6章 5.壊滅

 体の奥底から指先目掛け激しく駆け巡る魔力。やがて指先へ到達した魔力は外界へと放たれ、激しい雷鳴と共に天を貫いた。




「なるほど、心は落ち着かせつつ、しかし同時に力強さも必要。その上で川のようによどみなく目的の場所へ流すか……」




 結局メルフィナ王女達の言っていたことは、全て真実だったということだ。




『ピィッ?(何か分かったんですか?)』




「まぁな、皆には感謝しないと」




 ここ数日の特訓と、メルフィナ王女、へレーナさん、ステラさん、そしてゼクシリア王子のアドバイスのおかげでようやく何かを掴んだ気がした。


 俺はやっと前進したことに心を躍らせながら、馬車の中へと戻る。




「失礼します、ただいま戻りました」




「灯様、どうだったのですか?先程凄い音がしましたが……」




 車内に戻ると、メルフィナ王女が不安そうな顔で俺の方に顔を向けていた。


 突然出ていったと思ったら、次の瞬間には爆音が鳴り響いたのだ。


 心配するのも当然だろう。彼女には申し訳ないことをしたな。




「ご心配おかけして申し訳ございません。でも、おかげでようやくコツを掴めた気がしますよ」




「へぇー、どうやってやったの?」




「それは教えられないですけど、やっぱり皆さんのくれたアドバイスは正しかったみたいですね」




「ほらー、だから言ったでしょ?」




「感謝してますよ」




 ステラさんは褒められたのが嬉しかったのか、胸を張って上機嫌になっている。


 どうやったかは教えるわけにはいかないから、気を逸らしてくれてありがたい。




「ともかく何か掴めたようで良かったです」




「はい、でもまだ自分自身で成功した訳では無いので、まだまだ鍛錬は必要ですけれどね」




 そう、今回はいつもと同じくライチの力で雷撃を放ったに過ぎない。


 それを通して魔力が体内をどう流れているかは理解出来たが、自分で出来るようになった訳では無いのだ。


 まだまだ特訓の日々は続くだろう。




「ふふっ、灯様は頼もしい仲間が沢山いらっしゃるのに、努力家なんですね」




「いつまでも何も出来ない自分が嫌いなだけですよ。俺――自分だって、本当は悪い奴らからクウ達を守れるくらい強かありたいんです」




 力を求めているのは本心だ。だが、どう足掻いてもこの世界じゃ俺は底辺の存在であることに変わりはない。


 魔力も持たない俺にやれることなんかたかが知れている。


 でも、それでも諦めてはいけないんだ。クウ達を失わない為、友の笑顔を守る為、俺は僅かな希望にも手を伸ばし続けるしかない。




 そうして俺はメルフィナ王女達に声援を送られながら、この日も魔力操作の特訓に没頭した。


























 ――




























 旅の最終日、今日の昼頃には魔法学園へ到着するとあって、今朝はなんだか皆そわそわしている気がした。


 コツを掴みながらも、結局昨日は1度も成功しなかった魔力操作に、俺は今最後の追い込みをかけている。


 到着したら本格的に護衛に専念しなければならないので、特訓をしている暇はない。


 掴んだコツを逃さない為にも、何としてもこの数時間で成功させなければ。




「頑張って下さい灯様!」




「はい!」




「もっと気合を入れなさい!」




「はい!」




「力み過ぎもダメですよ。頭の芯は常に冷静に!」




「はい!」




 俺はメルフィナ王女達の力強い声援を背に、全身の魔力に神経を集中させる。


 魔法学園までの距離はもう後5キロも無い。時間的にはこれがラストチャンスだ。




「はあぁぁぁ!」




 力の限り声を張り上げ、魔力を操作させようと促す。




 と、その瞬間ほんの僅かだが魔力が動き、右手に集約しだした。


 手のひらに集まった魔力はソフトボールくらいの大きさになる。だが、それらは少ししたら跡形のもなく霧散してしまった。




「い、今のは……!?」




「……おめでとうございます灯さん。魔力操作、成功です」




「や、やった……!」




 へレーナさんの口から成功という言葉が出た瞬間、俺は思わず拳を握り締め喜びに体を震わせる。




「良かったね灯君!」




「凄いですよ灯様!たった数日で魔力操作を成功させるだなんて!」




「ははっ、皆さんの尽力あってのことですよ」




 この成功は俺1人じゃ到底成し得るものではなかった。


 メルフィナ王女達のアドバイスがあったからこそ、俺はこの短期間で、魔力操作を成功させることが出来たのだ。


 俺は彼女達に精一杯の感謝を込めて深く深く頭を下げる。




「皆さん、本当にありがとうございました!」




「ふふっ、何言ってるんですか。灯様の諦めない心が成功を呼び寄せたのですよ」




 メルフィナ王女は照れているのか頬を赤く染め、それでも嬉しそうに満面の笑みを見せている。




『ピィー!(やりましたね!)』




(へへっ、ライチもここ数日協力してくれてありがとな)




 俺の中で喜びに震えているライチにも、心の中でお礼を言う。ここ数日はずっと融合して付き合わせていたからな。


 とはいえまだ成功したのはほんの一瞬だ。もっと特訓を重ねて、精度の高い戦闘で役に立つ魔力操作を身につけなくては。




 と、そんな和やかな雰囲気が流れている車内に、突然プルムの叫び声が響いた。


 その内容は、出来れば1番聞きたくなかったものである。




「!(敵襲!攻撃されてるよ!)」




 その声を聞ける者は俺だけで、それはすなわち自体の窮地にいち早く反応出来たのが、俺だけだということを示している。




「っ!」




 俺はプルムの言葉を聞いた瞬間、頭で考えるよりも早く反射的に馬車の外に飛び出た。


 勢い余ったせいで馬車の扉が少し歪んでしまった気がしたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


 俺は慌てて周囲に目を配り、迫っているという敵を捜しだす。


 だが、おかしなことに前後左右どこを見渡しても、敵の姿は影1つ見つからなかった。




「!(そっちじゃない!上だよ!)」




「うえ……、か……」




 遅れて窓からはい出てきたプルムの叫び声で慌てて空に目をやった俺は、そのあまりの脅威に言葉を失う。


 そこには隕石かと見間違うほど巨大な岩が、この馬車の一団目掛け迫っていたのだ。




「ぐっ、ヴァジュラぁ!」




 考える余地もない。今すぐにあの大岩を破壊しなければ、俺達はあれの下敷きになって死ぬ。


 本能でそれを直感した俺は、両腕を天に構え全力の雷撃を放つ。


 だがその一撃は、大岩の表面を軽く砕いただけで、破壊するどころか貫通すらしなかった。




「くそっ!硬すぎるだろ!」




「任せて」




 俺が思わず愚痴を零していると、ドロシーが背後から飛出てきて泥弾を連射する。


 更には馬車団の前方付近でゼクシリア王子の護衛をしていたシンリー、ガンマ、シーラの3人も出てきて、魔人4人による総攻撃が放たれた。


 魔人達の威力は相変わらず絶大。これならもう少しすれば大岩を碎くことは出来るだろう。




 だが、残念ながらその岩の存在に気づくには、俺達は遅すぎた。


 大岩を破壊することには成功したが、その破片は流星群の様に一団目掛け降り注ぐ。




「クウ!」




 岩の雨が馬車に襲いかかる中、俺はモンスターボックスを掴みそう叫んだ。


 ここ何日かは味わっていなかった、竜の蹄との奴らと戦っていた時のような死の恐怖。


 そしてあの時のゴーレムと同じ岩というこの状況がから、かつてあの窮地を救ってくれたクウの名を叫んでいた。




 こうして魔法学園を目指していた皇帝と王子、王女の一行は、突如現れた巨岩によって壊滅させられたのだった。




















 ――






















 馬車団が壊滅する光景を遠くの木の上から、楽しげに眺めている人物が1人いた。




「くはははっ!さてさて、どうするんすか皇帝、王子達、魔法師団、そして……魔人達!」




 魔人の存在を知り、この程度では死んでいないだろうという確信と共に不敵な笑みを浮かべていたのは、かつてアディマンテの右腕として動いていた男、フリー・ワグ・ネストラングである。


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