第四十一話 踊る一寸法師(8)

 フランツは静かに抜刀する。


 物言わず駈け出した。


「へいへい」


 オドラデクとファキイルは近付いてきた。


 カルロは林の奥に入っていく。


 何か隠しているのだろうか。フランツはしばしば様子を見計らっていた。


「へへへへへへ」


 不気味な笑いを上げながら手で土を掘って何か取り出す動きをする。


「爆発物かもしれん。離れろ」


 フランツたちは距離を取った。


 だが一向に爆発する様子がない。


「お前、糸を使って調べられるんだろ、やって見ろ」


 フランツはオドラデクに命じた。


「えー、何でぼくがぁ」


 オドラデクは不満そうな声を上げた。


「つべこべ言うな」


 元の姿に戻ったオドラデクは髪を一本抜いて地面にほおうった。


 するとその髪は尺取り虫のようにうねうねと動いて、カルロに近付いた。


「うんうん、ただの葉巻を入れた箱です」


「なるほど。どこかで手に入れたものを仲間と分け合いたくないのだろうな」


 葉巻に火を付けて煙を燻らすカルロ。


――小悪党め。


 フランツはその背後に立った。


 しばし気付きもせずうつろな目で振り返ったカルロは、驚愕のあまり腰が抜けてその場にしゃがみこんだ。


「こっ、これは! 何でもない、何でもありませんから!」


 カルロは喚いた。


「別にお前の葉巻に用はない」


 フランツは言った。


「ほっ」


 カルロはそれを訊いて安心したようで胸を撫で下ろした。


 だが。


 フランツは『薔薇王』の切っ先をカルロに向けた。


「ひいいいっ!」


「答えろ。お前はスワスティカに何か協力したか?」


 フランツは問うた。


「戦争が終わったとき、おいらは十とそこいらですっ! 何も出来る訳ないでしょう!」


 カルロは手を上げて喚いた。


「そうか。ならもう二度と連中とは一緒に暮らすな。逃げて独りで暮らせ。これから俺はやつらを殺す。一人残らずだ」


「はっ……はい!」


カルロは震えながら言った。


 フランツか剣を鞘に収めた。


 後ろを向いて歩き出す。


「あれ? フランツさんどうしました? 殺さないんですか?」


 オドラデクは不思議そうに訊いた。


「ああ。何もやっていないやつは殺さない」


「お人好しだなあ」


 その時だ。


「馬鹿にしやがってよぉ!」


 振り返る隙すら与えない速さでカルロがフランツの肩の上に飛び乗った。


 そして両手で喉を絞め上げる。


「おいらは間抜けだがなあ、人の殺し方ぐらいは教えて貰ってるぜぇ」


 とどこからか短刀を取り出し、フランツの喉を横一文字に裂こうとした。


 だが。


 突然その手がだらんと力なく垂れ、短刀は下へ落ちた。


 喉を絞める力もなくなったのでフランツは小人を振り落とした。


 落ちたカルロの身体には既に首がなかった。


「ゴホッゴホッ!」


 フランツは咳をする。


 鮮血が顔中に溢れて、目に入りそうになったので急いで拭い去った。


「フランツ。大丈夫か」


 ファキイルだった。


 どのような手段か知らないが一瞬でカルロの首をねじ切ったようだ。


「大丈夫だ」


 フランツは喉を押さえながら言った。


「あっけない」


 オドラデクはカルロの死骸を見て笑っていた。


――やはりこいつは人間じゃないな。


 そう思いながらもフランツは安心している自分に気付いた。


 オドラデクはまた身体をばらけさせるとカルロの死骸を糸で包んで切り刻んで処分した。


 そして、再びカルロの姿に変わった。


「意外に疲れるんですよ、これ! ご褒美が欲しいな! あとで奢ってくださいね。それから例の葉巻も!」


 と返り血を浴びながら土の上に置かれたままの葉巻の箱を指差した。


「お前も嗜むのか?」


「別にそこまでやりませんけど、やっぱいい銘柄なら興味ありますよ」


 カルロの顔のままでオドラデクはにやにやした。

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