3章 9. お前の名前、今日からライチな

 新たにサンダーバードを仲間に加え、俺達は渓谷を進む。


 サンダーバードはデカすぎて馬車に乗らないので、少し上の方を自由に飛んでもらっている。


 それを羨ましく思ったのか、クウも珍しく一緒に飛んでいた。


 クウが飛んでる姿はあまり見ないので、非常に珍しい。


 サンダーバードの背にはマイラとプルムも乗っていて、馬車は少し寂しくなっている。




「さて、ぼちぼちサンダーバードの名前を考えようかな」




「どうするの?」




「サンダーバードは雷鳥とも言うしな……。ライチョウだから、ライチにしよう!」




 日本にも雷鳥という鳥はいたが、それとは全く別物だ。


 あっちの雷鳥は雷のなる日に出歩くから雷鳥と呼ばれているだけで、こっちの雷鳥は雷を操るから。


 全く意味が違う。




「相変わらず適当」




「適当じゃねーって」




「私はいいと思うわよ!」




「はいはい、ありがとうな」




 ドロシーの評価は厳しいものだが、シンリーはいつも通り褒めてくれる。


 もうこれもいつものことなので、慣れたものだ。


 もうネーミングセンスでどうこう言われても、気にしないことにしよう。




「おーい、サンダーバード!」




「ピィ?」




 上空を飛んでいるサンダーバードに、大声で呼びかけて確認をとる。




「お前の名前、今日からライチな!」




「ピイィー!」




 ライチという名前を、サンダーバードは気に入ってくれたみたいだ。


 嬉しそうに鳴いて旋回して、馬車の上をクルクルと回っている。




「よーし、これからお前はライチだ!よろしくな!」




「ピイィー!」




 こうしてサンダーバードもといライチと共に、渓谷を突破して行く。














 ――














 ライチに出会ってから早いもので3日が経過した。


 現在俺達は渓谷の終わりに来ている。




「とうとうここまで来たわね」




「ああ、途中は危ない時もあったけど、後半はあっという間だったな」




「ライチのおかげ」




 前半こそバーンドラゴン戦では、油断もあり死の危険を感じた場面もあった。


 しかし、後半は全ての古竜をライチが蹴散らすものだから、洞窟と同じくゆるい旅になった。


 というかほとんどの古竜は、ライチを見た瞬間脇目も振らず逃げてたしな。




「ありがとうなライチ」




「ピイッ!」




 馬車の隣に立つライチの頭を撫でると、ライチも嬉しそうに目を細めた。




「でもライチのせいでご飯減った」




「しょうがないだろ。食い扶持が増えた上で、古竜が皆逃げるんだから。それでもドロシーは十分食べただろうが」




「全然足らない」




 ドロシーは頬を膨らませて怒ってきたが、こっちも引くつもりは無い。


 量が減ったと言っても、これまでの量からたった2割程度減っただけだし、活動には問題無い量を食べている。


 ドロシーは単純に食いすぎなのだ。




「そんなに食ってたら太るぞ」




「私は太らない」




「魔人は体型変わらないからね……」




 ドロシーを窘めるつもりで言ったのだが、俺の言葉を聞いたシンリーが落ち込みだした。


 胸の辺りを撫でながら、虚しそうな顔をしている。


 思わぬ所で二次被害が起きてしまった。




「ご、ごめんなシンリー」




「謝らないでよ!余計虚しいじゃない!」




 せめてものつもりで謝罪したのだが、結局シンリーは涙目で怒ってきた。


 彼女が怒るのは久しぶりに見るが、鬼気迫る感じがしてかなり怖い。


 魔人に体型の話はタブー。このことは俺の脳裏にしっかりと焼付けておこう。




「よ、よし!気を取り直してこれからの話をしよう!」




「うん」




「分かったわよ……」




 これ以上この話は危険だと判断した俺は、無理やり次の話題に移った。




「分かってると思うが、ここから先は砂漠地帯だ。洞窟や渓谷と比べてもかなり厳しい環境になってくる」




 ここから先は、広大な砂の大海である砂漠地帯。


 これまでの旅とは比べ物にならないほど、過酷なものになってくる。


 今までは強力な魔獣や凶暴な魔獣にさえ気をつけていれば、比較的安全だった。


 しかし、これからは魔獣ではなく環境が俺達の敵となる。


 灼熱と極寒が昼夜襲ってくる厳しい世界だからこそ、気を引き締めて挑まなければならない。




「砂漠という環境は非常に恐ろしい所だからな。引き連れる魔獣も選抜させてもらう」




「まぁそれが妥当よね」




「仕方ない」




 俺達の仲間には、砂漠という環境と相性の悪い者もそこそこいる。


 だからそういった者達には今回、安全な場所に出るまでの間、常にモンスターボックスの中にいてもらう。




「ここから先一緒に行くのは、俺、ドロシー、シンリー、クウ、マイラ、グラス、ホーン、ミルク、ライチだ。他の皆は申し訳ないけどモンスターボックスの中にいてもらう」




 スライムのプルム、幼虫のイビル、ヘビのアオガネは砂漠を一緒に歩いていると、干からびる可能性がある。


 だからここからはしばらくモンスターボックスの中で大人しくしてもらう。


 グラス、ホーン、ミルクの3匹は、馬車を引かなければならないから序盤は頑張ってもらうことになる。


 だが、砂漠で馬車を引けそうな魔獣を仲間に加えたら、すぐにモンスターボックスに入ってもらう。


 彼らは元々草原に生息する魔獣だから、これ以上の無理はさせられない。




「分かったなお前ら」




「!」




「シャー……」




 プルム、イビル、アオガネの3匹は悲しそうな表情をしていたが、物分りは良いので納得してくれた。


 実際もう既にかなり暑くて、3匹とも辛そうだしな。




「グラス、ホーン、ミルクも悪いな。すぐに対処するから少しの間頑張ってくれるか?」




「「「ブオォッ!」」」




 グラス達には少しの間辛抱させるが、プルムとかとは違って多少は砂漠も耐えれるので、少しだけ頑張ってもらう。


 彼らもまだまだ気合いは十分のようだしな。




「よし、それじゃあ砂漠用に準備を終えたら早速出発するぞ!」




 俺の号令で一同は動き出す。


 まずはシンリーに頼んで、馬車の御者席の上に木陰を作ってもらう。


 網目状に細い枝を伸ばし、その間に葉を密接に生やすことで、グリーンカーテンならぬグリーンルーフを用意してもらった。


 これなら砂漠の鋭い日差しを防げるし、重さもほとんどないので、グラス達の負担にもならない。


 ついでに客車の窓を増やし風通しを良くして、砂漠仕様馬車の完成だ。




「ありがとうなシンリー」




「これぐらいお手の物よ!」




 シンリーに馬車を改造してもらったら、次は俺自身の装備だ。


 俺は早速荷台部分から、買い出しておいた砂漠用の道具を取り出す。


 まずは大きめのローブ。


 これで昼は日差しを防ぎ、夜は暖を取れる。砂漠の寒暖差に対応した薄緑色のローブだ。


 魔道具では無いが、丈夫で肌触りのいい生地が使われているそこそこ高価な物だった。




 そして保冷クリーム。


 これは体に塗ることで、熱を弾き冷気を留めておくことが出来る特殊なクリームとなっている。


 この世界で砂漠を渡る際は、必須とされているアイテムの1つだ。


 1度塗れば半日は持続する。


 これを一緒に行く魔獣達にも順番に塗ってやる。


 魔人は暑さなんてあまり気にならないらしく、彼女達は塗らなかった。


 その他必要な物を装備したり馬車に取り付けたりして、準備は完了した。




「よしこれで終わりだ」




 自分の準備が終わったので皆の方を振り向くと、シンリーが妙な格好になっていた。


 全身が草に覆われていて顔が見えない。


 急に1本の木が生えてきたのかと、一瞬勘違いしてしまった。




「シ、シンリーどうした?」




「どう?これなら絶対に日差しを通さないでしょー」




「光合成はいいのか?」




「何言ってるのよ。そんなのこの周りの葉が勝手にやってくれるわ」




「ああ、なるほど……」




 日焼けせずに光合成も出来る、何とも効率的な格好のはずなのに、見た目が不気味過ぎて一気に残念になる。


 非常に勿体ない格好だ。


 まぁ本人が満足しているみたいなので、何も言わないでおくが。




「よし!それじゃあ早速砂漠に行くぞ!」




「うん」




「ええ!」




「クウー!」




「ガウガウ!」




「「「ブオォー!」」」




「ピイィー!」




 全員の気合いの入った声を聞きながらグラス達に指示を出し、俺達はとうとう砂漠地帯へと足を踏み入れた。


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