1章 31. 渾身の一撃

「灯君!このままじゃクウの魔力が切れていつかやられるよ!」


「分かってる!クウのワープ無しで何とかあそこまで攻撃を届けないと……」


 


 クウは炎の矢を防ぐので手一杯。


 どうにかワープホール以外の方法で打破する策はないか考える。


 と、対抗策を考えていると、いつの間にかアマネも横に来ていることに気づく。騎士の応急処置ははもう終わったようで、顔色もいつものアマネに戻っていた。


 アマネ……、そうだ!赤ラインの男との戦闘で見せたアマネの必殺技ならあれが出来るかもしれない。




「アマネ、あの必殺技はまだ撃てるか!?」


「え?ええ、あと1回ならなんとか」


「なら俺の言う通りに発動してくれ!泥の魔人もこっちに!」


「分かった」


 


 俺が2人に伝えた作戦は、アマネの伸びる槍に泥の魔人と俺がまたがり、ブラッドデーモンの炎球まで運んでもらう。そして泥の魔人があの炎の塊を蒸発させるというものだ。


 俺は泥の魔人が攻撃をしている間、振り落とされないように支える役目だ。




「灯君、それなら僕も一緒に!」


「いや!マリスはここで――」




 マリスにはしてほしいことがあった為、別のことを頼み、泥の魔人を支えながらアマネの槍にまたがる。




「それじゃあいくわよ!」


「思いっきり頼む!」


「うん」


「長柄槍起動!『伸槍鋭突』」


 


 その瞬間、ギュン!という勢いと共に、アマネの槍に運ばれた俺と泥の魔人は、真っ直ぐブラッドデーモンの頭上の炎球を目指した。


 その間も炎の矢は降り注ぎ続けているが、クウがワープで防いでくれるお陰で真っ直ぐに進めた。


 当然ブラッドデーモンは、急接近してくる俺と泥の魔人を警戒して狙うが、クウのワープは優秀で一発も当たらないまま、炎球の真上まで来る。


 だがしかし、そこでは死角になって隠れていた赤ラインの男が待ち伏せしていたのだった。




「貴様らの狙いなどバレバレだ。散れ!」


 


 不意をついた赤ラインの男は、両腕を高温で熱した高熱ブレードで、襲いかかってくる。




「クウ、ここだ!僕の剣をワープで飛ばしてくれ!」


「クアッ!」


 


 だが、赤ラインの男の高熱ブレードが俺たちに届く直前で、目の前にワープホールが出現し一突きの剣が飛び出した。


 剣は高熱ブレードとぶつかると激しい火花を散らせたがその刹那、銀光放つ斬撃が高熱ブレードとなった両腕諸共斬り落とし、赤ラインの男を退けた。




「うぐぉぉぉぉ……!」


 


 赤ラインの男は、斬られた腕を抑えて、悲痛のうめき声を上げながら墜落していく。




「よし、マリスの『鋭刃斬撃』だ。完璧なタイミングだったぞクウ、マリス!今だ泥の魔人、叩き込め!」


「うん、いくよ。濁流砲」


 


 邪魔者のいなくなった泥の魔人は、両手から大量の濁流を噴射し炎球にぶっかける。


 すると炎球は真っ白な蒸気を上げ、辺り一帯を白の世界へと変貌させながら消滅した。


 泥の魔人は見事に炎の矢を見事止めてみせたのだ。




「ここだ!」


 


 俺は炎球が消えたのを見計らい、槍から飛び降り更なる追撃を与えるため、ブラッドデーモン目掛け真っ逆さまに飛び降りる。




「いい加減、一発叩き込みたかったんだよ!くらえ!」


「ブグッ!」




 真っ白な蒸気を掻き分け、真上からブラッドデーモンの頭に拳を振り下ろし、渾身の一撃をぶちかました。


 ブラッドデーモンは上を向いていたせいか、顔面に強烈な拳を受け、バランスを崩して真下に落ちていく。


 だがまだ追撃は終わらない。


 ブラッドデーモンの落下先を先読みしたマリスは、鎧の身体強化で飛び上がると、更に『長刃斬撃』を併用して斬りかかる。




「グッ!マ、マケルワケニハイカナイ。フレイムクロウ」


 


 ブラッドデーモンは辛うじて体制を立て直すと、マリスの剣目掛けて炎の爪を突き立て、弾いてそのままもう片方の爪でマリスを仕留めようとした。


 だが、残念ながらこの一連の攻撃は全て、俺達が常に主導権を握っている。


 爪の餌食となる直前で、マリスはクウのワープホールによって姿を消した。


 落下するタイミングに合わせて足元に出現したワープホールで消えたマリスは、その落下速度も合わせながら、ブラッドデーモンの真横に出現する。




「ナニッ!?」


「これでトドメだ!片手剣起動!『鋭刃斬撃』」




 真下に向かって爪を伸ばしているブラッドデーモン目掛け、マリスは渾身の袈裟斬りでブラッドデーモンの胴体を斜めから真っ二つに切り裂く。


 胴体を真っ二つにされたブラッドデーモンは、切り口からメラメラと燃え出し、陽炎の様に揺らめきやがて消えていくのだった。




「危ない」


 


 その後、空中に飛び出し身動きが取れず自由落下する俺とマリスを、泥の魔人は体を巨大な泥団子に変えてで包み込んだ。


 その直後、更にクウのワープホールによって、泥団子のまま小川に着地させられる。


 着地の衝撃は泥団子が全て吸収してくれたようだ。




「ぷはっ!ふぅ、なんとか助かったか……」


「うん、流石にあの高さじゃ死んじゃうかと思ったよ」


「だなっ!……ぷっ、はははっ!」




 クウと泥の魔人のお陰で俺達はなんとか一命を取り止めた。


 一瞬死ぬ直前だったというのに、俺はなぜか可笑しくなって吹き出してしまう。


 泥の魔人は泥団子のまま川から這い上がると、元通り女の子の体へと変化していく。水の中じゃ上手く体を維持出来ない様で、えらくゆっくりではあったが。




「クウー!」


「ガウガウ!」


 


 しばらく川に浮かんで笑っていた俺達の元に、クウとマイラが駆け付けてきた。




「おうクウ、さっきは助けてくれてありがとな」


「クウー!」


 


 クウは、我慢出来なくなったのか、遂に川に飛び込みバシャバシャと泳いで俺にしがみついて来た。




「ご主人様を助けるのは当たり前」


「そ、そうか、ありがとう……」


 


 それにしてもずっと気になっていたが、なんで泥の魔人は俺のことをご主人様と呼ぶのだろうか。この件が一段落着いたらきっちり問い詰めないとな。




「ガウゥ」


 


 そうしていると、クウにだけお礼を言ったのがいけなかったのか、今度はマイラがしょげてしまった。




「マ、マイラもよく戦ってくれたよ。お前がいなかったらクウの救出は絶対成功してなかった。ありがとうな!」


「ガウー!」


 


 マイラはクウが攫われてから、戦闘面で大いに活躍してくれた。マイラがいなければ、最初のゴーレムでやられていただろう。


 マイラにも心の底からお礼を言うと、川に飛び込んできて頭を甘噛みされた。




「ちょ、お前ら落ち着けって、これじゃ川から上がれないだろ!」


「ははっ、灯君ってホントに魔獣に好かれてるよね。やっぱ面白いよ」




 そんな俺達の様子を見ていたマリスが、堪えられなくなったのか、笑いながらまた変なことを言ってきた。


 しかもいつの間にか岸に上がってるし。




「おいマリス!お前いつの間に川から上がったんだ!?てか笑ってないで助けてくれよ!」


 


 マリスに文句を言いつつも、手伝ってもらうことでようやく俺も岸に上がった。俺の頭と肩にはクウとマイラも乗っている。


 立ち上がると、不意にマリスと泥の魔人と目が合った。


 すると今度は3人同時に、不思議と笑みが込み上げてきた。何がおかしいのかも分からないまま、俺達はただただ笑い合う。


 何の憂いも無くなって、ようやく心の底から安堵に溢れていた。


 ちなみにこの後、駆けつけてきたアマネを含む騎士団の面々には、変な目で見られたのは余談だが……。




 ともあれこれで俺達は無事、竜の蹄の討伐任務を達成したのであった。

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