第2章 第4部 第7話
鋭児は再度光量を落とした、スマートフォンをのぞき込み、煌壮の記した、集落の正面の位置を確認し、鼬鼠達とともに、その付近まで身を移す。
そして、目視をするのだ。
気を集中した鋭児の目が赤く鈍く光る。
「森の先が少し開けて、道が見えますね。少し明かりがあるのは……見えますよね?」
「ああ……」
そういった鼬鼠も目に気を集中させて、鋭児と同じ方角を見る。
「木の上に、二人……だな。こっちには、まだ気がついてない……な」
煌壮は。相手との絶妙な距離を残してポイントを打ち込んでくれたらしい。おそらく獣の気配程度の敏感さで反応する彼らを感知し、また感知させ引いてきたのだ。
だから、その範囲外の鋭児達の気配に、彼らは感づけないでいる。
そして、鼬鼠の探索能力はそれより広い。
「鼬鼠さん。オレと乾風がまず行きます」
そう言っている秋山は、ずいぶん冷や汗を掻いており、緊張の色を隠せない。
鼬鼠は心配などしない。それが最良の手だとも思っていない。何しろ相手が何を考えて居るのか解らないからだ。
ただ、どのみち新は時間ごとに、生きたまま解体されてゆくのである。そんな残酷な時間との闘いを強いられ、深慮などしている時間はない。
精神の崩壊や、ショック死という可能性も踏まえなければならない。
冷酷な判断だが、乾風と秋山が先行してくれるのは、ありがたい。そして、それと同時に灱炉環が立ち上がる。彼女が二人を守るというのだ。
「先輩方。私の側から離れないでください」
「あ……ああ」
乾風と秋山は、灱炉環の歩調に合わせ、暗闇の中、僅かに解る山道の輪郭を慎重に見極めながら、足を進める。
「ガキが三人……だと?」
すると、確かに二人ほどの若者が、木の上から姿を現す。
灱炉環達はすぐに構えるのだ。灱炉環が防御に秀でているのは、道中に説明されている。よって、彼女の側から離れなければ、敵の先手はほぼ防げるというわけだ。
これは鼬鼠の想像に過ぎないが、集落の人間も、探知能力に優れており、且つ能力的に、中堅程度をそこに当ててくるだろうと、踏んでいる。
そして、灱炉環の能力が知られていない以上、間違い無く初手で倒されることはない。
「へぇ……東雲新ってのは、よっぽど人望ないんだな」
彼らはヘラヘラと笑っている。
これに対して、秋山達は何も答えることはない。彼は新の事をほぼ知らない。パーティーの時でさえ、更の側にいたくらいで、親近感があるとすれば更の方である。
ただ、それを踏まえると、誰のために彼女を助けなければならないか?ということが、彼らの中でも明確になる。
「三刻防楯!六刻防壁!」
灱炉環がそれを唱えると、乾風と秋山の前方にそれぞれ三点の点が現れ、それを結ぶようにして、赤色に光る半透明の盾が現れる。
そして、彼らはそれを知ると同時に、盾を前面に、それぞれの相手に飛びかかるのだ。彼らがそこまで思い切りよく飛び込めるのは、灱炉環が描いた盾があるからだ。
有利であるのは、いずれにせよ初手が取れることだった。
盾ごと相手にぶつかるもよいし、防いでもよい。
そして、盾は灱炉環の能力であるため、彼らの直接的な消耗に繋がらない。
二人は、盾ごと相手に突撃することを選択する。
だが、彼らはそれを防御して、受けきることを選ぶのだ。ビクともしないというわけではないが、彼らはそれを堪えるのだ。
「乾風、此奴等おそらく地属性だ」
「なるほど、防衛網って訳ね」
このあたりは、流石に学年上位に食い込んでいるだけの事はある。相手こそ選んでいるが、対戦成績は豊富なのだ。
そして、当たりに対する反応で、彼らの力量が解るというものだ。
「圧気弾!」
それは手のひらに気を貯め、撃ち放つ技であるが、風属性の彼らがそれを行うとかなりの密度を持った気弾となる。それを連射するのだ。
「くそ!ガキのくせに!」
防戦になり完全に手が出せなくなっている。そして、完全に防御姿勢に入ったところで、足下から順に、気弾をぶつけ、彼らを打ち崩してしまうのである。
そうなるともう、手向かう手段はない。
「ふぅ……」
短い時間だが集中はした。実力は自分たちの方が上だが、命を取られる可能性のある実戦の場で、僅かに精神的な疲労感が出る。
「縛っておきます」
灱炉環は、腰に下げているポーチの中から、細めのヒモを取りだし、彼らを後ろ手に拘束する。そして足にもきっちりと縄を掛けるのだ。
「先輩。二人を。木の根元に……」
灱炉環に指示された二人は、門番達を運ぶと、彼らは木の根元に括り付けられてしまう。
「大地系の自力でも、このヒモはほどけませんので、しばらくおとなしくしておいてください」
それは、自分たちが彼らの命を奪う意思はないという、灱炉環の呼びかけでもある。
「強いな……東雲の連中は……はは」
灱炉環の一言に、安心をしたのか、妙に悠長な言葉を発するものだと、灱炉環は思った。
それにこうしている間に、新が拷問を受け続けているのだ。
「テメェら後で、新さんの苦しみを全員に味わってもらうからな……」
そう言って、先を行く秋山と乾風の後ろを歩く鼬鼠と鋭児がいた。
そんな二人は、明らかに格が違うと、縛られた門番達は思うのであった。
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