7章 29.初めて世界を見た感想
目が見えるようになりたいというメルフィナの願いを叶える為、俺は彼女の右手にモンスターガントレットをはめる。
「これでよしっと。メルフィナ、心の準備はいいか?」
「は、はい!よろしくお願いします灯様、マナ」
「コォーン(なんだか緊張してきたなー)」
メルフィナは小さな手を小刻みに震わせながらも、俺の手を強く握ってくる。
その手から彼女の決意がジンジンと伝わってきた。
マナも準備は満タンのようで、この様子なら失敗はなさそうだな。
メルフィナの驚くすた姿が今から楽しみだ。
「ガントレットの使い方は簡単だ。小手を付けた右手でマナに触れながら、心と体が交わることを念じつつ融合と叫ぶだけでいい」
「はい、いつも灯様の掛け声は聞いてましたので、ちょっとだけですが分かります……」
ガントレットの使い方を説明すると、メルフィナは小さく頷く。
最近はほとんど一緒にいたからか、彼女も俺のやり方は声だけで理解しているようだ。
「それじゃあ、やってみようか」
「はい。すぅー、はぁー……。マナ、いきますよ……、融合!」
「コォン!」
メルフィナは1度大きく深呼吸して呼吸を整えると、マナの頭に手を乗せてそう宣言した。
その瞬間、メルフィナとマナの間に巨大な光が生まれ2人は包まれていく。
「いける……!」
これは正しく融合の光。俺が魔獣達と融合する度に浴びていたあの閃光である。
つまりメルフィナとマナは、本当に融合をやってのけたのだ。
やがて2人を包んでいた光は収束していくと、そこには人影が1つだけ残っていた。
「こ、これは……」
「やったなメルフィナ、成功だよ」
光の中から現れたメルフィナは、右手には黄金に輝く毛を生やし、耳も片耳だけ狐耳になって髪の毛も銀色の中に1部金が混じっていた。
腰からはフサフサの尻尾まで生やし、そして何よりメルフィナの額には、マナの象徴でもある第3の目が開眼していたのだ。
「どうだメルフィナ?初めて世界を見た感想は」
「す、凄い……、これが、これが見えてるということなのですね……!」
メルフィナは、初めて見る世界を前に大粒の涙を浮かべ口元を抑え感極まっていた。
初めて見る色、初めて見る風景、初めて見る地面、初めて見る人、何もかもが彼女にとって初めてなのだ。
感動しない方がおかしいだろう。
「え……、メルフィナ、その姿、もしかして見えてるの……?」
「はい、はい!見えてます!セルフィナお姉様!」
「うそ、ほんとに……?」
「本当ですよ、ネルフィナお姉様!」
メルフィナと俺が何やらやってるのに気づき近寄ってきた双子の姉達は、メルフィナの目が見えていることを知り、号泣しながら抱き合う。
妹思いのいいお姉さん達だ。
「ありがとうね灯君」
「俺は何もしてないよ。メルフィナとマナの絆の強さなら当然の結果だ」
「それでもありがとうだよ灯君……!」
「はは、どういたしまして」
メルフィナが見えるようになったのは彼女自身の力の証だ。俺はそのきっかけを与えたに過ぎない。
それでもお姉さん達は、どうしても俺にお礼を言いたいようだったので、照れつつも受け取った。
「あっ、そうでした!私は獣人族の皆様に謝りたくて灯様から小手をお借りしたんでしたね。浮かれてばかりもいられないです!」
お姉様達から感謝の言葉を受けていると、メルフィナは自分の目的を思い出してら一目散に駆け出す。
もう少しゆっくりしてても、バチは当たらないと思うんだがな。
「待てよメルフィナ、俺達を置いてくなよな」
「ふふふっ、皆様速く来てくださいなー!」
メルフィナは目が見えるようになったことを心の底から楽しみ、幸せな笑みを向けてくる。
その笑顔を見れただけでも、ガントレットを使わせた甲斐があったというものだ。
その後俺達は、メルフィナに、引っ張られながらも獣人族の長達の元を回って順に謝罪をして行った。
その間メルフィナの変わり様に、長達が毎回目を丸くしていたのが面白かったな。
同じ狐耳をしているキーナなんて、目が飛び出そうな程見開いてたし。
その後急に娘とヒソヒソと話をし始めたのは謎だったが。
ライバルがどうの言ってたけど、何の話をしてたのやら。
ともかくそうして、俺達はメルフィナのお供をながらもつかの間の休息を楽しんでいた。
――
メルフィナが融合してから2時間程が経過した。彼女はだいぶ目にもなれてきたようで、ようやく落ち着きを取り戻し始める。
獣人族も半分程が船に乗り込んでもう少しで出航も出来そうであった。
だが、そんな幸せな時間はいつまでも続きはしない。
特にここは、戦場の真っ只中であるのだから。
「ぐうぅ、ま、まだだ……、まだ僕は、負けてないっすよ……!」
メルフィナ達を連れつつ俺も避難誘導に参加していると、どこからか悶え苦しむそんな声が聞こえてきた。
「誰だ!?」
「ぐふは……、エミヨン様の野望は、僕が成し遂げるっす……」
俺達の前に姿を現したのは、ボロボロでふらついた足取りをしているフリーであった。
俺の記憶ではあいつは捕縛でガチガチに固めていた筈だが、まさかあれを突破するとは。
「お前、糸はどうしたんだ?」
「ふん、こういう時の為に魔道具の1つや2つは、隠し持っておくものっすよ……」
俺の質問に対し、フリーはプラプラと左手をかざす。
その手には、手のひらサイズの小さなナイフが握られていた。
あんな小さなナイフごときで俺達の糸を切れるわけもないし、切れ味こそがあの魔道具の力なのだろう。
「だが、そんなボロボロで俺達に勝てると思うなよ!」
「馬鹿っすね……、勝算があるから出てきたんだろうが!」
俺は虫の息のフリー目掛け一気に駆け出そうとするが、それよりも早くフリーは地中から魔力を引き上げそれを身に纏う。
魔力の波に押されて、融合状態でない凡人の俺では1歩も前に進めなくなってしまった。
「くそっ、どこからそんな魔力を……!」
「ふはは……!元々対王国用にとっておいた魔力っすけど、もうここで使うっすよエミヨン様!」
フリーは無意識にか俺の疑問に対する答えを言いつつ、魔力を凝縮させていく。
これまでの戦いは魔人の魔力を使ってくるくせにどうも温いなと思っていたら、どうやら奴らは王国に備えて力を温存していたらしい。
となるとこれから発動する魔法は、今までで最大級のものってことじゃないか!
「現れろ……、クリエイトプラネットゴーレム!」
「フォオオオォォォォ!」
フリーが発動した魔法はクリエイト系の魔法で、しかも俺の始まりの敵であるゴーレムの強化版であった。
以前のゴーレムとは比べものにならないほど巨大で、体には星の輝きを放っている。
強さも今までの敵の中で最強であろう。
だが、そんな強敵を前にして、何故か俺は小さく武者震いをしていた。
「ゴーレムか、俺のラスボスとしては打って付けの相手だ。やってやるさ、ここに居る全員、余すこと無くこの俺が守ってみせるさ!」
俺は山の様な巨体をもつゴーレムを指さしてそう宣言する。
こうして、舞台を港へと移して俺達と魔法使いとの最後の決戦が幕を開けたのだった。
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