6章 34.集結
クリスの赤雷龍に対抗するため、ライノとガロンド隊の3人は必殺技を発動させた。
ライノとティニシアは両手斧を巨大化させて龍に正面からぶつかり、ヘルドゥーマは槍を伸ばして龍の胴体に巻き付け、横へ軌道を逸らすように引っ張る。
そしてガロンドは、地面から無数の青い刃を突き出させると赤雷龍の行動を阻害するように、体にまとわりつかせた。
「ぐおぉ……!」
「負け、るかぁ!」
ガロンド、ライノは各々武器に全力で魔力を注ぎ龍を抑え込む。
だが、それでもクリスの龍は勢いが止まることはなかった。
ライノは1人でいる時はどうにか打ち勝ったが、その時よりも龍の強さが数段跳ね上がっているようだ。
「くそっ、さっきのが全力じゃなかったってのかよ……!」
先程との龍の強さの違いに、ライノは驚き隠せないでいる。
「だ、だめです隊長、この龍強過ぎる!」
「もう、腕がもたない……!」
想像以上の龍の強さに、ヘルドゥーマとティニシアは限界が近づいていた。
これ以上ここで踏ん張っていてもライノ達に勝機は無いだろう。
「ふざけやがって、こんなんで全滅なんてさせてたまるかよ!」
誰もが龍に飲み込まれると悟った時、ガロンドは1人声を荒らげながら地面から新たな青い刃を突き出させた。
しかしその矛先は、目の前の龍ではなく味方4人である。
龍だけに意識を注いでいた味方4人は、まさか横から攻撃を受けるとは思っておらずガロンドの峰打ちをもらい、全員横へ大きく吹き飛ばされてしまった。
「こんな龍に全員がやられる必要なんかねぇ。俺1人いりゃ充分だ!」
ガロンドの峰打ちを受けたことで、4人はクリスの龍の射線から逃れられた。
しかし、最後まで1人で龍を抑えていたガロンドは当然回避など間に合わず、1人クリスの必殺技が直撃する。
彼の放った最後の言葉だけがライノ達の耳に強く木霊していた。
「隊長―!」
「ガロンド隊長、何で自分だけ!」
先程自分達がいた所を龍が通り過ぎた後、地面に倒れているガロンドに駆け寄ったティニシアとヘルドゥーマは目に涙を浮かべながら抱き抱える。
「ガロンド、お前……」
ライノもゆっくりとガロンドの側へ歩み寄り、嘆きと感謝の篭った言葉が零れる。
そして、ガロンドの覚悟を受け止めたライノは力強い眼差しでクリスを見据えた。
「仲間を庇ったか」
「ああそうだ、クリス先輩の龍もガロンドには勝てなかったようだな」
「ふむ……、まぁその者の行動を予測出来なかったのは私の失態だ。ここは負けを認めておこう」
クリスはライノの言う通りあっさりと負けを認めた。この辺りに感情を乗せないあたりが実に彼らしいとライノは思う。
だが結局それは感情の問題であって、お互いの実力差が埋まった訳では無い。
そのことからクリスには未だ余裕が見られた。
「しかし、2度龍を凌いだとはいえお前達は魔力もギリギリで戦う力はもうほとんど残っていないだろう。無駄に長引かせただけでお前達もここまでだ」
クリスは刀を突き出すと、ライノ達に勝利を宣言した。その目には一切の迷いが無く、自身が勝つことが当たり前だということを物語っている。
だが、そんなクリスに対しライノは気圧される様子もなくて薄く笑みを浮かべていた。
「確かにあんたにとっちゃ無駄な時間稼ぎかもしれねぇが、全部が全部無駄ってわけじゃねぇぜ」
「それはどういう意味――」
ライノのセリフにクリスは疑問を抱き問いかけようとしたその瞬間、ライノの横に数人の人影が現れたことに気づく。
そして、それと同時に自身の上に巨大な何かが同時に出現したのも目に入り、彼の言葉は途中で遮られた。
『ラアアァァァー!』
クリスの真上に出現したのは桃色の輝きを全身に纏った龍であった。
桃龍は歌声のような美しい鳴き声と共に、クリス目掛け真っ逆さまに落下する。
クリス共々地面に強く衝突した勢いで、彼の周辺にはもくもくと土煙が舞い上がり視界は塞がれた。
「ようライノ、お前さん随分と苦い戦闘をしているようじゃの」
「助かったぜ、セシリアの婆さ――」
「あぁ?」
「セ、セシリアさん!助かりました」
ライノはうっかり口を滑らせそうになったが、セシリアの本気の殺意の篭った視線を受けて咄嗟に訂正した。
「なははっ!無事で何よりじゃよ!」
ライノが言葉を訂正すると同時に、セシリアの殺気は嘘のように無くなり楽しそうな笑い声を上げていた。
そう、先程クリス目掛け龍を放ったのは青軍セシリア隊隊長である、セシリアだったのだ。
「ライノ隊長、随分と酷い格好ですね」
「へっ、無様な姿を見せちまったな。隊長として申し訳ねぇ」
セシリアと共に駆けつけてきたアマネの場に似合わぬ明るい口調に対し、ライノも情けなく苦笑いをするのみであった。
「ここには2人で来たのか?」
「はい、そうですよ」
ライノの質問にアマネは淡々と答えた。
セシリアと一緒に来ているのはアマネのみであり、先程行動を共にしていたデリシアは一緒ではなくなっている。
「途中まではあと1人おって民間人を避難させておったんじゃがな、もう1人のうちの隊の子と遭遇したので、民間人の避難はそっちに任せたんじゃよ」
アマネの言葉に付け足すように、セシリアが説明を加える。
人数の増えたセシリア達は、護衛をデリシアともう1人の仲間に任せ先程の戦闘で逃がしたレゼントを追っている途中、この戦地に行き着いたのだ。
「ま、ここに来たのはわしらだけじゃないようじゃがな」
セシリアはそう言いながら脇の路地に親指を向け、ニヤリと笑みを浮かべる。
その悪どい笑みを不信に思いながらも、ライノ達はそちらへ目を向けると、路地からぞろぞろと4人の騎士が姿を現してきた。
「ここが戦場だ、全員気を引き締めろよ」
「やっと着いたか」
「ディーク君無理したら魔力切れで脱落しますから後衛にいてください」
「はは、それをディークが聞くとは思えないな……」
4人は統率など一切無く、各々自由に発言しながらライノ達の戦場へと駆けつけてきた。
「あ、マリス君―!」
「アマネ先輩、それにライノ隊長も何で揃ってるんですか!?」
アマネはマリスの姿を見つけた瞬間、一目散に駆け寄る。
マリスは自分の隊のメンバーが全員いることに驚いて、目を見開いていた。
「さぁな、俺が知るかよ」
「なんか、複雑そうですね」
ライノの投げやりな言葉でマリスは何となく状況を察し、苦笑いを浮かべる。
「ディーク、あなた無事だったんですね」
「こっちは酷い惨状だな」
「あのクリスって人の強さが無茶苦茶で、僕らは隊長のおかげでどうにか助かったけど、あとは皆脱落したよ」
ガロンド隊の隊員であるディークは、同じく隊員であるティニシア、ヘルドゥーマと合流していた。
ディークは、地面に寝そべり気を失っている隊長や、少し離れた所でやられている隊員2名に目をやる。
ガロンド隊にいて仲間意識の薄いディークであるが、それでも同じ任務をこなしてきたチームメイトが気を失っている姿を見て、少しばかりの憤りを感じていた。
「レグザー、無事であったか」
「はい、隊長の申し付け通りマリス君達と民間人の救助を優先して動いておりました」
「そうか、よくやったぞ」
レグザーは隊長であるフレシアと合流し、これまでの活動を報告している。
「なんか、私だけ1人だな……」
そんな中唯一の赤軍騎士であるエルフルーラは、皆が仲間と話し合っている間1人謎の寂しさを感じていた。
と、青軍の騎士達が合流している中ようやくクリスの周辺に立ち上っていた土煙が収まり、姿がだんだんと見えてくる。
そしてそこには、当然のように無表情で佇むクリスの姿があった。
「桃色の龍、フレシアか。また面倒な奴が増えたな」
「申し訳ないです、どうやら俺が引き連れてしまったようで」
「いや、構わん。どうせ倒すべき相手なのだからここに集まってきたのなら好都合さ」
クリスの横には、もう1人の3騎士であるレゼントの姿があった。
フレシアの桃龍は彼の盾が防ぎ、そのおかげでクリスは無傷であったのである。
こうしてクリス、ライノの戦場に騎士は集結し、いよいよ勇者選別本戦も大詰めとなってきた。
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