第五十三話 秩序の必要性(3)
フランツは焦れてきた。
車はともに進む。
フランツは勝手に追い越しては悪いような気もしてきた。
アリエッタはなかなかのお喋りだ。
「それでさぁ。デートも近所だとなんも代わり映えしないでしょ。だから長いこと旅行にいきたいなってバルナボに言ってたの。そしたら有給取ってくれて、オルランドへ旅行に連れてってくれるてすぐ話がまとまってさ。バルナボのお祖母さんは、オルランド出身だからって!」
と、どうでもいい話を続ける。
――なるほど、だからオルランド語を解するのか。
フランツは半分納得したが半分解せない。なら、なんでこの眼の前の女はオルランド後を話すのだ。
しかし、言語について話題にするのはあえて差し控えることにした。
――話がややこしくなる。後でそれとなく訊くことにしよう。
オドラデクはアリエッタと話に打ち興じていた。
やがて車は国境検問所に入った。
道路脇に立っている検問官たちに停車させられた。
フランツは偽造して置いたパスポートを見せる。
もちろん、三人の名義はさっき出任せで言ったものとは全然違うが、アリエッタとバルナボは隣で別の検問官にパスポートを見せているので気付かれることはあるまい。
「よし」
正直治安があまり良くはないランドルフィの検問ゆえか、あまり尋問することなくフランツたちを通過させた。
すぐに中立国ラミュの国境に入る。ここの検問も問題なく通過した。
二つの車はなお併走する。
ここから西に抜けて、オルランド西部に抜ける道を取るのだろう。
フランツは逆、東の方へ行こうと考えている。
――やっと別れられる。
フランツはせいせいした。
だが、アリエッタの載った車は突然停まってしまった。
タイヤに鋭く尖った石が突き刺さってパンクしたようだ。
しゅーと空気が抜けていく。
「はええ、こりゃ困ったものですねえ」
オドラデクはそれを見て笑っていた。
フランツは反射的に車を止めた。別にそのまま走っていっても良かったのだが、挨拶もせずに別れるのはさすがに躊躇された。
それにまだ言語のことが引っかかっていたのもある。
フランツは車を降りた。
「交換を手伝おうか」
同じく車を降りていたアリエッタとバルナボに近付いた。
「えっ、手伝ってくれるの! でも、その前にランチしようかと思ってて」
アリエッタは明るく言った。
「ランチ! ぼくらもまだなんですよ! ぜひご一緒しましょう!」
オドラデクが手を打った。
「いいわね。近くに店がないか探しにいこ!」
アリエッタが歩き出した。バルナボも無言で後ろから付き随った。
「うっひゃーい! お腹空いたー」
オドラデクはジャンプしながら歩いていく。
――全く。
そうは言いながらも、フランツは歩き出そうとした。
だが、その時不注意にも開いたままにしてあったバルナボの車のなかで何かがきらりと光るのが見えたのだ。
どうやらそれは運転席の間に置いたアリエッタのポーチ・バックの中にあるらしい。
フランツは悪いとは思いながらも覗き込んだ。
見えない。
ハンカチを手に持って、その上から光るものをつまんだ。
――やっぱり、俺の予感は正しかった。
まごうはずはない。
それは、旧スワスティカの
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