第1章 第4部 第2話
夏休み某日―――。
実家へ戻る者も多く、量には人が極端に少なくなる時に、それは決行された。
人の良い重吾は、囲炉裏訪問を無視出来るわけもなく、彼女の来訪を断れるわけもなく、向かい入れるために扉を開けた瞬間、其処にはまさしくエプロン一つしか着用していない女子が手弁当を一つ持ち、彼の部屋の扉の前に立っていたのだ。
現状は、というと。
裸エプロンの囲炉裏を自室に押し込め、彼自身は部屋の外へ、携帯電話一つ持ち飛び出したという具合だ。
焔、吹雪、鋭児の三名が重吾の部屋の前にまでやってくると、背中で扉を塞ぎながら、三角座りをしている重吾が、疲れた表情をして、項垂れていた。
「んだよ。情けねぇな。学年四位の重吾様が、一年女子に振り回されてよぉ」
焔から言わせれば単純な話で、其処までしている女子など、ぺろりと食べてしまえば良いというだけのことだった。
「いや!ダメでしょう!焔さん。俺達学生ですよ!」
重吾は基本的に、同学年でも焔のことをそう呼ぶ。
それは、鋭児が彼女をそう呼ぶのとは、少し違うニュアンスである。重吾の中には、明らかに彼の中で、それに対する順位付けがある。
「学生はダメらしいぜ?」
と、半分しらけたような視線を鋭児に送る。それと同時に、吹雪は何も聞かなかったかのように、そっぽを向いてしまう。
復唱した焔そのものも、そのだめな学生なのではないか?と思ったのは鋭児だった。しかし、その関係を築いているのは、自分であり、言うだけやぶ蛇になってしまう。
重吾としては少し失言になってしまう。
炎皇や氷皇となると、学生でも特権階級扱いであり、彼らの素行の殆どは不問に処される。
極論重吾が仮に不純に性行為に走ったとしても、焔の一言で、どうにでもなってしまうのだ。
ただ、それには囲炉裏がどう出るか?というのも、重要な事なのだが、この場合囲炉裏の方がアピールしているのだから、問題は全く無い。
「鋭児、クラスメートだろ?」
「いや……マッパの女子とか……」
「はぁ?お前、今更気にする柄かよ」
「いや、それとコレとは別だろ!」
「ったく……」
焔は面倒くさそうにため息をつくのだった。
「で?男子としては、裸エプロンは、やっぱロマンか?」
「は!?今ソレかよ!」
「どうなんだ!つってんだよ!」
「アンタほんとタマにめんどくせぇな……」
鋭児は怒ってみるが、そう言う焔が好きなのもまた事実である。大ざっぱな男子脳な焔だからこそ、熱く語れる部分もある。こう言うときは、昔から連れもっている悪友のような焔が、鋭児の回答を待っているのだ。
眼差しは真剣、内容は皆無。妄想的な興味に、すっかり駆り立てられている。
「そりゃ……まぁ」
鋭児は口元を押さえて、少し赤面しながら、想像してみながら、少し吹雪の方をチラリと見る。
そのタイミングで自分を見るのか?と思った吹雪だが、鋭児が自分のそう言う後ろ姿を想像しているのだと思うと、嬉し恥ずかしくなり、両手で顔を覆って、強く顔を横に振るのだった。
「もうヤダ!鋭児君たら!」
吹雪はそう言っているが、誰が見ても嫌ではないのだろうというのが一目瞭然なほど、照れてしまっている。
「し……仕方ねぇな。今度やってみっか……裸エプロン……」
焔は自分自身がそういう姿をして、鋭児を待ち構えている構図を想像して、自分自身で照れてしまう。
鋭児も、焔の健康的な背中とおしりがさらけ出されている、無防備なエプロン姿を想像してしまう。何より、豊かなバストのサイドラインが、隠されずに見えてしまっているのである。かなり具体的な妄想である。
それでいて、珍しく恥ずかしそうにしている焔が、妙に色っぽい。
「いや……その……焔さん……雹堂……」
話が前に進まなくなってしまった重吾は、話を元に戻すよう、遠慮気味に呼びかける。
「解った解った。とりあえず、囲炉裏に服を着させりゃいいんだろ?」
妙に興奮した自らの心を静めるかのようにして、態とらしい冷静さを装いながら、重吾の部屋の扉に手を掛ける。
勿論焔だからこそ、重吾の部屋も出入り自由ということなのだが、重吾の部屋に自由に出入り出来る女子など、学園広しといえど、彼女だけである。
理由は兎も角、焔は遠慮無しに重吾の部屋に入るのだった。
「囲炉裏一年~!」
焔は彼女を呼びながら奥まで入って行く。
といっても、四位位である重吾の部屋は、他の生徒と同じ作りである、態々探す必要もないのだ。奥へ真っ直ぐ進めば、ベッドと机と箪笥がある程度の作りは、どの学生もさほど変わりは無い。
「焔先輩!」
と、奥から二人の声が聞こえる。
扉は開けっ放しになっているが、其処には囲炉裏の姿は無い。キッチンの後ろに仕切られたカーテンの向こうでの会話だ。
「うお!それが裸エプロンか!」
「そうなんですよ!吾壁先輩照れチャって、すごく可愛いんですよ!」
そんな会話が、聞こえて来るものだから、男子二人は気まずそうに聞き耳を立てている。
そんな中、吹雪は様子が気になり、ズイズイと奥へと向かっていく。
「囲炉裏、お前のケツすげー可愛いな!なんだそれ!」
「そうですか!?」
「コレはある意味最強だぜ……」
などと、変な会話が奥から聞こえるだけで、事態は全く好転しそうにない。
抑も焔を行かせたことが問題なのだと気がついた男子二人は、思わず首を左右に振るのだった。
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