4章 7. 突然の再会

 ライチの背に乗り、急いでプルムの反応のあった場所へと向かう。


 あの取り引き現場では奴らを逃がしてしまったが、もしかしたら逃げる途中の奴らをプルムが発見した可能性はある。


 もしそうだとしたら、ここで確実に仕留めなくてはならない。




「皆そろそろだ。気を引き締めていくぞ!」




「えぇ!」




「うん」




「ピイィー!(了解です!)」




 ライチの飛行速度をもってすれば、町の端から端への移動などそう時間はかからない。


 あっという間に俺達は、プルムの反応のあった場所へと到着した。




「あれっ?誰もいないじゃない」




「うん、あいつらいない」




「ちょっと待て、まずはプルムを……、お!いたいた!」




 現場に到着したが、魔法使い達がいる気配はなく静かな夜である。


 俺はまずプルムと合流し、何を見つけたのか知ることにした。




「プルム、一体何があったんだ?」




「!(あっちあっち!)」




 プルムに何を見つけたのか聞こうと詰め寄るが、プルムは酷く興奮した様子で、触手を伸ばし正門の方向を示すだけだ。


 これでは何を見つけたのか分からない。




「ご主人様、あっち誰かいる」




「しょうがない、近づいてみるぞ」




「えぇ」




 ドロシーも正門に誰かいることを察知したようで身構えている。


 少しずつ近づいていくと、俺の目にも薄らとだがその人影が見えてきた。


 しかし、もう少しで正体が分かるというところで、相手側にも気づかれてしまったのだ。


 彼らは青い起動を描きながら急速に近づき、その手に持つ武器を一瞬で俺の喉元に突き立ててきた。




「あなた達何者なの!?」




「そこで止まるんだ!」




 その青い閃光と動きの速さ、そして彼女らの声音には随分と懐かしさを覚える。


 そう、彼女らはライノ隊の一員であるアマネとマリスだったのだ。




「おおっ、久しぶりだな2人とも」




「えっ、灯君!?」




「何でこんな所に!?」




 アマネとマリスは相手が俺だと分かるとすぐに武器を収めてくれたが、それでも突然の再会に驚きを隠せない様子だ。


 かく言う俺も、こんな所で彼らと再会するとは思ってもみなかったので、びっくりしているが。




「おっ、その姿灯じゃねーか。久しぶりだなー!」




「相変わらず魔獣と仲良くしているようですね」




「こんな偶然もあるものなのねー」




 アマネ達の後ろから、更に3人の騎士がゆっくりと歩いてきた。




「ライノさんにタックスさんにロイネーさんも、お久しぶりです」




「元気そうで何よりだ。それよりお前達いきなり飛び出すんじゃねーよ!」




「痛っ!ちょ、やめてくださいよー」




「すみません……」




 アマネとマリスは早速ライノさんに説教を受けている。


 アマネだけが叩かれているところを見ると、恐らく彼女がまず飛び出して、マリスは仕方なくその後を追ったという感じだろうか。


 3人の関係性も何も変わっていなくて、懐かしさを覚える。




「灯君、しばらく見ないうちに随分と仲間を増やしたみたいね」




「えぇ、あれから色々な所を旅しましたから」




「そっちの奴はもしかして魔人か?」




 ロイネーさんとライノさんは2人のことは放っておいて、次に俺の仲間達に目を向けだした。


 あの頃と比べたら俺もかなり仲間が増えたからな。




「はい、森の魔人のシンリーです」




「俺はライノだ、よろしくな!」




「……どーも」




 ライノさんはシンリーにも気さくに話しかけたが、彼女は相変わらず俺以外の人間は好きじゃないようで、素っ気ない返事しかしない。


 こんな性格の子によく俺は好かれたものだ。




「ははっ!こりゃ随分と嫌われたもんだぜ!」




「照れてるのかしら?可愛いわねー」




 ライノさんとロイネーさんは、そんなシンリーは反応にも嫌な顔一つせず楽しそうに笑っている。


 相変わらず明るい人達だ。




「あー!ドロシーちゃんも久しぶりね!」




「うん」




「相変わらず可愛いお洋服!」




「ふふん」




 ドロシー達を基本反応は薄い方だが、服のことを褒められて少し嬉しそうにしている。


 彼女が感情を表に出すのは、食事かあの服を褒められた時くらいだろう。


 最近はもうだいぶ見慣れてきたが、ドロシーは相変わらずゴスロリ衣装を着ていて、その存在感は改めて指摘されると異様に目立つ。




「そういや灯、マイラはどうしたんだ?上手く砂漠には行けたのか?」




「はい……、マイラは無事故郷の家族の元へ送り返せましたよ」




 ライノさんから不意にマイラのことを聞かれ、別れた時の寂しさを思い出してしまったが、無事故郷に帰せたことを伝えた。




「そうか……、ご苦労だったな」




「マイラちゃん、ちゃんとお家に帰れたんだ……。ぐすっ、よ、よかった……」




 ライノさんは俺の気持ちを察してか、優しく肩を叩いて労ってくれ、アマネはマイラが家に帰れたことに嬉し泣きをしている。


 魔獣好きなところは、相変わらずなようだ。




「そう言えばライノさん達はどうしてこの町に?」




「おっとそうだった。そのことで灯にも色々と話しておきたいことがあるんだ。取り敢えず場所を変えるぞ!」




 ライノさんは目的を思い出した途端、ハッとしたようにキビキビと動き出した。


 何やら相当急ぎの用があってここに来たらしい。


 結局プルムの反応で人攫い達は見つからなかったが、ともかく俺達はライノさんの後について行くことにした。






















 ――






















 ライノさん達に連れられて俺達がやって来たのは、騎士団の支部だ。


 ちなみに道中はライチに手伝ってもらい、一旦散り散りになっているプルムの分裂体は全て回収しておいた。


 この町には騎士団の支部も冒険者ギルドもあることは知っていたが、来るのは初めてである。


 案内されてやってきたのは大きい机とそれを囲むようにイスが配置された、会議室のような部屋だ。


 


「それで話したいこととは?」




「灯は竜の蹄のことは覚えているか?」




「そりゃあもちろん」




 竜の蹄とのことは忘れもしない。俺がこの世界に来たきっかけと言っても過言ではない存在だ。


 彼らとの戦いは、この世界に来てから色々なことを経験したが、その中でもダントツで辛いものだった。


 常にギリギリの戦いで、1つでも行動が違えば死んでいてもおかしくはない。




「あいつらを壊滅させた時、幹部の1人だけ捕えられなかったんだ」




「あー、確かアマネが戦ってた奴でしたっけ?瓦礫の下に埋もれて見つからなかったとか」




「そうだ。実はそいつが最近この町で目撃されたという情報が入ってな」




「えっ!生きてたんですか!?」




 俺達が戦ってた洞窟は、リーダーの赤ラインの男によって崩壊してしまった。


 死亡は確認されていないが、アマネが倒したはずの黄ラインの男は気を失っていたから逃げられるはずもないということで、死んだと判断されたのだ。




「ああ、灯この町に来てたなら、それっぽい奴を見てないか?」




「うーん、そう言われても……、正直あいつは一瞬見ただけだから特徴とか覚えてないんですよね」




 黄ラインの男とは、俺はそこまで関わりは無かったので記憶は朧気だ。


 もうあの特徴的なローブは脱いでいるだろうから、見つけるのは至難の業。


 ちょっと見ただけの俺ではすれ違っても判断はでき兼ねる。




「あいつは雷系の魔法を使うのよ。それっぽい魔法だけでも見なかった?」




「雷……?あ、そう言えばついさっき雷のオオカミと戦ったな」




「そいつよ!」




 アマネのヒントで先程の戦いを思い出しそのことを話すと、アマネに思いっきり身を乗り出して指を刺された。


 どうやら、あの時突然現れた雷のオオカミを操っていたのは、竜の蹄の生き残りである黄ラインの男だったようだ。


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