1章 14.モンスターボックスが起動する

「さてと、灯様はどうも魔獣使いのようですが、普段はどのような道具をお使いで?」


 


 グフタスさんは魔道具を漁りながら聞いてきた。


 だが、俺は魔道具なんて存在を知ったのは最近だし、使ったことなんてある訳がない。もちろん魔獣使いなんて者でもない。


 かといって異世界から来たとも言えないし……、よし。




「い、いやー実は今まで田舎の山に篭っていたもので、魔道具とかは全く使ったことがないんですよ。魔獣もたまたま懐かれただけで」


 


 完璧だ!上手くごまかせたぞ。これ以上クウとマイラに迷惑はかけられないからな。




「なるほど、そうでしたか。魔法の込められた杖もありますが、魔法を使ったことがない人には扱いずらいし威力も弱い。となると……」


 


 グフタスさんは俺の話を聞くと、1人でブツブツと言いながら考えだした。


 途切れ途切れだが聞こえた内容によると、どうやら魔法の込められた杖というものがあるらしい。


 少し興味があったが、それは即却下されてしまった。魔法使ってみたかったのに……。




「そうだ、確かあれがあったな!」


 


 完全に1人の世界に入っていたグフタスさんは急に大きな声を上げ、裏方に何か探しに行ってしまった。


 そしてしばらく待つとグフタスさんは1つの魔道具を手に戻ってきた。




「これは?」


「これも魔道具なんですか?初めて見ます」


 


 グフタスさんが手にした魔道具は、片手に乗るサイズの檻の形をした立方体の箱だった。


 その周りを鎖が巻きついていて、先端が伸びネックレスのようになっていた。




「これは「モンスターボックス」というものです。10年ほど前に、外国との貿易をしている知人から譲ってもらえたものでして」


 


 なんかソシャゲにありそうな名前の魔道具が出てきたな。




「それはどう使うんですか?」


「これはですね、空間魔法の一種で魔獣をこの檻の中に入れて、管理することが出来るのですよ。それも魔獣を入れられる数に制限はありません。何匹でも入れ放題なのです。そして中に入っている魔獣はいつでも出てくることが可能で、戦闘時に出すもよし、奇襲に使うもよしなど用途は無限大なのです」


「なんか凄いですね」


「灯君、これ凄いなんてものじゃないよ!これならクウ達の存在も隠せるし灯君にぴったりじゃないか!」


 


 たしかにこれがあればクウやマイラを隠しつつも一緒に行動ができる。


 移動するにもネックレス1個で手軽でいいからとっても便利だ。だが……。




「そんなに凄いのにマリスも知らないんだ?もっと有名になってもいいだろうに」


「あ、確かに……、僕もこんな魔道具初めて見た」


 


 これだけの力を持つ魔道具なら、何故マリスはその存在を知らなかったのだろうか。


 それはこの魔道具が、扱えない程のリスクを背負っているからなのか。それとも生産面で問題があるのか。




「それについても説明致します。この魔道具は数千年前に「竜王」と呼ばれたとある国の王が造った魔道具なんです。竜王はその名の通り、竜を操る歴史上最強の魔獣使いと呼ばれた人物で、彼の造った魔道具は全部で5つあると言われています。そしてその内の1つがこのモンスターボックスなのです」


「つまり竜王ってのが魔獣を操る為に造った魔道具がこれってことか」


 


 その竜王が何者かは知らないが、かなり高価な気がする。絶対お金足りないだろ。




「なんかますます凄い魔道具になってきたけど、それがなんで有名じゃないんですか?」


「実はこの魔道具には致命的な欠陥があるんです。魔獣と親密な関係を築いていないと、魔道具が効果を発揮しないという」


「な、なるほど……、本来倒すべき敵である魔獣と親密な関係になろうとはまず思わないからね」


「だが魔獣使いってのはいるんだろ。そいつらからしたら、喉から手が出るほど欲しい代物じゃないのか?」


 


 こんな凄いアイテム、魔獣使いなら絶対ほっとかないはずだろ。




「いえ、残念ながら魔獣使いではこの魔道具は使えません。通常の魔獣使いは魔法で魔獣を支配して操っているので、魔獣と心から親密な関係を築くことは出来ないのです」


「なるほど、魔法を使わず単純に魔獣と仲良くなった俺ならもしかしたら……」


「はい、起動するかもしれないと思い、この魔道具を紹介させて頂きました」


「確かに灯君ならきっと使えるよ!」


 


 そう言ってグフタスさんは俺にモンスターボックスを差し出してきた。


 試しに使ってみろということだろう。俺はモンスターボックスを受け取り、それをクウとマイラに向ける。




「クウ、マイラ入れ!」


「クア!」


「ガウ!」


 


 クウとマイラが返事をすると、魔道具が薄紫色に淡く光り、鎖が弾け檻の扉が開いた。


 薄紫色の光りは眩い輝きを放ちだし、クウとマイラは檻の中へと渦のように吸い込まれた。


 2匹が吸い込まれたところで、檻の扉は閉まり弾けた鎖も絞め直される。




「す、すげぇ……」


「こ、これって……」


「成功です!素晴らしい、モンスターボックスが起動するところなんて私初めて見ましたよ!」


 


 グフタスさんは魔道具の成功に大歓喜していた。


 しかし俺もこれには驚いた。まさか動物に好かれやすい体質が、こんな形で役に立つとは思わなかったから。


 この魔道具は俺にはピッタリの代物のようだ。




「俺これにするよ!グフタスさん、この魔道具いくらですか?」


「そこなんですが、実はこれは商品ではないんですよ。竜王の魔道具はこの世に5つしか存在してなくて……」


「そ、そんな!?お願いします、僕の貯金全部使ったっていい!灯君にはこの魔道具が必要なんです!」


「マリス、お前そこまでして……」


 


 マリスは俺なんかの為にその身を削ってまで、グフタスさんに嘆願してくれた。




「早まらないで下さい。確かにモンスターボックスは商品ではありませんが、別に譲らないと言っている訳でもありません。これは使える人物がいないから値段もつかなかったと言うだけで、使える人物が現れたらお譲りしようと思っていたのですよ」


「え……、じゃあまさか」


「はい、モンスターボックスは灯様にお譲り致します。もちろん無償で」


「あ、灯君やったね!」


「ああ、ありがとうマリス!グフタスさんも!」


「いえいえ、歴史あるものとはいえ竜王は元々そこまで有名でもない人物でしたからね。実は価値も言うほど高くはないんですよ」


 


 グフタスさんは付け加えるように説明してくれた。


 生まれてこの方、動物に好かれるこの体質には事ある毎に苦労をかけられたが、今日ほどこの体質に感謝したことは無かっただろう。




「先代からの教えで大切に保管して使える者が来たら渡すようにおわれてましたが、これを悪人に渡す訳にはいかないと思っていました。ですが騎士団に所属しているマリス君のお知り合いなら、何も問題は無いでしょう。大切に使ってください」




「分かってます、任せて下さい」


 


 この魔道具があればクウ達を守る事だって出来るし、魔獣を自在に呼び出すことも可能だ。


 やれることは沢山あるな。




「それじゃあ僕達はこれで失礼します。ありがとうございました!」


「また来て下さいね」


 


 魔道具屋をあとにした俺達は、1度騎士団の本部へと戻ることとなった。

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