第2章 第4部 第5話

 決定的に鼬鼠がそれに気がついたのは、やはり東雲家でのパーティーだったのだ。

 鼬鼠は今後、自分の信じる腹心を作ってゆかなければならない。

 

 鼬鼠が、灱炉環を連れ、寮の出口にまでやってくると、東雲家所有のリムジンが彼を迎える。

 だが、予想外のことが起きる。

 一つは、鋭児を含めて乗車人数が明らかに多いのだ。そしてもう一つは、出迎えたリムジンの中には、鋭児と煌壮が乗っていた。

 「は?」

 「え?」

 お互い、素っ頓狂な声を出しながら、クルマの内外を挟んで、一時停止するのである。

 「おい黒野!部外者連れてくんな!クソが!」

 「てか、なんで乾風さん達もいるんすか!」

 

 「此奴等は、東雲家志望だ!だから、降りろチビザル!!」

 鼬鼠の恫喝に大して、煌壮のチキンハートが疼く。思わず縮こまり、鋭児の腕にぎゅっと抱きつくのだ。

 「鋭児兄!」

 どうやら、鼬鼠のオーラが見えてしまったらしい。

 「えっと……不知火の爺さんが、修行件恩返しだって……」

 「はぁぁあ!?」

 恩返しとは勿論焔の命を助けた事に対する鋭児への礼である。そして同時に煌壮の見聞を広めるためでもある。

 これは、不知火家の顔も立てろとそういうことである。鼬鼠の頭は痛い。かといって、乾風と秋山をおいてゆくと事も出来ない。

 「どうにかしろ!!」

 「えっと……」

 鋭児は完全に腰が引けてしまっている煌壮を見るが、降りる事だけは断固拒否するように、首を横に振るのである。

 

 結局状況としては、ジャンケンで負けた乾風が、助手席に乗り、煌壮は鋭児の膝上、灱炉環も鼬鼠の膝上となる。

 「翔様……その……」

 流石に店員オーバーであるこの状況は、いかんともしがたいと、ドライバーが鼬鼠に声を掛けるのだ。

 「ウルセェ出せ!」

 あまりこういうことのない鼬鼠は完全に顔を真っ赤にしてしまっている。そして、まさか鼬鼠の膝上に座らされることになるとは思わなかった。灱炉環も顔を真っ赤にしているが、こちらは満更ではない様子である。

 

 「え……鋭児兄……なんかちょっと当たってる……」

 「が……我慢しろって……」

 煌壮は若干腰の落ち着きどころがなく、モジモジとしており、だがそれも満更でもないようである。

 「けどさ……だって……」

 「う……動くなって……」

 鋭児の膝上でモジモジとしている煌壮の様子が、若干艶めかしい。

 

 そんな両者の間に挟まれた秋山はある意味地獄でる。

 

 ずいぶん夜中となる。

 到着した場所は、薄暗い山中である。そこにはもう一台車が止まっていた。

 そして、車か降りてきたのは、千霧と蛇草である。当たり前であると言えば当たり前だ。新が捕まったというのだから、ある意味これ以上の人材はいない。


 

 そもそも、新が捕まったと解ったのは、彼女の携帯からで、それはおそらく集落の伝令約といえる者からの連絡だったのだ。

 新がなぜそんな無謀な行動を取ったのかを理解できるのは、千霧と鋭児だ。

 彼女は、蛇草に対する対抗意識から、東雲家に従属する集落の開拓を行おうとしていたのだ。それも自らの有能さを示す形での開拓だ。

 随行していたのは雲林院一人だ。

 「姉貴……」

 「翔……。それに……えっと……」

 「こっちが煌壮で、こっちが赤銅さんです。炎の能力者で、二人ともクラスⅠに所属していて、煌壮は順位戦で一位を取っています」

 鋭児がすかさず、二人の紹介をする。

 「煌壮さんは、一度顔を合わせているわね」

 蛇草はちゃんと煌壮の事を覚えていた。鋭児の取り越し苦労のようだ。すると、煌壮はこくりと頷く。

 「赤銅……赤銅家の?」

 「はい」

 「そう。ある程度の守備は任せていいようね」

 蛇草の判断は単純で、第一クラスに所属しているほどの人材で、赤銅家とくれば、まず基本は叩き込まれているはずだと思ったからだ。

 「お任せください」

 普段、控えめな灱炉環であるが、その返事は思いのほかはっきりしている。

 「鋭児兄。オレ拙攻行ってくる。まぁ偵察程度になるけど」

 煌壮が一歩前に出る。

 「蛇草さん、集落の方角は?」

 蛇草はすっと森の中を指指す。

 「鋭児兄。あの人動揺してるから、ちょっと落ち着かせておいて」

 ここ最近、甘えてばかりの煌壮だったが、その表情は引き締まっていた。このあたりは流石だと思う。ただ、闘士である彼女が、そんな動きが出来るのか?という疑問だが、彼女の木野のコントロール能力を考えれば、かなり気配を殺した状態で動けるだろうと鋭児は思った。

 「で?相手の条件は?」

 鼬鼠が蛇草に肝心な部分を聞く。

 「言わないのよ。ただ、納得出来なければ、一時間ごとに、指一本ずつ、切り落として切り落とす部分が無くなれば首を撥ねる……って」

 「おいおいおい!電話から、四時間は経ってるぞ!!」

 「ああ!新!」

 蛇草は気が滅入ってしまい。その場に崩れてしまう。

 鋭児がそれを支えるが、今の蛇草は、完全に判断能力を失ってしまっている。

 「馬鹿女が……」

 鼬鼠は舌打ちをする。

 

 「で、集落の方角はどうやって?」

 「GPSです。その消失が、そのあたりで……」

 「じゃぁ……」

 「はい。集落の中心部とは限りません……」

 「煌壮を……待とう」

 「しか……ねぇだろう」

 

 鼬鼠も動けなかった。

 散会して探す方向もあった。だが、この状態の蛇草を含め、自分たちがそれを行うと、里中に張り巡らされた罠に嵌まる可能性や、警戒網に引っかかり、強襲される可能性がある。


 そのとき、蛇草の電話がなる。

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