国の未来は灯に託す」
「おう、任せときな。全部引っ括めてハッピーエンドにしてみせるぜ!」
俺の想いが伝わったのか、ゼクシリアは唇を噛み苦渋ながらも俺の作戦に従うと約束してくれた。
彼も王子だから色々と責任を背負う義務があるだろうに、俺のわがままに付き合わせて申し訳ない。
だがゼクシリアには、この戦争の後を頑張ってもらわなければならないのだ。
だから汚れ仕事は全部俺が引き受けるさ。
「そろそろ津波を超える。そしたら人質っぽく頼むぜ」
「人質などなったことも無いが、やれるだけのことはやるさ」
ゼクシリアは額に汗を滲ませながらも、小さく微笑む。
きっと彼の笑顔を見られるのもこれで最後だろう。
俺は犠牲にしたものの重さを噛み締めながら、いよいよ王国騎士団の艦隊へと再び姿を現した。
「来たか、弓撃隊構え!」
「ん?あれは……、隊長待って下さい!灯が誰かを連れています!」
「何……?あれは、人質か?」
俺の姿を見るや否や、隊長は後衛の弓部隊に指示を飛ばす。
さっき壊滅させた筈なのに、別の船に避難してもう立て直したのか。
だが、俺が腕で首を締めるように抱えるゼクシリアを見て、攻撃の手は止まった。
ここがチャンスだな。
「騎士共!帝国の第2王子ゼクシリアの命が惜しくば、無駄な抵抗はやめ武器を捨てろ!」
「帝国の王子……!?」
「ふむ、帝国を支配したというのも本当だったか」
マリスは俺の行動を信じられないという目で疑い、隣に立つ隊長は冷静に分析する。
ゼクシリアが王子だというのは少しは信じてもらえたようである。
「さぁ、ここからが本番だ。帝国を救うための小芝居を始めようか」
俺は不安をかき消すように悪どい笑みを浮かべ、そう呟く。
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