7章 11. 迷いの森の3強
カイジンチームは現在、天高く雲の上までやって来ていた。
その目的は当然魔獣を仲間にすることである。
「む、見えてきたか。あれがあしの島ぜよ!」
「おぉー、ほんとに浮いてるんだな……」
俺は空に生息している魔獣を仲間にする為、カイジンの暮らしている島へとやって来たのだった。
浮遊している島自体の大きさは竜の島と同じくらいだが、それでも島が浮いているというのはなんとも異様な光景である。
「ヒイイィィィン!」
「ピアァァァ!」
浮島の圧巻な様を眺めていると、そこから優美な鳴き声を響かせて空を駆けてくる2匹の魔獣の姿があった。
1匹は真っ白な体毛に美しい翼の生えた馬、すなわちペガサスである。
そしてもう1匹は、上半身はタカで下半身はライオンの合成獣グリフォンだ。
どちらも世界中に名を轟かせる魔獣達であった。
「どうやらあしの島の住民達も、殿を歓迎している様子ぜよ」
「へぇー、カイジンは魔獣と一緒に暮らしてるんだな」
「あしは空で暮らす魔獣とはだいたい知り合いじゃ。だが彼らにとってもこの世界は住みにくい世界であるからな。新たな世界では地上でものびのびと暮らしてほしいんぜよ」
ペガサスとグリフォンはこの世界でも非常に珍しい魔獣であるので、標的となりやすいのだ。
もちろん彼らも相応に強い魔獣ではあるのだが、それでも人間の物量には敵わず生きる場所を求めて、空へと追いやられたのだろう。
「任せてくれ、全員まとめて幸せにしてやるからよ」
「なははっ!頼もしい限りぜよ!」
俺の宣言にカイジンは楽しそうに笑い声をあげる。
その後は浮島に降り立つとペガサスやグリフォン、それに他に空で暮らす魔獣達とも仲良くなり、無事に仲間に引入れることに成功した。
「なぁ、そういや前から疑問だったんだけどさ、俺の世界ではペガサスとかは暮らしていないのに、その名前と姿だけは知られてるんだよ。それって何でなんだ?」
「ふむ、それはなぜであろうか……」
俺のふとした疑問にカイジンも頭を悩ませる。
しかしよくよく考えてみれば、この世界に暮らす魔獣達が俺の世界でも知られているというのは、なんとも不思議な話であった。
そんなことをしばらく考えていると、黙り込んでいたカイジンが何か思いついたようで顔を上げる。
「これは仮説であるが、灯がこの世界に迷い込んだ様にこちらの世界の魔獣も何度かそちらの世界に迷い込んだのではないか?後はこの世界にやって来た異界人が、こちらで得た情報をそちらへ持ち帰ったか。まぁこの辺りが無難な答えぜよ」
「なるほどな、まぁ無くはないか……」
俺はカイジンの考えを頭の中で吟味してみて、その結論が妥当だと判断する。
だがしかし、そんな中で俺は1つ嫌な予感が過ぎっていた。
もしも俺のいた世界にも昔は魔獣が普通に暮らしていて、今俺達がやろうとしているように世界から切り離したのだとしたら……。
いや、そんなことはありえない。俺達のやっていることは間違っていないはずだ。
もうこれ以上このことを考えるのはよそう。
「どうしたのだ殿?顔色が悪いみたいであるが……」
「ああいや、何でもないよ。さぁ!それよりも空で暮らす魔獣をもっともっと仲間にするぞ!」
「うむ!承知したぜよ!」
カイジンに心配されてしまった俺は、慌てて気持ちを切り替える。
こうして俺とカイジンは、その後も魔獣探しに邁進するのでった。
――
シンリーチームは、彼女の故郷であるなつかしの迷いの森へとやって来ていた。
ここには俺も仲のいい魔獣が多いので非常に楽しみである。
「はぁー、ここの空気も久しぶりだけど全然変わってないわねー」
「嬉しそうだなシンリー」
久しぶりに森へ訪れたシンリーは、めいいっぱい深呼吸して森の空気を堪能していた。
やはり長い間暮らしていただけあって思い入れも深いのだろう。
「シンリーはもうこの森に来れなくなるのは嫌か?」
「まぁちょっと寂しさは感じるわ。でも、それ以上に私はダーリンのそばに居たと思うし、そこを新しい故郷にすればいいんだからそんなに心配しなくていいわよ」
「……やっぱり優しいなシンリーは、ありがとう」
シンリーは俺の心の内を全て見透かしており、その上で何一つ包み隠さず答えてくれた。
いつも振り回されることは多いが、なんだかんだで彼女の優しさに救われている時の方が多いのだろう。
「ふふっ、改まっちゃってー。ダーリンったら可愛いわねー!」
「茶化すなよ、ったく」
シンリーは幸せそうな笑みを浮かべて俺の腕に擦り寄ってくる。
子どもっぽい見た目に似合わず言動が大人びているから、相変わらずアンバランスであった。まぁそれこそが彼女の良い所でもあるのだが。
と、そんな風にシンリーと会話しながら森を散策していると、前方から何者かが高速で飛来してきた。
「懐かしい気配がすると思って来てみれば、やはり灯であったか!久しぶりだな!」
「よおイル、久しぶりだな」
俺達の前にやって来たのは、細長く鋭い鉤爪が特徴的なハエっぽい見た目の女性イルである。確か2つ名は魔蟲王だったかな。
「突然帰ってきて一体どうしたというのだ?全く、事前に言ってくれれば宴の1つも用意していたというのに。よし!今からでも虫達を集めて早速準備をさせよう。おい皆集まれ!我らが主のお帰りであるぞ!出迎えの準備をせよ!」
イルは久しぶりに俺と再会したのが嬉しいのか、畳み掛けるように捲し立ててくる。
こんなに喋るやつだったかな。
「ちょっとあんた少しは落ち着きなさいよ!ダーリンが困ってるでしょ!」
「むっ!こ、これは申し訳ない……。再会出来たのが嬉しくてつい、はしたない所を見せてしまったな……」
結局最後にはシンリーに叱られ、どうにか落ち着きを取り戻してくれた。
まぁ俺も久しぶりに会えたのは嬉しいのだし、彼女の気持ちも分からなくはないがな。
「まぁそんな気にするなよイル。あっ、そうだ、お前から貰ったイビルももう随分とでかくなったぜ。出てこいイビル!」
「ギギッ!」
俺は以前にイルからイビルを貰ったことを思い出し、話題を逸らすにも丁度いいだろうと呼び出した。
「うむ、立派に成虫もしているな。立派な名を頂いたみたいで何よりだ」
「ギギッ!(イル様の教えは守っているでござるよ!)」
イルはイビルと話しながらも、頭を撫でてやったりととても仲良さげである。
そうして再会を喜びながら森を進んでいると、またも懐かしい顔ぶれがやって来た。
「ナツカシイコノニオイ、アカリカ」
「ボオォ!(魔人様も一緒であるか。お久しぶりですじゃ)」
片言で喋っているのは、イルと同じく人間によって実験に使われた魔獣ゴブリンで、その隣ではシンリーがよく座っていた切り株の魔獣も一緒にいる。
確かあいつは以前シンリーに椅子って呼ばれてたな。
ともかくこれで、この場所に迷いの森の3強が揃ったことになる。
「あー椅子じゃない、久しぶりね」
「ボオォ(魔人様もお元気そうで何よりですじゃ)」
「まぁね、そうだ久しぶりにちょっと座らせなさいよ」
「ボオォォ!(もちろん、喜んで務めさせて頂くじゃ)」
シンリーはかつての下僕の頭に、久しぶりに腰を下ろして心地よさそうにしている。
そう言えば初めてシンリーと会った時もあんなふうにしていたっけな。
しかし、今見てみると、切り株の魔獣がシンリーをあやしているようにしか見えないのはちょっと面白い。
「ダーリンも一緒に座る?」
「いや、遠慮しとくよ」
「えー、視線が高くなって楽しいのにー!」
「はは、また今度な……」
やっぱりその言動からも、孫がおじいちゃんと遊んでるようにしか見えない。
あの切り株の魔獣もなかなかに紳士である。
「して、灯はなぜ森へやって来たのだ?見たところ人数も減っている様だが……」
「おっと、そうだったな。それじゃあ本題に入らせてもらうよ」
うっかり再会を楽しんでしまって目的を忘れるところであったが、イルに言われて俺は世界の創造や移住などを語った。
「――とまぁそんな訳なんだが、森の皆も俺達に力を貸してはくれないか?」
「……ふむ、それは我らにとっても好都合であったようだな」
「そりゃどういうことだよ?」
イルは俺の話を聞き終えると、考え込む素振りを見せながらそんなことを呟いた。
好都合とは一体どういう意味なのだろうか。
「実はここ最近騎士団の動きが活発になってな。冒険者共と協力して森の魔獣達を全て排除しようとする動きが目立っているのだ」
「何よそれ!?そんなの私が返り討ちにしてやるわ!」
イルの言葉に激高したシンリーが名乗りをあげる。そんな彼女の頭を切り株の魔獣はツタを伸ばして優しく撫でていた。
やっぱり立場が逆だなこの2人。
「落ち着けシンリー、今ここで王国の奴らと戦っても戦場を増やすだけだ。今は避けられる戦いは避けないと」
森の魔獣達のことは心配であるが、だからといって森を巡って殺し合いなんて俺はしたくない。
避けられる道があるならその道を進めばいいのだから。
「うむ、正直な所我らもこれ以上人間と戦うのは少々部が悪くてな。だから是非灯達に協力させてもらえないだろうか?こちらからもお願いする」
「ああ、この森の連中は皆強いからな。頼りにしてるぜ!」
「うむ、よろしく頼むぞ!」
こうして俺達は、迷いの森の魔獣達を仲間にすることに成功したのだった。
灯達の魔獣探しの旅はまだまだ続く。
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