7章 1.俺の大切な仲間

 帝国が王国に宣戦布告するより、1ヶ月前――




 エミヨンの軍勢に完敗した俺は、タイムドラゴンのリツに救われ現在は竜の島にいるらしい。




「リツ様はとても優しい方で、私達をここへ避難させて下さったのですよ」




 意識の無かった俺を付きっきりで看病してくれていたメルフィナ王女は、えらくリツのことを絶賛していた。


 彼女は目が見えないからリツの声だけで判断しているのだろうが、その正体を知ったら心底驚くのだろうな。




 ちなみに彼女の側近であるステラとへレーナはタイミングの悪いことに用事があったらしく、今ここにはいない。




「助かったよリツ。それで他の連中は今どこなんだ?」




「他の方々は別の場所で話し合いをしています。呼んできますか?」




 リツ曰く皆は別の場所で話し合いをしているらしい。恐らくは現状の把握と今後の方針が議題だろう。


 それなら俺も参加しないわけにはいかない。




「いや、いいよ。それなら俺が行った方が早そうだ」




「ダメですよ!灯様はまだ安静にしていなくては!」




「悪いなメルフィナ王女、そうも言ってられないんだ。それに俺ならもう大丈夫だからさ」




「でも……」




 皆の所へ行こうとする俺を、メルフィナ王女は必死に止めようとしてくる。


 俺の身を案じてのことだろうが、起きた直後に比べるとだいぶマシになってきたので、もう心配しなくても大丈夫だと伝えた。


 俺は起きたのが最後らしいから、いつまでも寝ている訳にはいかないのだ。




「分かりました。それなら私が肩を貸して差し上げまからね」




「助かるよ、メルフィナ王女」




 俺の頑固な態度にやがてメルフィナ王女の方が折れ、俺は彼女の肩を借りて皆の所へ向かう。




「それではついてきなさい」




 俺とメルフィナ王女はリツに案内されて、洞窟の一室を出て通路を進む。


 周囲は薄暗いが、リツの鱗が薄らと紫色に光っているお陰で転ぶことも無く歩き続け、やがて少し広々としたドーム状の空洞へ出た。




 そこは松明が等間隔で内部を照らしている為、通路よりもだいぶ明るくなっている。


 そしてその中央で、俺の大切な仲間達を発見した。




「あっ!ダーリン目が覚めたのね!」




「よう、シンリー。相変わらず元気だな」




「ご主人様、おはよう」




 俺を一番に見つけたのは、やはりシンリーであった。シンリーは俺の姿を発見するや否や勢いよく駆けてき、その後ろをドロシーもついて来ている。




「随分と遅いお目覚めじゃねぇか大将よ」




「心配しましたわよ、貴方様」




「悪い悪い、この世界の生活には慣れてきたとはいえ、元は貧弱な高校生だったんだから許してくれよ」




「んん?何言ってんだ大将?」




「何でもねーよ」




 自分の体力無さが恨めしくてつい自虐的になってしまったが、学生なんて言っても彼らにはさっぱり分からなかっただろう。




「クウー!(灯―!)」




 魔人達と軽く話をしていると、クウがどこからともなく飛んできた。


 クウのやって来た方向は俺の出てきた通路とは逆側で、恐らく外から駆けつけてくれたのだろう。




「うおっと!ははっ、クウ、お前も元気そうで安心したよ」




「クアッ!(うん!灯はもう元気?)」




 強烈なクウのタックルを受けて少し意識が飛びかけたが、ここで倒れるわけにはいかないと言い聞かせ、どうにか踏ん張る。




「ああ、俺ももうバッチリだぜ!他の皆は外にいるのか?」




「クウ!(そうだよ、皆は外で遊んでるけど、クウは灯の匂いがしたから飛んできたの!)」




 クウの柔らかい体毛を撫でながら、その元気そうな姿や他の仲間達のことも聞けて、俺は胸を撫で下ろす。


 毒に侵されていたようだからかなり心配はしていたのだが、皆思ったりよりも元気そうであった。




「灯、もう体はいいのか?」




「ゼクシリア王子!はい、まだ少しダルいですがもう心配はいりません」




「そうか、それなら良かった……」




 クウと久しぶりにじゃれあっていると、いつの間にか目の前にいたゼクシリア王子も声をかけてきた。


 王子は、俺が起きたことに少し嬉しそうな表情をしていたが、すぐに暗い表情になる。


 その理由に俺は心当たりがあった。恐らくは殺害された皇帝のことが彼の心を苦しめているのだろう。




「今ここにいる皆と、今後の方針を話し合っていたところだ」




「はい、分かっております。ぜひ自分も参加させて頂きます」




「ああ、それはもちろんだ。だがその前に、少し2人で話をしたいのだが」




「分か、りました……」




 すぐにまた話し合いに戻るのかと思ったが、ゼクシリア王子は俺と2人きりで話がしたいと言い出した。


 俺は少し戸惑いながらも、メルフィナ王女の肩から離れて王子と共に洞窟の隅へ移動する。




「話というのは他でもない、父上と兄上についてのことだ」




「はい……」




「灯も目の前で見ていただろうから周知の事実だろうが、我が父はあのエミヨンとその部下によって崩御なされた。更にはその数日前に、兄上である第1王子グラジエラ兄様も殺害されていたのだよ」




「だ、第1王子までもですか……!?」




 皇帝が殺されたということは知っているが、第1王子までもが殺されていたとは知らず思わず驚きの声を上げる。


 ゼクシリア王子は自分の身内の死を悔やみ、そしてエミヨンを恨み憎悪に満ちた顔をしていた。




「父の仇は必ず取る。これは私の使命なんだ」




「……了解です」




ゼクシリア王子の決意に俺が水を指すことなんて出来るはずもない。


俺は王子の言葉に頷くことしか出来なかった。




「ああそれと、俺と話す時にももう敬語はいらん。どうせ俺達家族はもう、あんなことがあったのだから帝家でも無くなっているだろうからな」




「そう……、か?分かった、ならこれからはため口で話すことにするよ」




「うむ、その方が私も気が楽だ」




 口調を変えたことで距離がぐっと縮まったのか、ずっと暗い顔をしていたゼクシリア王子、いやゼクシリアの顔にも少し笑顔が戻った。


 やがて話を終えた俺達は、皆の元へ戻っていく。




「さあ、灯も目を覚ましたことだし、一先ずはこれまでのことをおさらいするとしようか。っと、その前に先に紹介したい人物がいるんだった」




 ゼクシリアがこの場を仕切り話を切り出したところで、俺の目の前に座っている見覚えのない女性2人が目に入る。


 彼女達は凄く怖い形相でゼクシリアを睨みつけていた。まるで自分達のことを忘れるなと言わんばかりに。




「灯、紹介しよう。私の双子の姉であるセルフィナ・マルキス・ジーナ・エインシェイトとネルフィナ・マルキス・ジーナ・エインシェイトだ」




「よろしくお願いしますね、灯さん」




「初めましてだね灯君!君のことはメルフィナから色々聞いてるよー」




「ちょっ、姉様!?余計なことは言わないで下さいよ!」




 ゼクシリアの姉であるセルフィナとネルフィナの挨拶に、珍しくメルフィナ王女は声を荒らげて噛み付く。


 こういう場面は余りみないから新鮮味がある。




 そう言えば、あの戦場では余裕がなかったから触れられなかったが、なにやら見覚えの無い女性が2人いると思っていたんだけど、まさかそれが王女様方だったとは。


 竜の島なのに帝家が4人も居るなんて多過ぎじゃないか?




 それにしても、3姉妹の名前がセルフィナ、ネルフィナ、メルフィナとは。


 顔や髪の色もよく似てるし3つ子と言われても信じてしまいそうな程よく似た姉妹である。




「竜胆 灯です。魔法師団ではメルフィナ王女の護衛を務めておりました。よろしくお願い致します」




「ふふっ、そんなに畏まらなくていいんですよ」




「そうそう、私達もメルと同じように接してよ!」




「……分かったよ、それじゃあ今後ともよろしく」




 双子の王女2人も敬語は無用とのことなので、俺はお言葉に甘えて口調を崩す。


 敬語や礼儀作法には自信が無いから、正直こっちの方が有難いしな。




 と、そうしてセルフィナ、ネルフィナと話をしていると、2人の後ろに凛と佇む女性2人が目に入った。


 そう、彼女達はメルフィナ王女の護衛中、共にメルフィナ王女の側近を務めていたステラとへレーナである。




「2人も元気そうで何よりだよ」




「いえ、これも灯様や魔獣様方が守って下さったお陰です」




「灯君も元気そうで何よりだよー」




 ステラとへレーナにも声を掛けると、2人は相変わらずの口振りで返してきた。


 亡くなった人は多いが、それでも顔馴染みの人物が無事だったことに俺は少し安堵する。




 こうして、仲間達の無事を確認した後ようやく本題へ移ることとなった。


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