4章 3. テンプレっぽいこと

 砂漠地帯のオアシス「サラジウム」を出発してから2日目、今日も俺達は時間短縮為ライチの背に乗って飛行している。




「どうだライチ、まだ行けそうか?」




「ピイッ!(はい、まだまだ飛べます!)」




「よーし、ならもう少し頼むぞ」




 ライチには昨日に引き続き今日も飛んでもらっている。


 朝から本人はまだまだ飛べると息巻いていたが、無理をして体を壊してしまっては元も子もないので、今日は午前中だけにしてもらう予定だ。


 そして午後からの移動は、もう砂漠地帯も抜けているのでグラス達にお願いしている。


 彼らの走力はこれまでの旅で十分理解しているので、かなり頼りにしている。




「ご主人様、あとどれぐらいで着くの?」




「そうだな、昨日はライチのお陰で予定よりだいぶ距離を稼げたから、明日の夕方辺りには着くんじゃないか?」




「思ってたよりもだいぶ速いわね」




「まあな、移動速度をギリギリまで上げるために馬車まで置いてきたし」




 子供達を救う為には何がなんでも速さが必要だった。


 だからその為に荷物は必要最低限に抑え、軽量に軽量を重ねたのだ。


 まぁ予想よりもだいぶ速かったおかげで、何か特別な移動方法でもしていない限りは、すでに人攫い連中を抜かしているだろう。


 後はこのまま港町に先回りし構えておくだけだ。




「そろそろ昼だな。ライチ、下りるぞ」




「ピイッ!(了解です!)」




 気づけばもう昼前になっていたので、ライチに地上に下りてもらう。


 ここから先は、グラス達の背に乗って地上を駆けていくのだ。




「ここまでありがとうなライチ。あとはゆっくり休んでくれ」




「ピイィー(はい)」




 地上に下りた俺は、ライチの首元を撫でながらお礼を言った。


 ライチも納得はしてくれたが、どうやらまだ飛び足りなかったようで少し不満そうに声を漏らす。


 この件が片付いたら、そのうちゆっくり空の旅をしてみるのも悪くないかもしれないな。


 そんなことを思いながらライチを撫でた後は、モンスターボックスからグラス達を呼び出した。






「出てこいグラス、ホーン、ミルク!」




「「「ブオォォー!」」」




 グラス達は気合い十分に雄叫びをあげながら飛び出してくる。


 3匹とも砂漠地帯ではほとんどモンスターボックスの中で過ごしていたからか、久しぶりに大地を駆け回れるので嬉しそうだ。




「ご主人様、早くご飯にしよ」




「はいはい分かったよ。シンリー準備を頼む」




「はーい」




 グラス達を触診して体調に異変がないか確認していると、ドロシーにせっつかれた。


 彼女はいつも食事のことしか頭に無いのだろうか。なんだか少し心配になってくる。




「ダーリン草用意したわよー」




「ありがとうシンリー、じゃあグラス達、たっぷり食べるんだぞ」




「「「ブオォォー!」」」




 グラス達の食事はシンリーに用意してもらい、俺達は機能の牛の残りを食べる。


 そうして手早く食事を済ませた俺達は、グラス、ホーン、ミルクの背に3人乗り出発した。


 ここから2日間は、グラス達に乗って地上を進む。




















 ――




















 グラス達の背に乗って移動を始め2日が過ぎ、予想通り夕方辺りに港町「ブリンデラ」に到着した。


 町の中へは、冒険者カードを掲示するだけで簡単に入れる。


 身分証としても使えるので非常に便利だ。




「ふーん、ここが港町かー。なんか変な香りがするわね」




「潮の匂いだろ。シンリーは嗅いだこと無いのか?」




「うん、花の香りなら嗅ぎ分けられるんだけどねー」




「そ、そうか……」




 シンリーは花を誇らしげに胸を張っていた。だが、そのエピソードは悲しすぎるだろう。


 森に篭もって花の香りを嗅ぎ回ってるシンリーの姿を想像しただけで心が痛い。




「あれ?もしかしてダーリン、私のこと馬鹿にしてる?」




「し、してないしてない!」




「怪しいわね……」




 シンリーに変な同情をしていると、妙なふうに勘違いされてしまった。


 疑ってくるシンリーに必死に弁解していると、誰かが俺の袖を引いてくる。


 ふとそちらに目を向けると、なんとドロシーがだらしなくヨダレを垂らしながら俺に上目遣いをしてきていたのだ。




「ご主人様、もう耐えられない」




「わ、分かったから、一旦落ち着――」




「もうダメ、我慢できないの」




「その言い方はやめてくれ!誤解されるだろ!」




 上目遣いで体に擦り寄ってくるドロシーのその態度は、周りから見れば妖艶な雰囲気を漂わせており、その言動も相まってあらぬ誤解を受けられそうだ。


 対して当の本人である俺は、ヨダレだらだらの女子にすがられているだけで、何も嬉しくない。


 いいことなんて何も無い子の状況、早く打開しなければ。




「あー、ドロシーずるい!ダーリンは譲らないわよ!」




「ちょっ、お前までくっつくなよ!」




「いーやー!ダーリンは誰にも渡さない!」




 ドロシーだけでも大変だと言うのに、更にシンリーまで混ざってきては収拾がつかなくなる。


 面倒なことになる前に、どこでもいいから早く適当な店に入ってドロシーをなだめよう。


 そうすればシンリーも落ち着いてくれるはずだ。




 ――そう思っていたのだが、残念ながら俺が行動するよりも1歩早く、厄介事が舞い込んで来てしまった。




「おいおいにーちゃん、そんな可愛い女の子を2人も侍らせて随分と幸せそうじゃねえか〜」




「なあなあ、2人もいるんだから1人くらい俺たちに分けてくれよぉ」




 町中で騒ぎ過ぎたのか、とうとうガラの悪い連中に絡まれてしまった。


 この世界に来てから、何気にこういう絡み方をされたのは初めてなので、新鮮ではあるが面倒なことに変わりはない。




「おいおいお前ら、そんなことをガキに興味あるのか?」




「へへっ、たまにはこういうのも乙なものなんだぜぇ〜」




「はっ、確かにいいかもな」




 男達は下卑た笑みを浮かべながら、もう後のことを想像してか楽しそうに会話をしている。


 確実に俺達のことを格下に見ており、負けることなど微塵も想像していないのだろう。


 まぁ俺相手なら余裕で勝てるのは事実だが。




「……」




「……」




 そんな目線を向けられたドロシーとシンリーはと言うと、男達にこれまで見たことがないほど冷ややかな目線を向けている。


 男達はまだ気づいていないようだが、彼女達は静かにその目に憎悪と怒りを込めていた。




「なぁあんた達、俺を馬鹿にするのはいいけど、この2人に絡むのは止めた方がいいと思うぜ」




「……ぷ、はーっはっはっは!」




「こいつ何馬鹿なこと言ってんだよ!」




「寝言は寝て言えよなー!」




 優しさのつもりで男達にそう進言したのだが、彼らはそれを聞くと互いに目を合わせると、一拍の間の後盛大に笑いだした。


 残念ながら俺の忠告も意味はなく、彼らはドロシー達にしか興味は無いようだ。




「ちっ、やっぱり人間はクズしかいないわね。本当に鬱陶しい連中だわ」




「何この人達?食べていいの?」




 2人とも男達の態度に相当苛立っているのか、もう我慢も限界に近いのだろう。


 俺だけではもう止めることも出来そうにない。




「はぁ……、ドロシーシンリー、やり過ぎるなよ」




「それはこいつら次第ね」




「うん」




 ドロシーとシンリーは静かに、しかし明らかな怒りを込めて静かにそう答えた。


 一応やり過ぎないように言っておいたが、どうなっても自業自得だ。後は彼らの幸運を祈るだけ。




 ドロシーとシンリーは、地面を強く踏みつけた。


 その瞬間、地面から泥と木の根が一斉に噴き出させ、一瞬で男達は絡みとられる。


 気づいた時には、男達は自由を封じられていた。


 口も塞がれ言葉を発することも許されない。塞いでいるのはシンリーの根なので、彼女にとって彼らは相当不快だったのだろう。




「さて、こいつらどうしよっか」




「うーん、食べても美味しくなさそう」




「確かに、養分にするにしても不健康そうだしねー」




 ドロシーの食べるという単語を聞いて、男達の顔が一瞬で青くなる。


 さっきまで、馬鹿みたいに笑っていたとは思えないほどの変わりっぷりだ。




「そいつらもまだ何もしてないんだから、町の外に放り投げる程度にしてやれよ」




 絡んできたのは彼らからだったとしても、まだ何かされたわけでもないので、そのくらいがちょうどいいだろう。


 その辺に放ったら、色々といちゃもんを付けられそうだし。




「それもそうね」




「分かった」




 ドロシーとシンリーもそれで納得してくれたようで、すぐさまシンリーが腕を伸ばしてフルスイングで放り投げる。


 男達はあっという間に空の彼方へと消えていった。




 異世界に来てからそろそろ3ヶ月経つが、ようやくテンプレっぽいことが起きた。


 意外とこういうことにも憧れていたので、少し嬉しかったりする。


 まぁこんな経験は1回で十分だし、二度と御免だが。

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