6章 33. 気合いで突破

「だあぁーー、疲れたーー!」




「全くだ……」




 ようやく戦いが決着し、マリスは全身の力が抜けたのか地面に倒れ込む。


 そんな彼の横にディークもゆっくりと腰を下ろした。




 と、そこへ2人と協力していたもう2人の仲間が駆けつけてくる。




「おっ、もう終わったのか?」




「マリス君、足速すぎです……」




 エルフルーラとレグザーは、少し息を切らしながらもマリス達の傍に駆け寄る。




「うん、どうにかね。2人ともありがとう」




「ああ、今回は助かった」




「いえ、これも務めですから」




 マリスは2人の女性に素直に礼を言い、ディークも渋々ながら感謝を口にする。


 基本独りよがりな彼にしてはめずらしいことだ。




「やはり、マスプ様だったか……」




 ただ1人、赤軍であるエルフルーラだけは倒れているマスプを見つめて少し申し訳なさそうな表情をしている。




「あ、そう言えばエリーは赤軍だったのか。ごめん、仲間同士で争わせることになっちゃって……」




「別に構わんさ、この決勝に元々仲間などのシステムは無いからな。それに、私は彼女の無差別的な戦い方が最初から気に入らなかった。もし1人でいたとしても彼女とはどのみち対立していただろうさ」




 マリスの申し訳なさそうな謝罪に対し、エルフルーラは笑ってそう言い聞かせる。


 彼ら4人は偶然共闘しているとはいえ、この決勝本戦自体に仲間という概念は無い。


 だから誰が誰と手を組み、誰と戦おうがそれは騎士の自由なのだ。


 マリスはそんなエルフルーラの答えにほっと胸を撫で下ろす。




 と、1戦を終えて一休みしている一同の元に、どこかから激しい戦闘の音が響いてきた。




「まだ別の場所では戦闘が続いているようですね」




「みたいだな」




「うん、それじゃあ行こっか」




 その音を耳にした瞬間、マリスとディークは流れるように立ち上がった。




「おい、まだ休んでいた方がいいんじゃないか?」




「いや、そうしているうちにどんな被害が出るか分からないからね。体が動くうちに出来ることは全部やりたいんだ」




 心配するエルフルーラに対し、マリスはまだ戦えるという意思を示すように剣を振りながら答える。




「ディーク君はもうマリス君との戦いはいいのですか?」




 そんな中でレグザーは空気を読まず余計なことを聞き出した。


 そう言えばディークとは戦闘の途中だったと思い出したマリスは、咄嗟に冷や汗を流しながらディークの方を向く。


 が、そんなマリスに対しディークからは戦闘の意思は一切感じられなかった。




「マリスには助けられた借りがある。それを返すまでは決着はお預けだ」




 最初に2人に矢が降ってきた時、それにいち早く気づいたマリスはディークを庇いながら避けていた。


 彼はそのことを内心根に持っていたのだ。




「借り?そんなのあったっけ?」




「ふん、俺の問題だ。貴様は気にしなくていい……」




 マリスはディークを庇ったことなどすっかり忘れていたので、何のことかさっぱり分かっていない様子だった。


 ディークとしてもあまり覚えていてほしいことではないので、好都合だったからそのまま深掘りせず話を区切る。




「まぁ戦力が増えるに越したことはないだろう。ならすぐに向かおうか」




「了解!」




「分かりました」




「ああ……」




 エルフルーラの声に3人はそれぞれ返事をし、新たな戦場へ向かおうとする。




 と、その直後マリスは足元に何か落ちているのが目に入った。




「これは……、剣の柄?でも、随分と錆びてるな」




 持ち上げてみるとそれは、刀身が無くマリスの持つ魔剣とよく似た剣であった。


 しかし形状は少し違い、全身に茶色い錆が付着し酷く汚れていたのだ。




「昔の騎士の魔剣とかかな?でも、何でこんな所に


 ……」




「おい、どうしたマリス?置いて行くぞ!」




「あっ、ごめん!すぐ行くよ!」




 昔の騎士の魔剣なのか、何故こんなスラム街の一角に放置されているのか、疑問は湧き出てくるが、エルフルーラに呼ばれそんな思考は一瞬で頭の片隅に追いやられる。




(ま、終わったら隊長にでも聞けばいいか)




 マリスは1人そんな結論を出すと、錆びた剣を腰のベルトに差し込み、3人の元へ急いで駆け寄る。


 目指すは新たな戦いの場だ。




























 ――


























 時は少し遡り、マリスとディークが共闘してマスプとの戦闘を繰り広げている頃、ライノとガロンド隊とクリスの戦闘は激しさを増していた。




「隊長、あいつ何やっても無傷っすよ!」




「やっぱクリス先輩強すぎるな……」




 ヨコヤティオの弱音ににガレストロも同意する。


 片手剣使いの2人は連携してクリスを相手に果敢に攻めていたのだが、その攻撃を全て防がれていることに嘆いていた。




「落ち着けお前ら、連携を続ければいずれは勝機も見えてくるはずだ!」




 ガロンドは弱音を吐く隊員達の士気をどうにか高めようと鼓舞するが、結局良い言葉は出てこない。




「分かりました、行きますよティニシアさん!」




「えぇ!」




 そんなガロンドの意図を汲んでか、ヘルドゥーマとティニシアは2人で攻めに出た。


 いつまでも立ち止まっていたらクリスの剣技によって全員一瞬で散ってしまう。


 だから攻撃の手を止めるわけにはいかないのだ。




「はあぁ!」




「せえぇい!」




 槍使いのヘルドゥーマと、斧使いのティニシアはその武器の大きさを活かし、クリスの刀の届かない位置から一方的な攻めを仕掛けようとする。




「ぬるいな」




 しかし、そんな攻撃はクリスの速さの前では何の意味もなく、攻撃は軽々と受け流されその勢いのまま懐へと詰め寄られてしまった。


 敗北を直感したヘルドゥーマとティニシアは顔を青く染める。




「やらせるか!」




 だがクリスの刀が届く直前に、ガロンドの鎌が2人の間を割って入りギリギリのところで攻撃を防ぐ。


 ヘルドゥーマとティニシアはどうにか脱落をま逃れた。




「今だライノ!」




「おう、任せろ!」




 ガロンドがクリスの刀を抑えている隙に、ライノも距離を詰めていた。


 2人の武器が交差している今なら、クリスは攻撃を防ぐ術はない。


 そのチャンスを狙ってライノは両手斧を上段から勢いよく振り下ろした。




「まだまだだな……」




 しかし、クリスはライノの斧を確認するとガロンドの鎌を刀で引っ掛け、腕力で無理やり横へスライドさせ盾にした。




「なっ、危ねぇっ!」




「ごわっ!」




 ライノは咄嗟に斧の起動をずらしてガロンドへの直撃を避けたが、それでも体の勢いまでは止まらず2人は衝突して仲良く地面に転がる。




「複数人で攻めてきてこの程度か。先程までの威勢はどこへ行った?」




 クリスは地に伏せる2人を見下すように一瞥した。


 クリスは相変わらず無表情ではあるが、ライノとガロンドはその言葉に悔しさを募らせる。


 しかし、現状手も足も出ないのは事実であり言い返すことが出来ず、2人は強く唇を噛んでいた。




「もういい、これ以上の戦いは無意味だ。すぐに片付けてやろう」




 クリスは表情を変えることなく、地面に伏せるライノ達目掛け作業のように淡々と刀を振り下ろす。




「させないっす!」




「2人は下がって!」




 だがそんなクリスの刀は、ヨコヤティオとガレストロの盾によって防がれた。


 そしてその隙に地に伏せる2人をティニシアとヘルドゥーマが回収する。


 隊員4人のお陰でライノとガロンドはどうにか助かった。




「……いい加減この数は鬱陶しいな。太刀起動『轟雷烈龍牙』」




「うおぉ……!」




「ま、真ん前かよ……」




 だが、いつまでも数が減らないこの状況に若干の苛立ちを見せたクリスは、何の躊躇もなく必殺技を発動させたのだった。


 クリスの言葉で刀から赤き雷が全身を包み込む、龍が出現する。




 クリスの刀を直接盾で抑えていたヨコヤティオとガレストロは、真っ先に赤雷龍の直撃を受け一瞬で意識を刈り取られた。




「くそっ、必殺技を起動させただけで2人がやられるなんて……!」




 地面に倒れ気を失っている2人を一瞥して、ガロンドの心は怒りと焦りが渦を巻いている。




「た、隊長、あれどうします?」




「んなもん知るかよ。おいライノ、お前さっきはあれどうやって凌いだんだよ?」




 目に薄く涙を浮かべながら尋ねてくるティニシアを素っ気なく突き返すと、ガロンドはライノに何か対策は無いか問う。


 だが、そんなガロンド達の期待を裏切るように、ライノは笑って言うのだった。




「気合いで突破だ!」




「「「……」」」




 ライノの答えに、ガロンド隊の3人は呆れて言葉を失ってしまう。


 まさかそんな脳筋戦法で龍を突破したとは、夢にも思っていなかったのだから。




「大丈夫大丈夫、俺達4人の必殺技をぶつければあんな龍一瞬で消し飛ばせるぜ!」




 そんな3人を相手に、ライノは明るい口調と笑顔で元気づけようとしてくる。


 だが残念ながら、その目は明らかに笑ってはいなかった。




 しかしいつまでも目の前の龍から目を背けている訳にもいかないので、4人は腹を括り各々武器を構える。


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