5章 20. あの偽筋肉男か

 ガンマの暴走を止め、シンリーが敵幹部を全員捕縛したことで、今夜の騒動は幕を閉じた。


 ただ俺達には個人的な目的があるので、幹部達は魔法師団に引き渡す前に色々と聞き出さなければならないことがある。




「さて、それじゃああまり時間も無いし手早く話を聞き出すか」




「……皇帝派に話すことなど何も無いぞ」




 反皇帝派の幹部は捕らわれたというのに、未だその目の闘志はメラメラと燃えていた。


 ただそれと話す話さないは関係無いので意味は無いが。




「何言ってんだ。捕まった瞬間自害する選択をしなかった時点でもうこっちのものなんだよ」




「は?」




「シンリー、頼むぞ」




「おっけー」




 シンリーは軽く返事をすると、男の頭の上に1粒の種を落とした。


 その種はあっという間に成長し花を開き、綺麗な紫色の大輪を咲かせる。


 これこそが、獣人族の島でシンリーが捕虜に使った事情聴取用の花だ。




「お、おい!なんだこの花は!?」




「うるさいわね、少し静かにしなさいよ。別に毒とか体に害のあるものじゃないわ」




「ふざけるな!今、す……ぐ、取れ……」




「あははっ、効いてきたみたいね」




 この花は植えられた者の魔力を吸い取って成長し、放たれる花粉は対象者に催眠作用を及ぼす厄介なものである。


 ただ摘むのは結構簡単らしいので、敵を捕縛した後でなければ使えないという欠点もあるらしい。


 ともかくこれでこいつは、もう俺達に逆らうことは出来なくなったという訳だ。




「お前達は何者だ?」




「わ、我々は、反皇帝派……、だ」




「反皇帝派の貴族は誰だ?」




「我々、の主は、アディマ、ンテ様だ」




「アディマンテの保有する獣人族は何人いる?」




「ろ、6千、人」




 ここまで聞き出した状況を整理すると、アディマンテという反皇帝派の貴族が、獣人族6千人保有しているということだ。


 想像よりもだいぶ多い獣人族の数に、俺は冷や汗を流す。




「そいつは今どこにいる!?」




「アディ、マンテ様、は今回開催され、る、パーティーの、主催者だ」




「ぶっ殺してやる……」




「落ち着けガンマ」




 ガンマの聞き出した情報自体は有難いが、若干頭に血が上ってきたっぽいので下がらせる。


 カッとなって目の前のこいつを殺されたら、たまったもんじゃないからな。




「貴族は全員何千もの獣人族を保有しているのか?」




「ちが、う、アディマンテ、様が、最も多、くの奴隷を持って、いる」




「平均はだいたい何人くらいだ?」




「せ、千人、前後、だ」




「千か……」




 貴族全員が、何千人もの獣人族を奴隷にしているのだとしたら救出が大変になるところだったので、そのアディマンテって奴だけが特別で一安心した。


 もちろん全員を救い出すとなると、最終的には何万、いや何十万になってもおかしくはないが。




「アディマンテには仲間はいるか?」




「い、る」




「誰だ?」




「ネス、トラング様、キリル、レット様、あとは、今回、は参加してい、ないがゴディ、バン様、だ」




 アディマンテは、ネストラングとキリルレットという貴族と手を組んで今回の騒動を起こしたらしい。


 誰だか知らないがこいつらを捕らえれば、更に獣人族救出の手掛かりを手に入れられそうだ。




「ゴディバンか、どっかで聞いた名前だな……」




「誰?」




「あれよあれ、獣人族の島を襲ってきた貴族。確かそんな名前だったわ」




「ああ、あの偽筋肉男か」




 ゴディバンは確か上の名前はディボーンで、俺とクウが初めて融合して戦った相手だ。


 ここに来るまでの道のりや、魔法師団に関する細かい状況等はあいつから聞き出したのでよく覚えている。


 あの時は仲間がいるかとかは聞かなかったが、こんなことなら聞いておくべきだったな。


 ちなみに相変わらず人の名前を一切覚えないドロシーはスルーしている。




「よし、これで聞きたい情報は大体手に入ったかな」




「えーと、今回敵はアディマンテ、ネストラング、キリルレットってことでしょ?」




「まぁそういうことだな。パーティーに行けば必ず会えるだろうし、何かしら仕掛けてくる筈だ。3人とも取り逃がすなよ?」




「ああ、全員捕らえて、この手で血祭りにあげてやるよ」




 ガンマも多少は冷静さを取り戻したみたいだが、発想が少し物騒だ。勢い余って殺してしまわなければいいのだが。


 ともかくこれで俺達が知りたいことは聞けたし、すぐにここを退散しよう。


 そろそろ魔法師団が駆けつけて来る頃だろうし、これ以上は危険だ。




「全員そろそろ行くぞ。俺達っぽい痕跡は隠しとけよ!」




「うん」




「はーい!」




「おう!」




 魔人3人は、各々返事をすると後片付けを始めた。


 ドロシーは泥を、ガンマはマグマを、シンリーは木の根や頭に生やした花をそれぞれ回収し終えると、すぐさまこの場を立ち去る。


 正気を取り戻した敵幹部の叫び声を背中に浴びながら、俺達は森の中へ姿を消すのだった。
























 ――
























 あの後俺の予想通りすぐに魔法師団が現れたようで、敵は全て捕縛され事態は収拾した。


 ちなみに俺を含め勝手に行動した4人は、班長達やキールにみっちりと説教を受けたわけだが。




「本来なら謹慎ものだが、今回はお前達の働きに免じて目をつぶってやる。二度と勝手な真似をするなよ?」




「「「了解です」」」




 規律違反を犯したのだから罰されてもおかしくは無いというのに、今は任務中ということや俺達の働きのお陰で免除された。


 メルフィナ王女を助けておいて本当によかったと、心の底から思う。




「ふふっ、みっちりしごかれたようですわね」




「うるせぇっ」




 俺達の説教を受ける姿を微笑ましく眺めていたシーラに悪態をつくが、あまり強くは言えずにいた。


 恐らくシーラだけ今回ハブられて、根に持っているのだろうから。


 それはそうと、その後はきっちり今回得た情報を共有しておいた。




「まだまだ波乱は続きそうですわね」




「ああ、でも確実に獣人族達の手掛かりは掴んできてるからな。後一歩だ」




「えぇ、わたくしも最後まで尽力させていただきますわ」




 シーラとも話をした後、魔法師団の任務である見張りをこなしていると朝日が昇り始めた。


 波乱の一夜が終わりを告げたのである。




「1班集合しろ!」




「「「はっ!」」」




 カローラさんの呼び掛けで見張りをしていた俺達1班のメンバーは集まる。


 ちなみにあの戦闘の後からジードとザリューが一切ちょっかいをかけてこなかったので、快適な見張りを行えた。


 ようやく分をわきまえてくれたらしい。




「昨夜の事件に関してだが、首謀者を捕えることには成功したが、情報は何も得られなかった。今後もこういった襲撃は続く可能性が高いので、全員気を引き締め直しておけ」




「「「了解です!」」」




 どうやら魔法師団は、敵の情報をほとんど聞き出せなかったらしい。


 俺達はシンリーのお陰で簡単に聞き出せたが、あの男は最初に言っていた通り本当に情報が守ったようだ。


 あの時は気にしなかったが、実は凄い奴だったのだろうか。




「ご主人様、何も教えないの?」




「ああ、誰が敵か分からない以上迂闊になことは出来ないよ」




 ドロシーは小声で俺達の得た情報を話さないのか聞いてきたが、俺はまだ魔法師団の全員を信頼している訳では無い。


 皇帝の一族は獣人族を利用してはいなかったが、全員がそうとは限らないし、中にはスパイがいる可能性もある。


 そんな様々な理由から、そう簡単に情報を開示する訳にはいかないのだ。




「それから我々第1班の任務が変更になった。今日から我々はメルフィナ王女の直近の護衛に移る」




「う、嘘だろおい!?」




「な、なぜですカローラ班長!?」




 突然の任務変更、しかも王女直近の護衛とあってジードとザリューは素で驚いていた。


 俺も内心驚いてはいるが、その原因は何となく予想が着いたので冷静でいられている。




「理由は昨夜の襲撃で王女の護衛の半数が負傷、または死亡し帝都へ戻ったことと、そこにいる灯が単独で王女を救出した功績を考慮してのことだ」




「も、申し訳ない……」




 俺は頭に片手をおいて謝罪した。ジードとザリューはそんな俺を睨みつけてくるが、俺の功績のこともあってか何も言えずにいる様子だ。




「この任務は帝都からの増援が合流するまでの一時的なものではあるが、大任であることに変わりはない。全員これまで以上に気を引き締めて望むように!」




「「「了解です!」」」




 こうして俺達は、新たにメルフィナ王女の護衛という重要な任務を背負いながら、パーティー会場である西区へと向かうのであった。


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