第二十七話 俺の今後

「...........よう、終わったか?」


「はい。何度もすみません。」


「まぁ、お前は病人だからな、介抱がねぇとマトモに動けねぇんだろ?」


「はい。」


「便意は仕方ねぇけどよ、体にも気をつかえよ。」


「はい、気を付けます。」


何がとは言わないが漏れそうだったので走ったら全身からの激痛に見舞われ、また腕を振ったことによって傷が開きまた血が出るという馬鹿をした俺は何とか間に合いましたが怒られています。


まじで忘れてたからなにも言えん。


「んで、このまま戻るのか?」


「んーと...........」


酒飲んでくたばって、気が付いたら寝てて族長さんに呼ばれて..........今日なにもしてないしなぁ、何もする気が無いしなぁ。


............あ、


「魔法使ってみたい」


「あ?」


「えっ」


しまった口に出てしまった。いつもの癖が仇にぃ!


「お前魔法使えないのか?」


「使えないというか...........知らないというか。」


「まじか、それでゴブリン殺したのか?」


「まぁ、火事場の馬鹿力ってヤツですよ。」


「かじばの、ばかぢ?」


「え」


もしかしてここにことわざって無い?まずい


「えと、土壇場で偶々力が発揮しただけですよ。」


「おぉ、そう言うことか。」


考えてみればそうか。ことわざって、昔の...........地球において昔の人達が作ったものだからな。こことは歴史というか、技術というか、根本的なものから違うだろうから、そんなものがないのか。


そう考えると、気を付けないとな。


余りにも向こうのままでいると怪しまれるだろうし。多分、ここにいる人全員俺がこここの世界の住人だと思ってる。


さっきの大和さんの反応からも分かる。この世界において魔法は当たり前で、知らない方がおかしいという認識を持っているっぽいし、だから分からないと言った俺を信じられないものでも見たかのような目をしてたんだと思う。


..........いや、これ魔法の知識まっさらでゴブリンに勝ったことに対して驚いてるのか?


分からんくなってきた。


「ふむ、迅、お前魔法に興味あるか?」


「!?」


「あるんなら、鎌風隊長のところで教えてもらったらどうだ?隊長は教えるのが上手いし、確かこの時期なら講習もしてたはずだ。」


「まじっすか。」


めちゃくちゃ興味あります。てか、男の子なら誰しも夢見るだろ!魔法使えるかもしんないんだぞ!


「行ってみたいっす。」


「そうか、なら決まりだな。隊長に事情を伝える必要もあるし、付いていってやるよ。」


「ありがとうございます!実は場所分からないんですよね。」


「あぁ、そうか。言ってなかったな。まぁいいさ、早速向かうぞ。」


そう言った大和さんは俺の服を噛み、あれ待ってこれデジャ─

「舌噛むなよ?」


「ヴゥエ」


ソッコーで噛みました。







「あ、そういえば俺あそこに用事があるんだった。」


「うえ」


おもいきりゆらされた。

思いやりは何処へ行ったんですか?


大和さんは急用、いや、さっきの口ぶりからするに元の用事を思い出したようで、その歩みを止めた。


「んー、どうすっかな、割りとここから距離あるしなぁ。」


「オイ大和、お前何を咥えてんダ?」


「お、藍華か、丁度良いとこに来たな。」


すると、視界のすみに大和さんとは別の足先が見えた。


姿を確認したいが、首が痛くて回せねぇ。


「そういや、藍華って隊長の講習受けてたか?」


「いや、受けてネェ。だが、今回は何故か呼び出しをくらってそこに行こうとしてるとこだナ。」


「そうか。なら、こいつも一緒に連れていってやってくれねぇか?」


「こいつ?...........あぁ、ここに来た人間カ。こいつが鎌風隊長の講習ヲ?」


「そうだ。こいつ魔法を知らねぇらしいからな。」


「マジかヨ、俺より頭が悪いヤツって居たんだナ。」


おい失礼だぞ。俺は魔法は知らないが決して頭が悪いわけでは...........うん、まぁ、全部は否定しない。


「そう言うわけだから、よろしく。」


「あぁ、任せとケ。」


そう言うとグェッ............ 受け渡しは完了したようだ。


そしてタタッという音がしたのを聞くに、大和さんは走り去ったのだろう。


「おう、お前隊長の講習を受けたいんだってナ?」


「うぇっ、ま、まぁ、そうでっすね。」

揺れる揺れる


「まさか魔法を知らないとはな、逆によくここまで生きてこれたナ?」


「まぁ、魔法がなくても生きていけましたからね。」


「そうカ.........だが、ここに居るなら魔法を覚えなくちゃならなイ。良かったな、教師が隊長で。俺の知ってるなかで一番教え方が上手い狼だと思うゾ。」


「そうなんですね。」


「ま、俺は受けないけどナ。」


「何でです?」


「俺は隊員に入れられるほど魔法を上手く使えるからナ、講習に参加する必要がないんダヨ。」


「講習って、魔法だけ教えるんですか?」


「いや、そもそも、あの講習はケイサンだとか、チケイだとかを学ぶためのやつで、魔法はほとんどオマケみたいなもんダナ。だが、コツが上手く掴めないやつとか、鎌風隊長に教えてもらいたいヤツだとかに人気だから定期的にやってるって話ダ。」


「そうなんですね。ありがとうございます、教えてくれて.......えーと?」


「ア?あぁ、俺は藍華だ。ヨロシクナ、時亜 迅クン。」


「トア、かジンのどっちかで良いですよ。よろしくお願いします、アイカさん。」


「ケイゴなんて使わなくていいゼ、ジン。なんかキモチわりぃからヨ。」


「え、何かだめでしたか?」


「いや、ジンのケイゴが可笑しいんじゃなくて、使われるのになれてなくてダナ!?」


「ぷふっ、分かってるよ、それぐらいは。」


「ア?からかいやがったな!?」


「俺のことを頭悪いって言った仕返しさ。」


「う.........わぁったヨ、これでお互いサマナ。」


「あぁ、じゃあ、改めて、よろしく、アイカさん。」


「さん付けも要らねぇんだがナァ。ま、いいカ。」


タメ口で話せる相手が出来て良かった。割りとフレンドリーな感じだったからタメ口で話しやすいし。


でもねでもね、咥えたまま歩くのはやめようか。




「うぉぅ」


「あー、悪かったナ。病み上がりの人間に耐えられる速さじゃなかったナ。」


「む?どうしたんだ?」


あの状態で走るのは鬼畜の所業ではないか?こう、腹部を下から押し上げられながら内蔵をシェイクされるような感覚はいつになっても慣れないものですね、はい。


「うっ」


「ア?」

「だ、大丈夫─」





目の前に広がるのはレインボー




「おい、仮にも怪我人だぞ。」


「はイ、申し訳ないでス。」


「一応話は通していたはずだが?」


「いやー、早めに着いた方が良いかなと、思いましテ.......」


おぉ、何か四足歩行の生物がこれでもかという程反省してます感を漂わせる座り方するの初めて見た。


こう、物理法則丸ごと無視して足関節曲げて正座してるという表現がしっくり当てはまりそうな、なんとも器用な座り方である。


絶賛叱られ中の藍華、それを眺める俺というなんともまぁシュールな光景である。


室内でやるのかと思ったらそのまま説教が始まるものだから何かを言って逃げることも服を難しくなり、かといって何かを話し出すことも出来ずオロオロしていたら自然とこの図が出来た。


端から見ると何だコレだろうな。


俺でもそう思うよ。


そしてまた嫌なのが側を通る狼達が例外なく必ずこっちを見てくることなんだよ。対象は俺じゃないけどさ、共感性羞恥がさ。


もう十分叱ったと思うし、足りないならせめて外じゃないところでしませんか?


「これで何回だ?」


「いや、何回だなんて聞かれる程はやってないっ─」

「大和に届け出を出すよう頼んだことをすっぽかし水仙様からの忠告を無視して落とし穴に落ちて修理中だからするなと言ったのに道場で訓練をし壁を破壊し挙げ句の果てに舐めるなと言ったはずのゴブリン相手に突っ込んで罠に嵌まり上半身を土に埋め」

「─すいませんでしタッ!」 


ごりごり常習犯やんけ!

今ので片手が塞がったんだが、言い方的にまだまだあるっぽいぞ。てか修理中の壁をぶち抜くってのは頭おかしいだろ。あの広い場所でそこ一点だけぶち抜くのはある意味天才なのか?


「ともかく、怪我人の扱いについては気を─「あら?」っ!?」


えすっご。今鎌風さんの首がグルィンってなったよ?


「その子って確かこの前怪我をしてウチで治療した子じゃない?..........へぇ?」


おっと、このおっとりとした喋り方をする狼が来た瞬間に二人の顔が真っ青になったぞ?そして二人とも、何故その人から目を背けるんだい?


「ねぇ、この子をここにつれてきたのは誰?」


「あぇっと「藍華です。」ちょっ、隊長!?」


「あら、藍華なの?.........なるほど、成る程ねぇ?」


「ひぅ」


わお、しゅ、修羅だ、修羅が降臨なさっとる。


「傷口がまた開いてるし、破けた服、そこから見える肌の色的に腹部を中心に軽度の圧迫ってとこかしら?」


え?合ってる。トイレ行ったときに開いた切られたとこの傷が今になって痛くなってきたし、服の下部分咥えられてたから腹部も圧迫されてたし。もしかして魔法で検査を?


「ねぇ藍華?私、貴女に何度か怪我人に対する対応や処置の仕方について教えたことあるわよね?」


「あっ、はい。教えてもらってましタ。」


「その時、怪我人は慎重に扱うようにって、かなり言ってたわよね?」


「えー、あ、はい。そう言っていましたネ。」


「貴女のお得意の忘れてましたってヤツかしら?」


「いやっ、えっと、そーじゃなくてですネ。」


おー、言葉と顔が一つも合ってねぇぞ。人と話す時はちゃんと目を見て話さないと。目の前の狼じゃなくて俺と目が合うのは何故なのか。


あぁ、俺が治めろってか?


無理だわ流石に。


自分の目で見て分かってるだろ?笑ってるのに目が一度も瞬きしていないことに。声色は穏やかなのに背後の修羅が一向に消えないことに。


「あの、本当にすいませぐぇ」


「鎌風さん、この子借りてもいいかしら?」


「え、えぇ、思いっきりやってあげてください。」


「た、たいち─」


ずるずるずると、一回り小さい狼に連れていかれる藍華の姿はなんとも憐れで、そしてこう思わずにはいられなかった。








南無三




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