第1章 第3部 第2話

 晃平の素性が少しだけ垣間見えた所で、試験後の彼等は、寮の屋上に集まる。要するに焔の部屋の外である。其処には、いつの間にか筧も姿を現している。

 筧は黒野鋭児暴走?事件中に、焔に対して真っ向から指導を願い出た例の二年である。

 食堂で見かけた序でらしい。

 「まぁ、アレだ。近接格闘に関して、鋭児は別に言うことはねぇけど、やっぱ場数だな。晃平は兎も角、筧も圧倒的に揉まれてねぇし、まぁ静音はまぁ……欲がねぇよな……」

 そう言われると、各自コクコクと頷いている。晃平に関して何も言わないのは、彼が家族と不仲で無いというのなら、指導そのものは受ける事が可能であり、彼は何時でも技術を磨くチャンスが有るということで、いや寧ろ彼の場合は、敢えて表に出していないといえる。

 筧以外のメンバーは、それを理解している。

 「けど、今度の順位戦の結果如何によっちゃぁ、バトルにゃ困らなくなるだろうな」

 と、焔は鋭児の方を見る。

 鋭児が現在、誰からも挑まれないのは、一つ、彼の成績が最下位に位置付けられているからである。現状彼の立ち位置から勝負を挑まれるのは、自ずと一年のクラス4と限られているし、権利的にも鋭児から挑む形になる。それと、一年F4そのものが和気藹々としており、意識として、あまり高い戦闘意欲を持っているわけではないのだ。

 クラス替えは、二学期の始めに行われることになるが、この順位戦で勝つことは、本当の意味で一年生が、ランク付けされると言うことになり、鋭児の立場がハッキリとすることになる。

 そうすると、彼を押しのけなければ成らない者達が、必ず彼に勝負を挑んでくることになる。自ずと経験を積む事になるし、多の属性のクラスでも、腕試しに顔を出すだろうし、何も属性を超えての友好関係は、焔や吹雪に限ったことではない。

 開発授業の放任的な方法は、彼等に自由を与えているというわけではないのだ。鋭児には晃平ぐらいしか居ないし、筧は一人でいるようだし、今のF4は晃平という求心力があり、あまり他クラスと交流を持とうとしない。

 何かと問題は多い。

 中間順位戦は、色々なものが見えてくる。まずクラス内での順位付け、誰がそのクラスでのトップであるのか、そしてトップ達の実力の程度。順当に行けば、予想通りの結果となる。

 また、決勝トーナメントもそうなるように組み合わせられる。単純に言えば、F1クラスの、一番手二番手には、一番遠い組み合わせとなり、彼等が決勝で当たるように組み合わされる。

 続いて、F2クラスの者達が、離されて組み合わされる。

 順当に行けばこの四人でトーナメントの準決勝を行うことになる。他の四人は、離されて組み合わされるが、上位二クラスの二名のいずれかと当たるように仕組まれている。

 彼等は様々な方法で力試しをされることになるのだ。そして、この順位と日常に行われている対戦で、学期末の順位戦における順番が決められるのだ。

 ただ決勝トーナメントで勝ちを拾っても、日常の勝ち星で、地位が覆らない事がある。

 たとえば炎皇という焔の地位は、炎皇戦で勝つことが絶対条件条件であり、基本的には炎皇戦のみで入れ替わる事になる。

 炎皇戦の基本的な流れは、現在炎皇である焔と戦う権利を、挑戦者が争うことになり、その権利を持つ者は、学年において、その範囲は無く少なくともF1クラスに所属しておく必要がある。

 そのためには、この学期末までには、それなりの実力を見せつけておかなくてはならないのだが、今の鋭児はポテンシャルと経験が、非常にアンバランスなものがある。簡単に足下を掬われかねないのだ。

 兎に角、少々のミスで順位がひっくり返らないように、ポイントを出来るだけ多く稼いでおく必要がある。

 また、大学生達も条件は変わらず、高等部と大学部を交えて、炎皇戦が行われることとなる。

 

 炎皇の間、つまり焔の部屋で行われた一通りの稽古は終わり、夜も随分更けてきた。

 

 夕食の支度は、吹雪が行ってくれる。焔に任せておけないのが、本音の一つだ。吹雪の手伝いは、静音がするため、男連中はリビングに追いやられてしまう。

 その間に、まず焔がシャワーを浴びる、やはりこの中で一番の運動量を見せたのは彼女であり、指導となると尚熱くなる。言葉よりも絶えず実戦である。だから人一倍汗を掻くのだ。

 吹雪も汗を掻いていないわけではないが、矢張り男子も数名居ることから、焔の部屋で安易にシャワーを浴びる気にはなれない。

 静音も同じ理由である。

 晃平と筧は、部屋に戻って同じようにシャワーを浴びても良かったのだが、吹雪に料理を作らせて、自分達だけ、シャワーを浴びるなど、出来る訳がなかった。

 結局、シャワーを浴びて快適になったのは、焔一人という事になる。

 

 鋭児は、待っている間に、待ちくたびれてしまい、そのまま眠りこけてしまう始末である。

 試験終了後から、ぶっ通しでの特訓で疲労がピークに達してしまったのが、要因の一つである。

 何も焔の部屋での合宿は初めての事ではない。だが、鼬鼠との対戦の時とは、その性質が大きく異なっていたし、気合いも随分違っていた。精神に打ち込まれた楔の度合いが異なるため、緊張を維持しきれないのである。

 そして一番の理由は、やはり鋭児がポテンシャルのみが先行しているという、事実である。

 第4クラスの者達が能力が低くとも、そのキャリアは圧倒的に鋭児より上である。彼等は能力を使うことその物には、長けているのだ。

 今のままでは、長期戦に持ち込まれると、酷く集中力の欠いた試合をすることになる。それが何よりの課題だった。 

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