2章 3. 冒険者ってのをやってみる

 翌日、朝日の眩しさに当てられながら俺は起床した。


 クウ達はまだ眠たそうで、手や翼で光を遮って寝ている。




「まだ寝かせといてやるか」




 旅を始めたばかりで、慣れないことで疲れも溜まっているはずだ。


 今日くらいはゆっくり眠ってもらうことにした。


 俺は水袋から少量の水を出して顔を洗うと、昨日の籠を背負った。




「まずはグラス達の餌だな」




 グラス達の餌は昨日全部食べてしまったので、新たに集めてくる必要がある。


 その為俺は1人森へ出掛けることにした。


 しかし、そんな俺の袖を引っ張って止める者がいた。




「ん?誰だ?」




「!」




 振り返ってみると、袖を引っ張っていたのはプルムだった。




「なんだ、一緒に行きたいのか?」




「!」




 やたら袖を引っ張ってくるので、一緒に行きたいのか確認すると、体を縦に振っていた。




「そうか、じゃあプルムにも手伝ってもらおうかな」




「!」




 俺はプルムの優しさに甘え、抱き上げて肩の上に乗せた。


 するとプルムは嬉しそうに俺に頬擦りしてきた。若干ひんやりしていて気持ちいい。




「それじゃあこの辺の草を集めるのを手伝ってくれるか?」




「!」




 昨日と少し離れた場所に来た俺とプルムは、早速手分けしてグラス達の餌を集め始めた。


 プルムは分裂して、体を触手のようにして器用に草を集めている。


 現在は25体まで分裂出来るようになっていて、足元はスライムだらけになっている。


 ただ、やはり力は相変わらず弱いようで、草を引っこ抜くのにもだいぶ手間取っている様子だった。


 一生懸命草を抜く姿が、なんとも微笑ましい。




「ふぅ、もうこれくらいでいいかな。ありがとうプルム」




「!」




 プルム達に手伝ってもらったおかげで、今日はかなり早く集め終わった。


 俺がプルムにお礼を言うと一斉に震えだして、嬉しそうにしている。




「そろそろ戻るか」




「!」




「おわっ!ちょ、多すぎるって!」




 草を集めた籠を背負い、プルムに手を差し伸べると、なんと25匹が一斉に俺に乗りかかってきた。


 この量にはさすがに耐えきれず、俺は倒れこんでしまった。




「!」




 プルムは体を震わせて心配そうにしているが、一斉に震えてるので、全身が揺さぶられる。




「分かったから、一旦離れてくれ!」




「!」




 俺がそう言うと、プルムは慌てて俺から距離をとった。


 ようやく解放された俺が立ち上がると、プルムは申し訳なさそうに縮こまってしまっている。




「今度から分裂したまま乗ってくるの禁止な」




「!」




「ほら、落ち込むなって。1匹なら全然いいんだからさ、一緒に還ろうぜ」




「!」




 反省しているのか、落ち込んでしまったプルムに手を差し伸べると、嬉しそうに俺の元に飛び跳ねてきた。


 こんどはきっちり1匹に戻っ手から来たので、なんの問題もなく俺はプルムをキャッチした。




「じゃあ行くぞ」




「!」




 プルムには草集めも手伝ってもらったので、キャンプ地までは撫でながら帰った。




 そうしてキャンプ地に戻ってくると、ドロシー以外はもう皆起きていた。


 クウとマイラはプルムを嫉妬したのか思いっきり俺に飛びかかってきた。




「お前達落ち着けって!」




「クウ!」




「ガウガウ!」




「!」




 彼らとの生活もそれなりに続けてきたが、魔獣達の間ではこういった抜け駆けのようなことは御法度らしい。


 プルムがクウとマイラに詰め寄られて怯えてしまっている。




「おい、あんまりプルムを責めるなよ。今日は手伝ってもらってたんだから」




「クウー!」




「ガウッ!」




 俺がプルムの肩を持つと、クウとマイラは涙目で俺を睨んできた。そんなに悔しがることだったのか……。




「ごめんって、それより早く朝食食べて出発するぞ」




「ん?ご飯?」




「それで起きるのかよ……」




 俺が朝食というワードを出すと、さっきまで寝ていたドロシーが一瞬で起きてきた。


 ほんとに欲望に素直な奴だ。


 グラス達にはさっき集めてきた草を与え、俺達は昨日燻製にしておいた肉を食べた。


 ドロシーにほとんど食べたせいで、残ったのは2割程だった。


 最初は狩ってきた量が多過ぎると思ったが、意外と適量だったのかもしれない。


 ただ、生態系は壊しそうだが。




「じゃあ俺はテント片付けたりするけど、ドロシーはまた水を汲んできてもらえるか?」




「いいよ」




「重くなるから水は半分くらいでいいし、クウと一緒に行ってくれ。それなら帰りは速いだろ」




「分かった」




「クウー!」




 俺がテントを片付ける間、ドロシーには水汲みを頼んだ。


 今回は狩りに出ていないクウを連れて行ってもらったので、帰りは早いだろう。




「マイラ達は遊んでていいぞ」




「ガウ!」




「!」




「「「ブモォー」」」




 マイラ達は特にすることも無いので、その辺で遊んでてもらった。




 そうして、俺がテント等のキャンプ道具を片付け終わる頃に、タイミングよくドロシーとクウが帰ってきた。


 その後はグラス達に手綱を付け、荷台に乗り込むと再びリベンダへ向けて出発した。












 ――












 そうして旅を続けて1週間が経過し、ようやく商業都市リベンダが見えてきた。




「あれがリベンダの門か。めちゃくちゃデカイな」




 リベンダは巨大な市壁に囲まれた都市だ。その理由は、東にある迷いの森からやって来る魔獣を食い止める為である。


 それ故市壁の上では常に騎士が見張りをしている。




「それにしても、ここ数日は大変だったな……」




「何で?」




「何でって、そりゃあ闘牛であるグラスバイソンをゴスロリが荷台に乗って業者してるんだから、目立ってしょうがないよ」




 リベンダに近づくにつれ、街道で擦れ違う商人の馬車の数は一気に増えた。


 それはいいのだが、通り過ぎる度にこちらをチラチラ見られるのは勘弁して欲しい。


 恥ずかしさで死にそうだった。




「まぁ其れも今日で最後さ……」




「よく分からないけど、良かったね」




 俺はようやくこの羞恥から逃れられるのかと思うと、思わず目から涙が零れた。




「ご主人様はこの街で何をするの?」




「まだドロシーには言ってなかったか。この街では迷いの森の情報を集めつつ、冒険者ってのをやってみることにしたんだ」




「冒険者?」




「そう、ライノさんに勧められたんだけど、魔獣を狩ったり、薬草などを採取したりする何でも屋みたいな仕事で、金稼ぎには丁度いいって言われたんだ」




「ふーん」




 冒険者という職業は、ギルドから依頼を受けてそれを達成することで得る報酬で生活をする仕事らしい。


 元の世界で言うところの、派遣社員みたいなものだろう。




「じゃあ魔獣を倒すの?」




「いや、俺を無理矢理攫おうとするなら別だけど、こっちから手出しはしたくないな」




 俺にとって大抵の魔獣は害がないので、正直無抵抗の奴らを倒すのは気が引ける。


 だから依頼は採取等の雑用を中心に受けようと思う。




「ドロシーも一緒に冒険者になってもらうから頼むぞ?」




「えー、やだよ面倒臭い」




「何言ってんだ。働かざる者食うべからずって言葉があるだろ?ドロシーも手伝ってくれなきゃ今度から飯は抜きにするぞ」




「私頑張る」




「おう、その意気だ!」




 1週間旅を続けてきて、だんだんとドロシーの扱いが小慣れてきた。




 ドロシーとそんな話をしていると、いつの間にか市壁の門の前まで来ていた。




「そこで止まれ。お前達身分証を提示しろ」




「はいはい、確かこれね」




 門の前まで行くと、警備をしていた騎士に止められた。


 俺は前に居たハルレーンで、ライノさん達に作ってもらった身分証を彼に見せた。もちろんドロシーの分もある。




「旅人か、この街には何をしに来た?」




「2人で冒険者になりに来ました」




 騎士の人は俺達の身分証を見ながら目的を聞いて、荷台も軽くチェックしだした。


 クウ達は事前にモンスターボックスに戻ってもらったので、怪しいものは何も無い。




「ふむ、特に問題はなさそうだな。入っていいぞ」




「ご苦労様です」




「どーもー」




 やがて騎士の人から許可を貰った俺達は、門を潜りとうとうリベンダへと入った。


 初めての街で不安はあるが、クウ達もいるので怖いものは無い。


 ハルレーンでは、クウが狙われていたりと、バタバタ指定て中々のんびり出来なかったからな。


 どうせだから今回は、めいいっぱい異世界の街を楽しませてもらおう。

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