第2章 第2部 第20話
その頃、アリスと美箏は、以前彼女が暴漢に襲われそうになった、神社に来ていた。
理由の一つとしては、アリスがお守りを必要としていたことにあるが、もう一つは、美箏の能力のコントロールをするためだ。
昨日アリスが見せた人形遊びなのだが、矢張り家の中でそれをするのは抵抗があるらしい。
神社と言っても、本殿ではない。
その中にいくつかもうけられている、普段あまり人の来ない小さな社の階段に座って、静かな環境でそれを行っていた。
見知らぬ他人に見られたところで、大した害はない。奇術だと言えば、それで説明できてしまう。要するにそこそこ成長した自分達が人形遊びに興じている姿を、両親に見られたくないという美箏の希望である。
アリスは、気を遣って、小さなクマの縫いぐるみを立たせたり、歩かせたりしているが、美箏は掌に兎の縫いぐるみをねかせたまま、手足を動かして見せる。
ただ、念糸で操り人形の如く操作しているアリスに対して、美箏は自分から出る黒い手を操りながら、人形の手足を操っている。
つまり現在それが美箏に操れる範囲であると言うことだ。
「なかなか、手を使わずに手を使うという操作は、今までの生活ではなかったことだから、難しい鳧知れないけど、イメージでいいのよ。貴方がこうしたい!って。可愛い人形を机の上で歩かせたい。じゃぁどうやって、歩かせたいか?操り人形のようにしたいけど、糸も作りたい、人形も動かしたいじゃ、一度にやることが多すぎるでしょ?」
「そうですね……」
「そうね。そうだ、この熊の縫いぐるみを、鋭児と名付けましょう」
「え、鋭児君……ですか?」
「そうよ?ほら、美箏!一緒に遊ぼうよ!……なんて」
アリスは態々声を幼くして、科白を強調するのである。しかしそんな小さな言葉が、美箏の心を擽るのだ。美箏が意識を集中すると、今まで掌で寝そべっていた人形が、どうにか立ち上がり、よちよちとぎこちなく歩き始め、アリスの方へと向かい歩き始める。
ただし、そのままでは掌から落ちてしまう。
美箏は、階段の上に縫いぐるみを歩かせるために、両手をそっと降ろす。
すると、アリスも階段の上の人形を美箏の方に向かって歩かせ始めるのだ。
「ふふ、そう。上手」
「もう……少し……」
そして、どうにか、兎の縫いぐるみは、熊の縫いぐるみの所まで辿り点き、二匹の縫いぐるみは、助け合うように、ハグをするのだ。
「こうやって、遊びながら毎日練習すれば良いわ」
「はい……」
美箏がそんな返事をするのは、間違い無く鋭児が、そちら側の人間だと言うことを知ったからだ。彼の赤く変質した髪は、その証だと知った。
そして、自分の黒く変色した人差し指の黒い爪も、それと同じなのだと。
しかし、全ての問題が解決されたわけではない。
非常識なこの力をどうやって、両親に説明擦れば良いのかという疑問が残る。笑顔を作ってみる美箏だが、矢張り晴れやかなものとはならないのだ。
「美箏?」
「何?」
「少し、手荒な客人が来たみたいだから、驚かずに私の後ろにいなさいね」
そう言うと、アリスは静かに立ち上がり、美箏も同じようにして、立ち上がる。何があるのかは解らないが、アリスが自分のセンナかを美箏に寄せる。
それは戦いてのことではない。地分を守るという彼女の意思がハッキリと感じられる背中だ。余り背格好の変わらない、いや、動もすればアリスのほうがホッソリとして思えるが、それでもその背中は、何事にも動じないという覚悟を感じる。
「なんだよ。もうちょっと、飯事やっててもよかったんじゃない?
少し下卑た栄美を浮かべ、木立の影から、水色のバンダナを巻いた男が静かに姿を現すと、数人の仲間が次々と姿を現す。
美箏は、気の訓練に意識を集中していたため、僅かなりともその気配に気が付くことは無かった。アリスはどうなのか?と、美箏は思うが、彼女は丁寧に自分を社がに誘導するように、彼等と対峙する。
人数は五人。構成は、男性三人に、女性二人といったところだ。
年齢は総じて自分より年上だが、それほどかけ離れて離れているわけでもなさそうだ。彼等の落ち着きぶりから見て、恐らくこれが初めての敵対という感じは、受けられない。
アリスはまず頭髪を見る。全員属性やけが見られない。次に手を見る。特に底にも属性やけは見られない。
属性焼けは、頭髪に出やすく、次に指先、足先、肌などに表れやすいのだ。
特に局所に現れる場合は、器用さに長けている事が多く、肌に表れる場合は、気の総量に由来していることが多い。
よって覚醒痣を持つ者であれば、非常に力に恵まれている事の表れとなる訳だが、それは一見して分かるものではない。
「大丈夫」
アリスは少しだけ、後ろを振り向いて、美箏に微笑み掛ける。今は美箏を不安にさせないことが一番である。それ一番の不確定要素となり兼ねないからだ。
「黒髪の姉さん。ちょっとそっちの眼鏡の子に、話があるんだけど、いいかな?」
「ダメよ。私も美箏も貴方たちなんて知らないもの」
アリスはそう言い切り、彼等との交渉の余地を持たない。何故底まで自分の人間関係をハッキリと把握しているのか、美箏には解らなかったが、あの時のようにアリスが何らかの形で、自分を見守ってくれていたとしたならば、満更不思議なことではないのだろうと、美箏は、アリスを信じる事にする。
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