第四十一話 踊る一寸法師(3)

「ともかく、一切俺に関わることは口にするなよ」


 フランツは念を押した。


「はいはいわかりましたよ」


 オドラデクはつまらなそうに言った。


 色々話しはしたが、フランツはカルロが逃げないようにしっかりと押さえていた。


「こっちはエレーヌ。俺の女だ」


 自分と掛け離れた人間だと思わせて置いた方が良いとフランツは判断した。


「んもぉ! 女だなんててぇ、うふん」


 オドラデクは頬を押さえて余計なしなを作った。


 ファキイルにもジェスチャーで黙っておくように伝えた。さすがに察しが良いのか何も言わずに尾いてきた。


「おいらはカルロです」


「カルロ。国王陛下と同じじゃないですかぁ!」


 オドラデクはあからさまに驚いてみせる真似をした。


「恐れ多い。おいらが生まれた時はまだ王子さまだったはずです。王子様がお生まれになった年においらが生まれたので名付けられたとか。カルロって名前の人は多いですけど……」


 ランドルフィのカルロ六世はまだ二十歳を少し出たところと言う若い王だった。


「えらい違いですね」


 オドラデクは少し蔑むようにカルロを見た。


「でもおいらが三歳になるころには育てきれなくなった親はマンチーノさまにそれなりの金額で売り渡されたそうです。だからカルロさまの話はマンチーノさまに教えて頂いたことです。今の侏儒仲間はほとんどそうやって集められました」


「なるほど、じゃああなたは生まれつき侏儒こびとではないんですねえ」


 オドラデクが訊いた。


「そうです。おいらは侏儒にされました。小さな筺の中に入れられて育てられたのです。食べるのとうんちだけは許されましたが、何年も何年もそのままの状態でずっと。すっかり成長が止まった後外に出されて、手下として教育を受けさせられたのです」


「でもそれじゃあまた成長し始める人も中にいるんじゃ?」


「はい、そんな場合は筺の中に戻されるかその場で殺されるかでした」


 カルロは身を震わせた。


「おぞましい」


 フランツは吐き気がした。スワスティカ親衛部特殊工作部隊は札付きの変人や犯罪者を集めて構成されたと伝えられている。マンチーノが選ばれた理由も頷ける。


「なぜ、そんなことをマンチーノはやったんでしょう?」


 オドラデクはフランツが訊きたいことを上手く訊いてくれた。



「マンチーノさまが言うには……世の中には俺のような小人は少ない。だからふやしてやるんだって」


「なるほど」


 フランツは納得した。自分のような惨めな境遇の者を一人でも多く作り出してやろうと言うわけだろう。


 実際、決まりを外れた人間に対してこの世の中は考えている以上に冷たい。その憎悪が上ではなく、自分と同じような少数派に対して向けられることも多い。そんな落伍者特有のひねくれ返り振りをフランツも何となくはわかるようになっていた。だが、だからと言ってシエラフィータ族に憎しみを向けたマンチーノは許されるはずもない。


「事情はまあわかった。お前らの仲間に会わせろ」


「はっ……はい」


 カルロは不安そうにフランツを見詰めた。


「こんな方々と長く話したいんですかぁ」


 オドラデクはため息を吐いた。


「スワスティカのことで訊けることは全部訊く。もし、何か悪事を企んでいるなら……」


 とフランツは腰に帯びた剣『薔薇王』へと手をやった。

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