3章 5.渓谷地帯へと足を踏み入れた
洞窟に入ってから、はや5日が経過した。
道は全てアオガネに一任しているが、未だ洞窟の終わりは見えない。
だが、これは別に迷っている訳ではなく、元々この洞窟はそれほど長いのだ。
最短距離で出口に向かっても1週間はかかる上に、中の構造は迷路のようになっているので、何も知らずに迷い込んだら脱出は不可能。
そんな洞窟なのだ。
「はぁー、とは言えそろそろ太陽が恋しくなってきたな」
「そうね、私も体のほとんどが植物だから、こう何日も日光を浴びてないと少し辛いわ」
「あー、やっぱ光合成とかしてるんだ?」
「ええ、私は何も食べなくても太陽と水があれば数十年は生きられるの」
「そりゃ凄い」
俺達の戦力だと、洞窟内は危険がほとんど無かったので、5日も経つと退屈になって会話も適当になってくる。
元々このハクラン山脈の洞窟で最も危険なのは、内部で迷うことであった。
しかし、俺達にはその心配が無いから、途端に安全になってしまったのだ。
色々と最悪の事態を想定して準備をしていたのだが、ほとんど無駄になってしまった。
まぁそれは別にいいのだが。
「そろそろ美味いものが食べたいな……」
もっと大きな問題は食料面である。
洞窟内には、食べれる生物自体は多く生息しているのだが、それはただ食べれるというだけで美味しくはない。
クモ、コウモリ、ヘビという異様なラインナップに、この5日間でだいぶ限界が来ていた。
ヘビやコウモリに関しては、最初こそ珍味として楽しめたが、それが毎日ともなると辛くなってくる。
洞窟内で調理にもあまり火を使えないから、煮るくらいしか出来ないし。
「ダーリン大丈夫?なんなら私が木の実でも出してあげよっか」
「いや、まだ大丈夫だよ。この後渓谷に砂漠と続くんだから、こんな所で音を上げてちゃ生きていけない。もう少し頑張るさ」
「ダーリン……、頑張って!」
これからまだまだ辛い環境は続くのだから、弱音を吐いている暇はない。
そしてらなぜかシンリーは、目に涙目を浮かべながら応援してくれている。
泣くほどのことを言ったつもりは無いのだが。たまに彼女の考えがよく分からない時があるな。
「シャー!」
「ご主人様、出口が見えたよ」
「本当か!」
そうこうしている内に、先頭を進むとアオガネとドロシーから出口が見えたとの報告が来た。
彼らは2~30m程先を進んでいるのでまだ俺達には出口が見えないが、これは嬉しい知らせだ。
通常なら最短でも1週間はかかると聞いていたが、案内役にアオガネを仲間にしたことが、功を奏したのだろう。
数分もしないうちにアオガネとドロシーに追いつき、俺達にも洞窟の出口が見えてきた。
「おお、久し振りの太陽の光だ!」
「やったわねダーリン!」
5日ぶりに見る太陽の光に俺の心は昂り、思わず駆け出したくなる気持ちをぐっと堪えて、アオガネ達の元へゆっくりと追いついた。
「想定よりだいぶ早いな。ありがとうアオガネ」
「シャー!」
俺は道案内をしてくれたアオガネの頭を撫でた。
裏側はザラザラツルツルとした肌触りで気持ちいいが、上側は青黒い金属質の鱗が硬くてちょっと痛い。
それにしても、2日も時間を短縮出来たのは、一重にアオガネの道案内あってのことだ。
彼がいなければ、もっとこの洞窟に時間を取られていた可能性もあるからな。
今回アオガネには沢山助けられた。
「この先は渓谷、古竜の縄張りだな……」
「そうね」
「楽しみ」
シンリーは太陽の光に喜んではいるが、古竜自体にはあまり興味が無いようだ。
ドロシーはめずらしくテンションが高い。
きっと古竜が食べられるから楽しみなのだろう。
「さて、アオガネにはここまで案内してもらったけど、ここでお別れかな」
「シャ、シャア!?」
「一緒に連れて行くわけじゃないし無いのね?」
「まあな、この先の環境はアオガネには少々キツイだろうし」
渓谷ならまだしも、砂漠となるとアオガネに耐えられるのか分からない。
コブラとかそういう灼熱帯でも耐えられるヘビはいるが、アオガネは洞窟での生活に適した進化をしてきたヘビだ。
だから砂漠に出た途端干からびる可能性もある。
「シャアー……」
アオガネ自身はここで別れるのが寂しいようで、下を向いて掠れたような声を上げている。
俺だって離れ離れになるのは寂しい。しかし、環境に耐えられる可能性が低いのに無理に連れて行って、無残に死なせる訳にもいかない。
だからここで別れるのが1番いい選択のはずだ。
そう結論を出そうとした時、ドロシーがアオガネと俺の間に入ってきた。
「ご主人様、アオガネも連れて行って」
珍しくドロシーが俺の意見に反対してきた。
ここ数日ドロシーはずっとアオガネと一緒に行動していたから、彼女は俺達よりも情が移ったのだろうか。
「うーん、だけどアオガネに砂漠は無理だと思うんだよ」
「大丈夫、もしもの時は私がサポートするから」
「へぇ、どうするんだ?」
「泥をかける」
無茶を言っているのかと思ったら、意外なほど建設的な意見が出て来て驚いた。
ドロシーは普段何に対しても無関心だが、こういう時良い案を出してくれる。
確かにアオガネにドロシーの泥をかけておけば、乾く心配もないし湿度も保てるので妙案だ。
「ドロシーは体力は大丈夫なんだな?」
「そのくらいへっちゃら」
念の為確認してみたが、まぁ魔人ならその程度余裕だろう。
これだけ対策があるなら連れて行っても問題は無さそうだな。最悪日中は俺のモンスターボックスの中にいれば安全だし。
「よし分かった。それじゃあアオガネも一緒に行くぞ!」
「ジャアー!」
「よかったね」
連れて行くことを認めたら、アオガネはドロシーに巻き付いて喜び、ドロシーもそんなアオガネの頭を優しく撫でていた。
この2名に意外な友情が芽生えて、俺も驚きはしたが良かった。
「じゃあ早速渓谷を行くぞ!」
「うん」
「はーい!」
「シャー!」
こうして俺達は、ハクラン山脈の洞窟を突破し、いよいよ渓谷地帯へと足を踏み入れた。
――
渓谷に出てすぐ、俺達の上空を翼竜が飛び交う。
距離が遠くて分かりにくいが、人1人を乗せて軽々と飛べそうな程の威圧感はある。
今は上空で様子を見ているだけのようだが、いつこちらに滑空してきてもおかしくないので、常に警戒はしておかなければならない。
油断して俺だけ連れ去られる未来が容易に見えるからな。
「うーん、飛んでるんじゃ食べれない」
「洞窟を歩いてる時散々食べといて、まだ足りないのかよ」
「後半はほとんど寄ってこなくなったから、全然食べてないよ」
「そうだったんだ。それは知らなかった」
ドロシーは俺達よりも先を進んでいて、ここ数日は休憩時しか会っていなかったので、実は先頭で何が起こっていたかはあまり知らなかった。
「ダーリン、話してるとこ悪いけど来たわよ」
「おっ、もう来たか。よかったなドロシー、沢山食べれるぞ」
「やった!」
ドロシーと話していると、近づいてくる古竜の存在にシンリーが気づいた。
周囲を見渡すと30匹程の古竜が俺たちを囲っているのに気づく。
来たのは上を飛んでいる翼竜ではなく、体長1m程の2足立ちの肉食竜だ。
個体名はヒアルドラゴ。
彼らの性格は獰猛で、ようやく洞窟を抜けた旅人が襲われるのはよくあることだと、事前に冒険者ギルドからは聞いていた。
「なんでこんなに早く囲まれたの?」
「あいつら魔力で耳を強化してるらしいんだ。多分俺達が洞窟を出た時には、もう集まってたんだと思うよ」
「ふーん、そうなんだ」
「そんなのどうでもいいわ。邪魔するなら倒すまでよ」
この古竜は俺の体質で寄ってきたわけではない。俺がいなくとも、確実に襲ってくる魔獣だ。
このままでいれば、俺は襲われないかもしれないが、他のメンバーが狙われるのは避けられない。
だから戦う以外に道はないのだ。
「よし、皆やるぞ!」
「うん!」
「任せて!」
「クアッ!」
「ガウガウ!」
「!」
「「「ブオオォー!」」」
そうして、渓谷に出て早速古竜との戦闘が始まったのだった。
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