第三十七話 愛の手紙(9)

「もちろん」


 ルナは受け合った。


「その前に僕の実感だけでは今ひとつ覚束ないので、ヨハンナさんの身に何が起こったのか、教えて頂けませんか?」


 ミロスワフは訊く。


「わかりました」


 ルナは手短にヨハンナに関する事実を話した。


「酷い。何かしてあげられることはできなかったのか……でも、手紙を書いたのは僕なのですね。知らないこととは言え、責任を感じてしまいます」


 途端にミロスワフは顔を曇らせた。


「感じる必要はないですよ。悪いのは詐欺師の彼で、あなたではないのだから」


 ルナは静かに言った。


「ペルッツさまに伺ったお話などを参考にした上で、手紙に反映させて頂きますね」


 ミロスワフは書き始めた。


 ルナは坐って、じっとそれを見守っていた。


 ズデンカも流石に黙っているしかない。


――何を書くって言うんだ?


 一時間も経っただろうか。


 ミロスラフは筆を擱いた。


「できました」


 ミロスラフは文面をルナに見せた。


「いいですね! 思いが籠もっていると思いました。文句ないですよ」


 ルナはたちまち読了して笑顔で言った。


 ミロスラフはインクの乾くのを待ち、折り目正しく畳んだ。


 ところが驚くべきことに折りたたまれた紙は二枚あったのだ。


「こちらは写しというか、同じ内容をもう一枚書きました。ぜひ、ペルッツさまの手許に置いていて貰いたいと思います」


「わかりました」


 ルナは片方を懐に収めると、入れ替わりに封筒を取り出した。


――ほんと、こんな時だけ用意周到だな。


 ズデンカはほとほと呆れた。


「どうやって渡します? わたしはハンドバッグにでも入れたら? と提案はしましたが、それ以外でも構わないですよ」 


 ルナは言った。


「直接渡すことにします。今後僕に何かあったら開けてくれって」


「それがいいですね」


 ルナは言った。


 ミロスワフは手紙を封筒に収め、部屋を出ていった。


「さて、わたしたちもカミーユを迎えにいこう」


 密かに心配し始めていたズデンカだったが、朗らかにヨハンナと談笑するカミーユの姿を見て、自分の見立ては間違いなかったと確信できた。


「それでは失礼しますね!」


 ルナはカミーユを招き寄せて、三人で部屋を出た。


「あー、ルナさんズデンカさん、おっそーい。結局また待ちぼうけをくわされちゃいましたよ」


 出た途端、カミーユは両手を持ち上げて、唇を尖らせていった。


「ごめんごめん。ミロスワフさんが手紙を書いてたんだ」


「えええっ。手紙? もしかして、愛の手紙ですか?」


「まあそんなものだね」


「見たいなー。でも、悪いですよね」


 カミーユは項垂れた。


「実は写しを貰ったんだ。読んでくれってことだと思う。一緒に読む?」


「お前なあ」


 ズデンカはまたルナを撲りそうになった。


「読む! 読む! 訊いてみたいです!」


「じゃあ、部屋に戻ろう」


 三人は車室に戻った。


「さて、じゃあ読むから静かにしててね!」


 ルナは手紙を開いた。


「結局、あいつ、お前が教えたことを何も反映させてねえな」


 ズデンカは横から覗き込んで言った。


「もう! 先に読むなんて無粋なことしちゃだめ! そんなことないよ。ミロスワフさんはちゃんと考えた上で書いてるさ」


 ルナは読み始めた。

 


「拝啓 ヨハンナさま


 この手紙を開いたと言うことは、僕はもうあなたの目の前にいないのでしょう。

 突然のことになって申し訳ありません。でも、仕方のないことです。

 探さないでください。

 とお伝えすれば、探してしまわれるでしょうか。

 でも。

 探す必要はありません。

 なぜなら、僕はあなたの傍にずっといるからです。

 いえ、今までだって、僕はずっとあなたの傍にいました。

 あなたが常に僕の傍にいたように。

 どんなに離れていても、二人の心は繋がっているのです。

 これまでも、これから先もずっと。

 だからどうか悲しまないでください。

 


 末永くあなたを大切に思う

             ミロスワフより」

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