1章 15.青いゼリー型の体

 騎士団の本部に戻ってきた俺達は早速ライノさんのもとに報告に向かった。




「よお、マリスに灯!魔道具は無事買えたか?」




 俺達を見つけて明るい調子で話しかけてきたライノさんにむけて、俺は首から下げているモンスターボックスを掲げた。




「ふっふっふ、見せてあげましょう我が魔道具の力を!いでよクウ!マイラ!」


 


 俺の掛け声に合わせモンスターボックスは薄紫色に淡く光り、鎖を解き放った。


 扉が開かれ他と同時に白い光が2本伸び、やがて光は弱まり白い光の中からクウとマイラが姿を見せた。




「クアァー!」


「ガルルゥー!」


「おお……、凄いな。こんな魔道具見た事ねえ」


「はい、この魔道具はモンスターボックスといって、大昔の「竜王」と呼ばれる者が造ったこの世にたった5つしか存在しない魔道具だそうです」


「まじかよ!そんなものよく買えたな」


「まあ俺にはその資格があるんでね」


 


 魔道具を突き出しドヤ顔で言ってやった。




「おい、こいつどうしたんだよ。なんか変だぞ」


「あの魔道具は魔獣と仲が良くないと使えないみたいで。自分が選ばれた存在だと思っているようです」




 俺の様子を見かねたマリスがライノさんに説明した。




「アマネが映ったんじゃないだろうな。1人でも面倒だと言うのに勘弁してくれよ……」


 


 おっとまずい、このままではアマネと同じポジションを獲得してしまう。冗談はそろそろやめて元に戻らないと。




「まあ今のはただのおふざけですよ、ライノさんも気にしないでください」


 


 ニコリと微笑んでそう伝えた。




「そんな冗談笑えねえよ。ったく……、にしても随分といいものをもらったな。大事にしろよ」


「はい!」


 


 ライノさんと冗談を交わしていると、騒がしい足音と共に女騎士がやって来た。




「クウちゃーーーん!マイラちゃーーーん!」




 当然アマネだ。




「おいアマネ!お前もう少し静かに出来ないのか!」


「な、何ですかいきなり。隊長の怒鳴り声の方がうるさいですよ。っと、そんな事よりクウちゃんマイラちゃん!朝からいなくなってて心配したんだよー!お~よしよし~」


「グァッ!」


「ガゥッ!」


「痛たたたっ!ちょ、噛むのはやめて~!痛い痛い!」


 


 噛まれてもニコニコしてるなんて……、アマネ、相変わらず過ぎるぞ。いい加減クウ達に懐かれてないって気づけよ……。




「こいつ……!」




 ゴンッ!!


 鈍い音が体の芯まで響いてきた。あれは痛いだろうな。




「痛っっっ!」


 


 アマネは涙目でライノを睨みつけている。




「オラ、早くこい!これから班長と作戦の打ち合わせだろうが!マリスお前もだ!」


「えぇ……、僕までとばっちりだ。じゃあ灯君そういう事だから僕らは行くね」


「ああ、魔道具の件ありがとうな。頑張れよ」


 


 最後にマリスと軽く言葉を交わすと、3人は慌ただしく会議室と札のかかった部屋へと消えていった。


 残された俺はどうするか……、よし!せっかくモンスターボックスなんて手に入ったんだから、魔獣を捕まえに行こう。




「クウ!マイラ!外行くぞ!」


「クァッ!」


「ガゥッ!」


 


 クウとマイラをモンスターボックスに戻した俺は首にかけると、街の門へと向かった。




「さっき騎士団の兄ちゃんに貰ったこれがあれば自由に街を出入りできるんだよな」


 


 そう言って手のひらに乗せてあるのは、先程すれ違った騎士団の兄ちゃんから貰った青軍の騎士団のシンボルバッチだ。


 このバッチはこの街の守護者であることを意味し、当然街の外での問題も解決するため、門の自由な出入りが認められている。


 ライノさんに俺に渡しておくように頼まれていたそうだ。




「ライノさんもこんなもの用意しとくなんてなかなか気の利く人だ。ちょっと荒っぽいけど」


 


 そんなことを言いながら歩いていると門の前まで辿り着いた。


 門番に騎士団のシンボルバッチを見せればすぐに開けてくれるらしい。




「すみません、門を開けてもらってもいいですか?」


「ん、なんだね君は?ああ、騎士団の方でしたか。これは失礼しました。それではお気を付けて。開門!」


「よっしゃ、行きますか!」


 


 こうして俺は森へ新たな魔物探しへと出掛けた。それと後1つとある目的を兼ねて。










 ――










 森へ入ってしばらく経つが、未だ魔獣や動物とは遭遇していない。街周辺の森はかなり平穏なようだ。


 俺はこの森に魔獣を求めてやってきた。ハンター達と戦うのに俺は無力過ぎるので、仲間を増やすことでの戦力の増強が目的だ。


 魔獣に頼るのは気が引けるが、それでも魔法も使えないし剣も振れないとなれば、急場だとこれぐらいが限界だから仕方ない。


 そうして俺は森を歩いているのだが、とある問題に気づいてしまった。


 散歩感覚で出てきたから食べ物とか回復アイテムを何も持ってきてない。


 クウ達はいるが、流石に丸腰で森を歩くのってかなり危険なんじゃないだろうか。


 俺に懐かない魔獣がいないなんて保証もないし、盗賊やハンターなんかと鉢合わせる可能性もある。少々不用心過ぎたか。


 さくっと回って早めに帰ろう。と、そう決めたところで、近くから川の流れる音が聞こえてきた。




「おっ、川になら休憩をしてる魔獣がいたりするんじゃないか?」




 そう思った俺は早速川辺へと向かう。




「うーん、パッと見た感じだと何もいないなー。いや、あれってもしかして……」


 


 対岸見えた影に何か違和感を覚え、急いで向かう。 すると次第にその姿がはっきりと分かった。




「やっぱり!あの青いゼリー型の体はスライムだ!」




 この世界の生物については、馬で移動中にマリスからある程度聞いていた。


 この近辺に生息している魔獣についても聞いており、その中にスライムもいたので、情報だけはある。




「!」


 


 俺の叫び声に反応したのか、スライムはすぐにぷるぷると震えながら岩の隙間に姿を隠してしまった。




「ああ、しまった!せっかく見つけた魔獣なのに逃げられちゃった」


 


 ビックリして隠れてしまったのか、完全に逃げられる。


 と、思ったが実際は違った。


 スライムは仲間を呼んでいたようで、さっきは1匹しか見つけられていなかったのが、岩の影から次々と溢れ出てきた。




「おおっ、思ったより多いな。1匹だと思ったんだけどな……てうわっ!」


 


 対岸ばかり意識していたら、いつの間にか足元にもスライムが出て来ていることに気づき驚かされる。


 無音で近づかれたので、全く分からなかった。




「何匹いるんだよ、えーと……、全部で18匹か。多いな」


 


 数に圧倒されていると対岸にいたスライム達が飛び跳ねてこちらの岸にやって来た。




「へぇ、結構ジャンプ力あるじゃん」


 


 スライム達は俺に近づいてこそくるものの、敵対する様子は一切ない。やはりこの体質は侮れないな。


 そんなことを考えているうちに、スライムが全員こちら岸に飛び移り終わったので、早速全員仲間にする事にした。


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