親友の冷やかし
次の日は珍しく、天音が二週連続でやって来た。天音には私のことをあまり気にしないように言ってあるので、こまめに来るのは珍しい。お昼休みに来るなり、彼女は言った。
「ねえねえ! 岡山先生の結婚の噂知ってる!?」
「知ってる」
「えー!?」
天音は驚いて少し大きな声を出した。さすがに廊下と違って保健室なので気を遣って声は抑えているようだ。それでも抑えられないほど、興奮している。
「早弥も知ってるってことは信憑性高いのかな!? 誰か先生が言ってた?」
これは、早く否定しないと何か誤解が生まれそうだ。
「いや、昨日宮下先輩が言ってた。でも、かっこよくなったって、身なりに気を遣ってる程度なんでしょ?」
「あ、うん。そうなの。新聞部としてはこんなめでたい話、スクープでしかないから、どこよりも早く情報を仕入れたいんだけど」
確証が無い噂話だからさ、と天音は残念そうに言う。
「本人に直接聞けば?」
「答えてくれるかな?」
私は岡山先生を思い出す。素直じゃなくて、はやし立てられるのもあまり好きでは無さそうだ。
「上手くかわされて終わりだろうね」
「でしょー」
天音はつまらなーい、とぶーぶー言っている。
ふとこの親友を見て、私は天音と喋らなかったら本当に情報に置いて行かれてしまうな、と感じた。気持ちに余裕が無い時は、それでも良いか、と思えるし、情報が欲しいとも思わない。少しの情報でも情報過多で疲れてしまうから。でも宮下先輩と話していると、提供できる話題の差を感じてしまう。私は、いつも同じ登場人物で同じような話になってしまう。
別に、先輩が私と話していてつまらなくないかな、とか先輩が飽きてしまわないかな、とか心配しているんじゃない。ただ、先輩にも天音にも私はたくさんの新鮮な情報を貰って、楽しませて貰っているから。同じだけのものを、返したくなる。
そこに、ピロンとメッセージの受信を知らせる音が鳴った。
「先輩?」
トーク画面を開くと、昨日勧めた漫画の感想だった。楽しんで貰えたらしい。行動早いな。
ちょっと古典が好きになったわ。
次の吹き出しで送られたメッセージ。その一文を見て、思わず顔が綻んだ。いや、勧められた手前、社交辞令かも知れないし。浮かれ過ぎないように気を付けよう。
私はスマホをしまおうとして、天音に止められた。
「なになに~」
興味津々という天音の顔を見て、私はそのままスマホの画面を見せた。別に隠すような
天音はどうやら私の呟いた先輩というワードに興味をそそられたようだ。
「いつの間にID交換したの」
「昨日」
「へぇ~進んでますねえ」
天音はどういうつもりなのか、にやにやしている。
「私にもたまにはメッセージしてね」
急に天音がそんなことを言い出すものだから、私は首を傾げながら、うん、とうなずいた。
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