第1章 第7部 第31話
場面は鋭児のいるアリスのコテージに変わる。
彼は美箏からの写真を受け取っていた。そこには彼の帽子を被った美箏と千霧のツーショットが映されていた。
美箏と千霧が出くわした経緯は、鋭児に語られることは無かったが、この両者が顔を合わせるのは、何れあり得ることだった。
それ自体には余り驚きはないものの、まさか自分がいないタイミングだとは思いも依らなかった。
抑もは、鋭児の家が整理されるに至っての事で、帽子のお裾分けは、彼の断捨離でもあったのだ。
元々それほど持ち物の多くない鋭児だったが、残された僅かな備品も、整理するつもりであった。ある意味鋭児は、完全にその土地から離れる気でもあったのだ。
学園で過ごすことが、新たな自分のスタートであり、せめて祖母の墓前で恥じることのない自分であれればと、思ってのことだったのである。
だが今、その場所は皆が集まりたがる場所となりつつある。
「姉ちゃん。次のクリスマスパーティ、ウチでやらない?」
鋭児がアリスをそう呼んでしまうのは、気を抜いた瞬間でもある。それを口にした瞬間、鋭児は思わず口を塞いでしまうのである。
「まぁ美箏は私と属性が同じというのもあるけど、鋭児は力がありすぎる分、普段からねじ伏せすぎるのよ。以前よりは随分上手になっとは思うけど」
そういって、アリスは相変わらず鋭児に繋がっている黒い紐を引っ張ってみる。
抑も鋭児が、アリスの家にいるのは、焔と吹雪に、暫くアリスの面倒を見るようにと言われたからだ。今回は直ぐに目を覚ましたようだが、彼女の未来予知的な言動や思考は、それなりに彼女の負担となるのである。
その代償が眠るという行為に至るのだが、それを今、何のために使っているか?というのは、アリスしか知らず、それに関しては本人がはぐらかすばかりなのである。
鋭児とて、順位戦や属性戦を控えているというのに、当面の間はここから高等部に通わなくてはならないのだ。
焔は当面重吾と属性戦に向けて調整を行うらしい。双龍牙双脚などの動作チェックなどは、鋭児ともやったが、矢張り重吾のほうがより正確なアドバイスが出来るのだ。
吹雪も、静音と属性戦を行う予定であるが、吹雪は静音を自分の後釜に据えるため、本格的に彼女を鍛えるつもりなのだ。
よってアリスを押しつけたのである。
ただアリスは徐々に鋭児に加える力を強めており、鋭児はそのたびにコントロールをし直すという作業の繰り返しでもある。
アリスが鋭児に繋いでいる糸は、彼から気を吸い上げると同時に、自分の術を流し込んでいる術でもあるのだ。
当然鋭児がそれを引き抜けたときは、アリスの術から解放されことを意味する。
三学期の順位戦は、高等部二年生と一年生のみだ、鋭児はもう誰も寄せ付けることはなくなっていた。今まで彼が秘めている膨大な気の力のみで、言わば彼が持てるポテンシャルがそれを支えていた状態だったのだが、その出力が非常に高く絞られた状態になりつつあった。
一つは描く星がふわりとした炎というよりま、まるでレーザー光のように鋭い光の筋に近いのである。
尤もそれは非常に集中力の高い状態で描かれたものであり、時折はまだその筋が乱れる事がある。星の精度が高いということは、消費エネルギーに対して、技がより強力になるということだ。
そしてそれは焔よりも、高い精度の星であるといえる。そして、アリスに繋がれていた黒い糸はもうない。
アリス曰く、もっと強力な糸も練り出せるとのことだが、今回はこれまでと言うことらしい。
より高い修行を望むなら、来期はもっと強い術を掛けるとのことだ。
ただそれを行ってしまうと、鋭児が日常的に疲弊してしまうようになるため、重要な時期には行いないと、釘を刺されてしまう。
鋭児の決勝の相手は、相変わらず晃平となってしまう。恐らく今後はこのツートップになると、誰もが理解していた。
F組の頂点を決める舞台であるため、晃平は炎の能力を中心に戦うことを強いられるが、本来の彼は、全ての属性を使いこなす事により、相手の不利な立ち回りをするという、特殊な存在である。
それでも今の鋭児には、適う気がしないというのが、晃平の言葉だったが、鋭児は彼の本来の全力というものを未だ見たことがない。
それだけが唯一、この年度の心残りとなる。
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