第六話 童貞(1)

――ジャックの声明文より


 初めに言っておく。


 俺は今まで女の味方だった。親からは何があっても女に優しくと育てられてきたし、誰よりも親切にしてきた自信がある。


 こんな優しい男など、この世界に他に居はしない。


 心の底から断言出来る。


 にもかかわらず、だ。


 女どもは俺を選ばない。


「あなたは優しいけど、男性としては見れない」


 こればっかりだ。


 で、そんな女が選ぶ男に限って暴力を振るったりするろくでもないやくざ者で、いともたやすく乳繰り合っているだろう?


 暴力的な男こそ、女の好みであるかのように。


 普通の人間が与えられて当然の恋人というものが俺にはおらず、ずっと童貞のままなのだ。


 クソックソックソッ。書いているだけではらわたが煮えくりかえってくる。


 俺のような女の味方が、女の権利の擁護者が、なぜ女への尽きせぬ憎悪、破壊衝動に取り憑かれるようになったのか?


 それには、もちろん理由がある。


 あの夜、俺は部屋の隅で鏡を見ていた。


 毎度見るのも嫌になる。俺の顔は不細工なのだ。


 美男が言えば正しいことも、この顔が言えば犯罪になる。


 そしたら、突然、俺を呼ぶ声がしたんだ。

 


 安穏とあの善き夜に身を任せてはいけない

 老いぼれは日の暮れにこそ 燃え 喚け

 怒れ 去りつつある光に 怒れ


 死にゆく賢者は闇にこそ正しさがあると知る

 ゆえにその言葉はジグザグの光を放ちはせず

 あの善き夜に安穏と身を任せたりしない



 アブの囀りのように、耳元で、低く言葉が囁かれた。


 言い知れぬ怒りが身のうちに巻き起こっていた。



 俺は振り返った。


 すると、いつも使っている書き物机の上に一冊の本が乗っていた。


 背には大きな金文字で『鐘楼の悪魔』と書かれている。


 俺は手に取った。


 読んだ。読み耽った。ページの最後まで息も吐かさず。 


 そこには、この世の真理が記されていた。


 俺は気付いた。これまで自分が騙されていたことを。全ての女に復讐をせねばならぬことを。

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