第四十一話 踊る一寸法師(6)
「なるほどです。確かにマンチーノさんはあなた方にとっては命の大恩人かも知れませんねぇ」
黙っていたオドラデクが喋り始めた。
フランツも流石に止める気は起こらなかった。
「そうです。幾らマンチーノさまが最低最悪の人間だろうと、その点については揺らぎがありません」
アメリーゴはきっぱりと言った。
「これは一本取られましたね。フランツさん。小人さんたちとマンチーノさんの結びつきは強固ですよ。死んだ後でも」
オドラデクは手を組んで言った。
「別に繋がりとかはどうでもいい。マンチーノとクリスティーネ・ボリバルは仲が良かったと言う。ボリバルはその分身がまだ生きており、最近カスパー・ハウザーとの協働も確認されている。何か少しでもいい、ボリバルのことを知っていれば……」
フランツは言い訳がましく呟いた。
「あなたはマンチーノさまについて話せと言ったでしょう。それ以外についてとやかく言われる筋合いはありませんよ。第一、ボリバルさまとやらは訊いたこともありません。……これで良いでしょうか? 僕らの暮らしを邪魔しないでください」
アメリーゴの元へ子供が走り寄ってきた。
アメリーゴはその頭を優しく撫でる。
フランツはその光景を見て、静かに立ちが上がった。
「やっと観念しましたね」
フランツは無言で歩き出した。
オドラデクも並ぶ。もちろん、ファキイルも尾いてきた。
「いや、手法を変える」
家を出て、だいぶ立ったところでフランツは突然言った。
「なんですなんです。フランツさんにしたら、ずいぶんとしつこいじゃないですか」
「スワスティカは残らず潰す。たとえその手下としてもな」
「へえへえ、ご勝手になさればよろしいじゃないですか」
オドラデクはそっぽを向いて口笛を吹き始めた。
「でも、どうやって潰すんですか? まさか家に火を放つって訳じゃないでしょうね。そりゃ犯罪ですよぉ、あはははははぁ!」
途中で思い付いたように言った。
「俺は既にスワスティカの元幹部を何人も殺めてきた。いざとなればやる……だが今回はもっと頭を使う」
フランツは言った。
「頭を……ふむん、どうするんですぅ」
オドラデクは首を傾げた。
「室内を良く見てたか?」
フランツは訊いた。
「あっ、はいはい。確かにアメリーゴさんを睨み付けているっぽい表情で見詰めている小人さんがいましたね」
オドラデクは何でもないように呟いた。
「……」
フランツはオドラデクの観察眼も馬鹿に出来たものではないと思った。
「まあともかく、そいつはアメリーゴを憎んでいる。きっと集団の中での地位は次ぐらいだろう」
フランツは言った。
「そうでしょうね。で、フランツさんはその人を抱き込もうと言うのでしょ?」
「ちょっと違う。俺はしょせんよそ者だ。言うことを聞きはしないだろう。そこでお前の出番だ」
「ぼくぅ? はぁ?」
オドラデクは首を傾げた。
「おまえ、カルロに変身しろ」
「えええっ、なんでぼくがぁ!」
オドラデクは大声を張り上げた。
「おいこら静かにしろ」
フランツはさらに三歩先へ進んだ。
「出来るだろ」
「そりゃ……出来ますけどぉ……なんで好きこのんで、このぼくがあんな小人に……」
ぶつぶつと不満を言っていた。
「お前は俺の剣だろ」
フランツは言った。
「はいはい、わかりましたよぉ……これは貸しですからね」
と言ってオドラデクは一旦己の姿をなしていた糸をばらけさせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます