6章 2. 俺と同じ体質
「灯様、そろそろ皆様を紹介して下さいな」
「あれ?まだ紹介してませんでしたっけ?」
「はい、いつも急場でしたのでそういった話をする余裕もありませんでしたから……」
もうメルフィナ王女の前では何度も仲間達を出しているから忘れていたが、よく考えればそれは全て戦闘時であって忙しいのもあり、特に紹介はしていなかった。
「分かりました、それでは自分の仲間達を紹介しますね」
「はい!お願いします」
メルフィナ王女は新しい魔獣と知り合えるのが嬉しいようで、いつもよりも若干テンションが高い気がする。
俺も自分以外で魔獣と仲良くしている人はあまり知らないので、そういった知り合いが増えるのは喜ばしい。
俺はメルフィナ王女の要望に応え、クウ達を順番に紹介していくのであった。
「クウー!」
「コォーン!」
紹介が終わった後、最初こそマナのことを警戒していたクウも今はすっかり仲良くなった様子で、楽しそうにじゃれあっている。
そんな様子を眺めていると、自然と心が洗われるようだ。
「そう言えば灯様、なぜあのパーティー会場で海でしか活動できない魔獣の匂いがしたのでしょうか?」
「あー、えーと……」
メルフィナ王女は何気ない会話のつもりで話しかけてきたのだろうが、彼女はいちいち俺の急所を突いてくる気がする。
魔獣使いのことはバレていても、まだ融合出来ることに関してはバレていていないし、こっちの秘密はなんとしても守らなければならない。
ここはどうにか上手く誤魔化すしかないな。
「イナリは一瞬だけなら地上に出れて、あの時は少々力不足だったのもあり少し協力してもらったんですよ」
「なるほど、そういうことだったのですか。納得です」
メルフィナ王女は俺の誤魔化しを信用してくれた。勘は鋭いが信じやすい性格で助かったようだ。
「クウー」
「わっ、ど、どうしたのでしょう!?」
メルフィナ王女にイナリのことを説明していると、突然クウが彼女の膝の上に乗ってきた。
いきなりだったので、メルフィナ王女は心底驚いている様子だ。
「クァー(この人優しい匂いがするー)」
「ははっ、どうやらメルフィナ王女はクウに気に入られたみたいですね」
「クウー(うん、この人好きー)」
「そ、そうだったのですか。なんだか嬉しいです……」
メルフィナ王女はまだ少し驚いてはいるが、それでも頬をほんのり赤く染め嬉しそうにクウを撫でている。
クウが俺か魔人以外に懐くなんて初めてで、不思議な感じだ。でも全く悪い気はしない。
もしかしたらメルフィナ王女も、俺と同じ体質なのだろうか。
「私、世界中を冒険してたくさんの魔獣と触れ合うのが夢だったんです。その夢が叶ったような気がして、私今すごく幸せです。ありがとうございます灯様」
メルフィナ王女は目が不自由なせいで、なかなか城から出る機会に恵まれなかった。そのせいか彼女は世界に対して強い憧れがあるようだ。
同じ魔獣好きでもアマネとは大違いだな。
「なんなら今度一緒に世界中を回ってみますか?自分色々な所に知り合いがいるんで」
「ほんとですか!?」
「え、えぇもちろん……」
軽い冗談のつもりで言ったのだが、メルフィナ王女が想像以上に食いついてきてしまい、そんなことを言える雰囲気ではなくなってしまった。
何気ない一言が人生を大きく左右する。なんて大袈裟だが、彼女の純粋な思いを踏みにじりたくはない。
今は色々とやることがあり忙しいが、全て片付いたらメルフィナ王女も一緒に旅に連れていくのも悪くないかもしれないな。
まぁそれには色々と問題は山積みなのだろうが。
「絶対の絶対ですよ!」
「分かりました。今は少々バタついてまして難しいですが、全て片付いたらその時は一緒に行きましょう」
俺は胸を叩いて宣言する。俺や魔人達がいるならこの世界に危険な場所などほとんど無いに等しいのだから。
「約束ですよ。ふふっ、今から楽しみです!」
俺はメルフィナ王女と小指を結び約束を交わす。彼女は可愛くはにかんで、とても幸せそうな表情をしていた。
それにしても、この世界でも指切りげんまんがあるとは驚きだ。
――
室内庭園で魔獣達と遊ぶのも終わり、1度汚れた服を着替えるために部屋へ戻ることになったメルフィナ王女一行だが、その途中でゼクシリア王子とすれ違った。
「メルフィナか、随分と楽しんだようだな」
「ゼクシリア兄様、な、なぜ分かったのですか……?」
「そんなものそなたの服の汚れ具合を見れば一目で分かるさ。大方灯の魔獣が珍しくてはしゃいでいたのだろう?」
「っ!は、はい……」
ゼクシリア王子にあっさり何をしていたか言い当てられてしまい、メルフィナ王女は恥ずかしそうにへレーナの後ろに隠れる。
「そ、それで何か御用なのですか?」
「何、別に大したことじゃないさ。ただここ数日はかなりバタついていたから、明日の準備はもう済んでいるのか気になってな」
メルフィナ王女は照れを隠すように慌てて話を逸らす。
ゼクシリア王子もそのことは察したのか、特に深く追求することもなく話題を変えた。
「明日のことなら心配はいりませんよ。へレーナ様とステラ様が朝から準備をして下さいましたから」
「そうか、それならいいんだ。邪魔したな」
ゼクシリア王子は、もう用は済んだとばかりに歩き去っていく。
擦れ違う間際、シンリーがこっちに来ようとしてたが、シーラに首根っこを掴まれてバタバタともがいていた。あいつは一体何をしているのだか。
それより気になるのはさっきの会話の内容だ。旅がどうとか言っていたが、またどこかへ向かうのだろうか。
「メルフィナ王女、明日はどこかへ行かれるのですか?」
「あら、灯様はまだ聞いていなかったですか?明日から私達はグラジエラ兄様の卒業式に参列するため、北区へ向かうのですよ」
「え、聞いてないですけど……」
卒業式って何だ?この世界にも学校的なのはあるってことか?
王国にいた頃は、そんな存在1度も聞いたことがなかったから完全に初耳だ。
グラジエラって確か第1王子だった筈だが、城で見ないなーと思っていたら、そんな所にいたのか。
「そ、そうだったのですか?私はてっきりそれがあるから灯様方を急遽呼び出したのだと思っていましたが、それは失礼致しました」
「い、いえいえ!メルフィナ王女が謝ることじゃないですよ。悪いのは何も教えなかったあの皇帝ですから」
あの皇帝、無理やり王女達の護衛につかせといて、それならその理由くらい詳しく教えとけって話だ。
明日出発だなんて急すぎるだろ。
「しかしまた旅だなんてここ数日は本当に忙しいです。久しぶりにグラジエラ兄様に会えるのは嬉しいですが、またマナとしばらく会えなくなるからと思うと、寂しいですね……」
「それなら自分が一緒に連れて行きましょうか?」
「えっ!?ど、どうやってですか!?」
メルフィナ王女が一人言のように悩みを口にしたので、何となく提案してみたが、想像以上の食いつきだった。
「どうって、まぁ自分の魔道具に入ってもらえれば連れて行くくらい簡単ですよ」
「そ、そうだったのですか。是非お願いします灯様!」
「わ、分かりました、出発までに準備しておきます……」
メルフィナ王女はマナと離れ離れにならずに済むのが嬉しいのか、食い気味でお願いしてきた。
マナにも俺の体質が影響しているだろうから何も問題は無いだろうが、ここまで喜ばれるとは思わなかったので驚きだ。
ともあれこうして、俺はメルフィナ王女を護衛する為帝国の北区へ赴くこととなった。
そこでかつてない絶望が待っていることを、俺はまだ知る由もない。
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