6章 17.勇者装備争奪戦

 勇者選別の予選トーナメントは終了し、勝利した上位2名は最初に集合していた場所に集められた。




「あっ、マリス君!おーい!」




「アマネ先輩!先輩も勝ち上がってたんですね!」




「おーっすお前ら、無事勝てた見てぇだな」




「隊長もでしたか、流石です!」




 ライノ隊からは隊長であるライノ、そしてアマネとマリスが決勝へと勝ち進んでいた。




「まぁ他の連中は全員予選落ちしたみたいだがな」




「それは仕方ないですよー、なんたって青軍の精鋭が勢ぞろいしてたんですよ?むしろ私達だけでもよく勝ち上がれたってもんですよ」




「けっ、まだまだ鍛え方が足りなかったようだな。これが終わったらみっちり扱いてやる」




「あはは……、まぁ程々にしてあげましょうよ」




 ライノは自分の隊のメンバーがたった3人しか勝ち上がっていないことが不満らしく、苛立ちを顕にしていた。


 そのトレーニングの矛先が自分に降りかかると察したマリスは、どうにか隊長を宥めようとしている。




「なんだライノ、そっちはたったの3人しか決勝に行けてねぇのかぁー?」




「ちっ、ガロンドか。何の用だよ?」




 絶賛ご立腹中のライノに声をかけてきたのは、彼の同期でありライバルでもあるガロンドだ。


 彼等は何かある度に張り合っては喧嘩しており、非常に仲が悪い。




「へへっ、別に大した用はねぇさ。ただ一応報告をと思ってな」




「報告だぁー?」




「うちの隊から決勝へ進んだのは6人だったってのを、一応伝えておこうと思ってなぁ〜」




 ガロンドはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら背後に指を指す。


 そこにはガロンド隊のメンバーと思われる騎士達が5人居た。隊長であるガロンドを合わせると6人。どうやら彼は自分達の方が多いいということを自慢しに来たらしい。




「けっ、そんなことをいちいち言いに来たのかよ。お前も随分と暇なんだな」




「へははっ!そんなこと言ってバレバレだぞ?本当はうちの隊の方が人数が多くて悔しいんだろ〜。しかも2倍だからな、2倍!こりゃ目を背けたくなるのも無理はねえってもんだ」




「ペラペラとよく喋るたぬき野郎だなぁ!その舌引っこ抜いてやろうか?」




「へっ、やれるもんならやってみろよ。負け犬の脳筋バカが!」




 両者の口論はだんだんとヒートアップしていき、今では顔を突合せて激しく火花を散らしている。すぐにでも殴り合いの喧嘩に発展しそうな勢いだ。




「おいマリス、予選は俺の負けだったが、次はこうはいかないからな」




「ディーク君。もちろんさ、僕だって負けないよ」




 ガロンドの近くに寄ってきてたらしいディークが、マリスに宣戦布告をする。見ての通り、彼はガロンドの隊のメンバーだったのだ。


 予選ではギリギリのところでマリスが勝利したが、10回戦えば勝率は大きく変動していただろう。それぐらい両者の実力は均衡していたのだ。


 2人もまた、静かに闘志の炎を燃やしている。




「皆さんお静かに!これより予選通過者の発表と決勝の説明をさせていただきます!」




 ガロンドとライノが互いに武器に手をかけた時、正面の台から大きな声が響いてきた。


 そこには最初の男性ではなく別の女性が立っており、数枚の紙と拡声用の魔道具を装備している。


 今度は彼女が勇者選別を取り仕切るらしい。




「まずは予選通過者、計16名を発表致します!」




 予選トーナメントは8ブロックに別れており、そこから各2名ずつが決勝へとコマを進めることが出来る。


 これに赤軍の16名も合わせた合計32名で決勝戦を行うのだ。




「拡大紙起動!」




 司会の女性は、そう声を発しながら片手に持っていた数枚の紙に魔力注ぎつつ天に向けて投げる。


 すると紙達はみるみるうちに大きくなっていき、空中で停止した。


 これも王国の開発した魔道具で、こういう掲示や会議のメモ用紙として、更には訓練士たちに対する講義にも役立っている。


 そしてその紙には、各トーナメント毎の上位2名が記載されていた。




 ―――――――――――――――――――――――


 第1トーナメント


 1位、ガロンド隊ガロンド


 2位、セシル隊ノイザー




 第2トーナメント


 1位、ライノ隊アマネ


 2位、フレシア隊レグザー




 第3トーナメント


 1位、セシル隊セシル


 2位、ガロンド隊ヘルドゥーマ




 第4トーナメント


 1位、ライノ隊マリス


 2位、ガロンド隊ディーク




 第5トーナメント


 1位、ライノ隊ライノ


 2位、フレシア隊ケリド




 第6トーナメント


 1位、フレシア隊デリシア


 2位、ガロンド隊ヨコヤティオ




 第7トーナメント


 1位、フレシア隊フレシア


 2位、ヤシルバ隊ヤシルバ




 第8トーナメント


 1位、ガロンド隊ティニシア


 2位、ガロンド隊ガレストロ


 ―――――――――――――――――――――――




 トーナメント表から結果を整理すると、上からガロンド隊6名。フレシア隊4名。ライノ隊3名。セシル隊2名。ヤシルバ隊1名だ。




 ちなみに第7トーナメントには多くの隊長が揃っていた激戦区であり、そこから勝ち上がった2名の隊長の実力は相当高いものである。


 フレシアとヤシルバは青軍でもトップを争う猛者達と言えよう。




「けっ、なんだよガロンド。随分と自慢してた割にお前のところは2位通過が多いじゃねぇか。1位通過なら俺達の方が上だな」




「馬鹿言ってんなよ、これはうちの隊の実力が均等だってことの表れだろうが。俺の教育の賜物だよ」




「はっはっは!そりゃつまり全員平均レベルだから決勝は勝てなくても仕方ないってことか?始まる前から言い訳かよ!」




「ふん、個々ではなく集団で戦うことこそ騎士の本質。本物の戦場では俺達こそが最後まで戦い抜けるのさ。先を見据えぬ馬鹿には分かるまい」




 トーナメント表を見るやいなや、再びライノとガロンドの間で口論が始まった。


 もうお互いの班員達も、呆れて止めようとすらしていない。それだけこの2人の喧嘩は日常茶飯事なのだ。




「では続いて決勝本戦について説明致します。決勝はここにいる青軍16名と、別会場で予選を通過した赤軍16名を合わせた32名全員で行う、バトルロイヤル形式となっております」




「バトルロイヤルか……」




「へへっ、こりゃうちの隊が1番有利だな」




 バトルロイヤルという言葉を聞き、ライノは新たな戦いを脳内でイメージしだす。


 対するガロンドは、薄らと笑みを浮かべていた。バトルロイヤルという全員が戦場に立つ戦いは、同じ隊員の多いガロンド隊に有利な内容なのだ。


 なぜなら、勝者は1人だが他の隊を倒しきるまで協力出来るという、大きなメリットがあるからである。




「ステージは王都にある廃墟区を使用し、そこのどこかに優勝者に与えられる勇者装備、「勇戦闘者」が隠されています。勝利条件は2つ。対戦者31人を戦闘不能にするか、先に勇戦闘者を見つけ装備したものが優勝者となります!」




「バトルロイヤルかつ、勇者装備争奪戦って訳なのか。これは大変そうだなぁ……」




「そう?私は楽しみだなー」




 決勝の説明を聞いたマリスは、以外とやることが多いその内容に不安な声を上げる。そんな彼の横でアマネは楽しそうに、決勝を今か今かと待ち構え眩しい笑顔をしていた。




「決勝では、廃墟区をぐるりと囲む様に無作為にスタート位置にスタンバイしてもらい、予選トーナメント1位の方から順にスタート致します!」




 決勝はまず、予選1位のものがステージを囲む様にスタンバイし、同時に廃墟区へ入る。そしてしばらくした後に2位通過者のものが同時にスタートするというシステムだ。


 これが、予選2位が1位に対するハンデということになる。




「決勝は明後日に行われます。皆様、予選での疲労をしっかりと癒し、全力で決勝戦に望んでください!」




 最後に決勝の開始日を説明した司会の女性は、静かに舞台から降りていった。


 その場にいる予選通過者達は、決勝の内容を聞きビリビリと空気を振動させる程意気込んでいる。




「これは、決勝荒れそうだな……」




 マリスはそんな周囲の空気に若干圧倒されながらも、自身も己の剣に手を添え決意を新たにした。


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