第2章 第3部 第13話
鋭児は炎皇の部屋に戻る。
そして煌壮もついてくるのだ。彼女は運動着に着替える前に、すっかり自分のものとした鋭児のジャージを慣れた様子で着替えて、ベッドに腰掛ける。
そして鋭児も神村に言われて居る事がある。
一週間早い彼女の試合解禁にあたって、開始前開始後に、きっちりと彼女のメンテナンスを行うことだ。それ自体は、煌壮が怪我を負ってからの日課でもあるのだが、要するにこれもまた、鋭児の修行と、時期炎皇の育成ということなのだ。
「どう?」
最後に仰向けになって、腰回りのストレッチを受けつつの、煌壮の反応である。
「うん。問題無いと思うんだけどな」
確かに少しずつ動く事に慣れていかなければ、順位戦でトラブルを起こしかねないとは思った。
「とりあえず、今日は勝ち負け拘らずに……って所かな」
「闘士としては、余り負ける前提ってのはなぁ……それに、目標はちょっとデカいからな……」
そう言って、チラリと鋭児の顔をみてから、再び目を閉じる。
それから、ベッドの半分を譲るのだ。
「えっと……」
「いいじゃん。昼寝しようぜ」
「バカ。折角解したのに……」
「いいから」
煌壮はベッドの空いている方を、バンバンと叩いてアピールする。
煌壮は、鋭児に身体を解して貰い眠たい気分だし、鋭児自身も彼女のケアで、少し集中力が切れている。脳のリフレッシュにはそれが一番良さそうだが、ならば本来自分が使うべきベッドが炎皇の部屋にある。
「やっぱ鋭児兄は、オレの事まだ許してくれてないんだな」
「いや、もうそれイイだろ?お相子だって……」
「別に焔姉みたいに、イチャイチャしよって言ってんじゃないんだからさ」
「イチャイチャって……」
オムライスの一件以来……といってもホンの二日ほどだというのに、煌壮は随分自分との距離を縮めようとしている。確かに、ファミレスで彼女が言ったように、吹っ切れたのだろう。
ただ少々甘えたが過ぎるようにも思えるが――――。
「解ったよ」
鋭児は煌壮が譲ったベッドの上にごろりと転がり、腕をスルリと煌壮の頭の上に腕を伸ばす。
煌壮としては、肩を並べて寝る程度の発想だったのだが、それは明らかに腕枕の準備である。
「んだよ……それは、ちょっとサービスが過ぎるっつーの……」
と、ブツブツと言いながらも煌壮は、鋭児の腕に頭を擡げ、残りの昼休みをそうして過ごすのだった。
「やば……寝過ぎたか……」
煌壮は目を覚ます。特に午後からの授業に遅れるタイミングというわけでは無い。
ただ、ノンビリと着替えていると、時間はオーバーしそうだが、抑も午後からの授業は誰に試合を挑むも挑まないも、彼等の自由である。つまり傍観している自由もあるわけだ。
ただ、ある程度試合を熟し、良い成績を収めていないと、順位戦で良い成績を得たとしても、必ずしも望む順位が出に入る訳ではない。
よって、試合を制限されている煌壮は、それだけハンディキャップがあるということだが、クラス内での順位で言えば彼女は現在十五位と言う位置になり、クラス内の順位を維持、もしくはほどほどに上げる程度であれば、順位戦で一位を取るだけで良い。
ただ、一回戦負けをしてしまうとなれば、一つ下のクラスに落とされる可能性も大いにあると言った具合だ。
「鋭児兄。オレ先いくからな」
「うん……」
煌壮は一応鋭児を揺すって起こす素振りを見せるが、鋭児は生返事をするだけである。
煌壮が部屋を出ると、リビングには、灱炉環が待っていた。煌壮が午後の授業前に炎皇の間に立ち寄ることは、すでに知っており、恐らくそこで有ろう事を察しての行動だ。
「キラちゃん、そろそろ着替えないと……」
「あーうん」
ぶかぶかの鋭児のジャージが、すっかり寝間着代わりにもなってしまっている煌壮は、未だ半分眠たげに、灱炉環に応えるが、彼女は若干ソワソワとした様子を見せる。
「鋭児兄の腕枕よかったなぁ……」
煌壮は大胆に上着を脱ぐと、肌着は身につけていない。
つまり煌壮はその状態で鋭児に身を寄せていたというわけだ。
それから、居間のソファに置かれていた自分のバッグの中から下着を漁り身につけ始める。体操着などはそこに入っているというわけだ。
当然ズボンの下も何も履いていない有様であある。
「キラちゃん!炎皇様が出てきたら!」
「鋭児兄あれ、多分起きねぇよ。けっこうぐっすりだし」
「そう……なんですね……」
灱炉環はドキドキが止まらない様子である。そして煌壮が着替え終わると、漸く一安心といった様子を見せる。
二人は部屋を出る。
「キラちゃんと、炎皇様本当に仲直りしたんだね」
まるで我が事のように安心する灱炉環の表情は本当に柔らかい。こう言う彼女の裏表の無い優しさは、彼女の魅力の一つでもあり、煌壮もあまり彼女を突き放すことが出来ない要素でもあった。
「うん。まぁ意地張ってても強くなれねぇし」
「そう……だね」
そして、以外に根に持つようで、こうしてサラリと意識を変えることの出来る煌壮の性格を、灱炉環の方も嫌いでは無かった。
捉えようによっては都合のよい性格ということになるが、立ち直りの早い性格なのだ。
ただ、それを容易く許してくれるほど、周囲は甘くはない。
灱炉環以外に煌壮を見て、声をかける者はいない。彼女の清算は、未だ終わってはいないのだ。
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