第三十三話 たった十分近くで結構人と話せるよね

鎌風さんを、いや、鎌風を精一杯睨みつける。というか、自然と視線が鋭くなるわな。


本気でそんな風に考える奴なら、もう相容れることはないだろう。好んで話したくなるような相手ではなくなるのだから、話す機会もなくなるかもしれない。ワンチャン講習も別のに変えるし。


「っ..........そう、だな。ここぞという場面で私も、躍起が回ったのかもしれん―」

「そんなん聞きたいんじゃないんだよ。」

「.............すまない、藍華。」

「...............っぁ、いえ、俺も、悪かったですシ」


「藍華さん、自分の非を認めるのはいいですけど、そう簡単に許しちゃいけないんですよ。」


藍華さんから鎌風に目を向ける。


「人の身内の死を利用するカタチで脅してきたんだ、コイツは。俺から言わせれば、ただのクズとそうそう変わらない。」


自分のやったことを他人から責められたからか、露骨に視線を逸らす鎌風。


........お前一応大人だろ?何自分のやったことから目を背けてんだよ。それに、テメェが謝罪したからってこの件が終わったわけじゃ―


「な、ナァ迅。もう、終わろうゼ?俺はさ、気にしてねぇからヨ。だから、ナ?それに、周りのヤツらも..........」


藍華さんに言われて気づいた。周りからの視線がかなり集まっていたことに。


.........正直納得はいってない。もっと鎌風コイツは反省すべきだし、俺からもまだまだ言いたいことがあるし。それに視線が集まっている方が都合がいい。どう思ってるかは知らないが、これだけ自分の失態を他者から見られればそうそう忘れることはないだろうからな。


もし同じことすれば根が腐ってるってことになるし、コイツがそこまで腐ってるとは思いたくない。


だが、あくまでこれは藍華さんと鎌風との間の問題だ。我慢ならないから俺が割言っただけであって俺に関する問題じゃない。これ以上藍華さんが望んでないなら終わるだけだ。自己満足のために怒ってるわけじゃないしな。


「..........分かった。だけど、これは許されることじゃないからな。」


返事は返ってこない。だが振り返る気は起こらなかった。そうしたところでって話だ。


「行きましょう、藍華さん。」


「あ、アァ。」


さて、これからどうするかなぁ。




/////////////////////


『..............なぜ、この様な者だけが残ってしまったのだろうか。』


『あの子よりコイツが死んだほうがマシだったんじゃないの?何故神様はコイツを残したの?』


『そもそも、お前がコイツを放任したからこんなことになったのではないか!?』


『な、何ですって!聞き捨てなりませんよその言葉!それを言うならアナタがコイツに狩りについてのことばっかり教えて何の学も身についてない状態のままにしたからじゃないんですか?!』


『なんだとっ!俺のせいにするのか!』


『ええそうですよ。あなたが少しでも勉学について興味を持たせていたらこんなことにはならなかったのですよ!きっとそうに違いないわ!』


『いいや、そんなことはない。俺はアイツに勉学について触れさせる時期を何度もくれてやった!だがアイツは、何も、何もしなかった!代わりに狩りには目を光らせたんだ。だから狩りだけを教えてやってたんだよ!それに、お前だって最後には了承していたではないか!せめて何かできることを増やしてやろうとな!』


『なっ、自分を棚の上に上げるつもりですか!』


『うるさい!大体お前はっ―』



............あれからずっと、アタシは、いや、俺はただジブンの親が言い争うのを聞き続けるだけと生活を送っていタ。



最初は...........ジブンが記憶している最初の頃は、皆笑顔で優しかっタ。とーちゃんは大好きな狩りについて何でも教えてくれたし、かーちゃんはいつも好きな料理を作ってたらふく食べさせてくれタ。そして、にーちゃんは毎日講習であったこととか、魔法のこととかについて話してくれタ。毎日が楽しくて楽しくて仕方なかっタ。毎日が新しいことばかりで、とてもキラキラしていタ。そんな日々がずっと続くと、そう思ってタ。



だが、全てがおかしくなったんダ。




全てのキッカケは、にーちゃんの死。



俺は信じられなかっタ。いっつも笑っていたにーちゃんがずっと帰って来なくって、いつになったら帰って来るのかと待っていたら、急に族長が来て、


にーちゃんが死んだっテ。


それからだ。毎日毎日、とーちゃん達が言い争うようになっタ。ずっとおんなじように互いを責めて、おんなじような言い訳をして、そして、二人して俺を責めテ。


幼少期の俺が何も言えなくなるほどにボロカス言ってきた親だったが、何でかは知らないが殴る蹴るなんていうことは一切してこなかっタ。だが、殴られたのと同じぐらいにはずっと苦しかっタ。


ずっと部屋の隅で泣いていたと思ウ。もうあの頃のジブンがどうなっていたかを覚えてないから、どうだったかを詳しくは話せなイ。


だが、ハッキリと覚えているのは、親のケンカが酷くなり始めてからのことだっタ。



『キャァ!!』


いつものケンカの時には聞こえなかった叫びを聞いたんダ。その時もジブンの部屋の隅で泣いていたはずだが、かーちゃんの悲鳴が嫌に鮮明に届いタ。


ずっと俺のことを責めてきて、家族とも思ってくれなくなって、そんな親の元に向かったって意味がないってことくらい分かってタ。行ったところでまたジブンに責任をなすり付けてくるんだろうかラ。


でも、流石の俺もおかしいことに気付いて、勇気を出し外に出たんダ。例え怒られても、行かなくちゃならないってその時思ったかラ。そしたら、


『お前のっ、せいだっ!』


『や、やめて........』


かーちゃんの身体が真っ赤になってたんダ。多分真っ赤だったと思ウ。顔は真っ白だったけど、腹の部分から下にかけて赤黒いものが流れていた。向かう途中からずっと臭っていた鉄が錆びたような、嗅ぐだけで生暖かさを感じさえする嫌な臭い。かーちゃんから出てるその臭いに鼻がひん曲がりそうになったけど、それよりも驚いたのは、とーちゃんが悪魔みたいになってかーちゃんを襲っていたことだっタ。


『な、何やってんだよとーちゃん!』


俺は咄嗟に叫んだ。多分、誰だってそうなるだろう。だけど、あの時に叫んだのが悪かったんダ。


『ぐぅぅ、アイカァ、お前のせいだぞぉぉォォォ!』


『えっ、ぐぁっ!』


とーちゃんが俺を爪で引っ掻いたんダ。殴りつけるように大振りだったが、しっかりと俺に爪を立ててきて、振り抜いたとーちゃんの手が俺の腕に深い切り傷をつくった。ジブンのカラダに傷ができて、そこがバックリと開く感じ。生暖かいのを感じてすぐに広がる鋭いジクジクとした痛み。


『うわぁぁぁぁ!』


『止めてっ、アナタ!』


『お前もだぁぁぁ!』

『キャァァァァ!』


引っかかれて、叩かれて、投げられて、どれだけだっただろうカ。ただただ痛かったから覚えていないが、かなり時間が経ってから族長や鎌風隊長がやってきて、とーちゃんを止めタ...........いや、多分違ウ。殺したんダ。


あの時は、とーちゃんは危険な状態だったから村から追放したって聞いてたカ゚、あれは........族長の手は、


そして、かーちゃんも死んダ。とーちゃんが暴れてる間、ひっしで俺の事を庇っていたんダ。鎌風隊長から聞いタ。


『君の母親は、私達が駆けつけた時、君に覆いかぶさるような形で倒れていた............その時にはもう』


ずっと、温かいナニかを感じていたのを覚えていル。それがかーちゃんのあったかさだったのか、流れる血だったのかは知らなイ。知りたくもなイ。ただ、このカラダがほんの少し赤いのは、そういうことダ。


どうしてあれほどにまで俺にボロカス言ってきたかーちゃんが俺を守ったのかは知らない。でも、にーちゃんが死んで、家族がバラバラになって、一人になったことだけは確かだっタ。


それから、にーちゃんの、家族の名前を聞くたびに気持ち悪くなるようになっちまっタ。


鎌風隊長が言うには、ってヤツだったか?何であろうと、情けネェ。言葉を聞くだけで怖気づいちまうなんて............今日も、そうだっタ。


『佐久馬が死んだ件を、覚えているか?』


忘れてたあの痛みを思い出して、辛くなっテ。


だけど、



『俺はそういうやり方で無理やり物事をやらせる奴が、死ぬ程嫌いなんだよ。』


この村に来たニンゲン、迅が、その話の続きを遮ったンダ。


別に、俺の過去を知ってるわけじゃないだろうシ、俺に同情の言葉をかけてくれたわけじゃナイ。でも、その時俺は、ほんの少しだけ救われた様な気がしたんダ。


ジブンでもよくわかっていなイ。


あの会話の何処に救われるような言葉があったかわからなイ。


だけど、あの時俺は確かに、迅に救われたんダ。


...............あの時の迅の雰囲気は少し怖かったガ、でも、コイツとは、もっと仲を深めてみてもいいかもしれなイ。




/////////////////////



休み時間。



学校ではそう呼ばれる、普通の人達はトモダチとワイワイガヤガヤ遊んだり話したりする時間。


だが、このよつな休み時間を、転勤族の俺は何度か経験したことがある。


だが決して慣れている訳ではなく、寧ろ回数と年齢を重ねていくにつれより不得意になっていったと思う。


ちなみにだが、知ってるはいない。


陽キャなら、この状況でも、チーッス、今空いてる?友達になんない?と声をかけられるだろう。


だが、俺は紛う事なき陰キャであり、特に取り柄なんかもない、何処にでもいるモブだ。陽キャのようにできるか?無理に決まっているだろう?


そして、俺を今一番苦しめているのは、


「うあー、やっちまったぁ。」


鎌風にガチ怒り事件さっきの出来事だ。


あれが決定打であった。


周りの狼達が明らかに俺から距離を取っているのだ。あのいやらしい笑みを浮かべていた狼ズも今では俺を視界に入れないようにしている。


あ、目が合った。あっ背けやがった。


とまぁ、こんな感じである。詰んでーら。


こんな状況ならボッチで生活をする覚悟を決めたほうがいい気もするが諦めないぞぉ!


因みにあの後、藍華さんは体調が悪くなったのか知らないが、


『ちょっと、外の空気を吸ってくル。時間になったら戻るから、安心しロ。』


と言って重い足取りで教室を出ていった。


勿論鎌風と同タイミングにはさせなかった。あんな奴と一緒に教室出ても何もいいことないだろうしな。そんなわけで今絶賛ボッチを謳歌中なのである。


さ、さぁ会話相手ひいては今後のオトモダチ探しをしたいんだけど、どこかにいい狼さんいないかなぁと。



おっ?部屋の隅に近い席に一匹狼さん?くん?がいる。


いや、でもぉ、あそこに突っ込むのかぁ。い、一歩目が出そうにない。


いや、やるんだ陰キャオレ!この一歩が偉大な一歩になるのだから!


/////////////////


「はぁ、つまらない。」


僕は一人でそう呟いた...........講習なんかつまらない。


知っていることをただ復唱するだけの場所だと感じているからだ。


早く帰ろうかな..............ん、何?


どんどん近寄ってくる音に、僕の耳が反応する。誰かは分からない。


「な、何か用?あっ」

「あ、あのぉ、あっ」



そこには、アイツの姿はなくて、僕よりもちょっとだけ大きい、今日来たばかりのニンゲンが居て。


声を出すタイミングが被って、お互いに気まずくなってしまった。


////////////////


あー、えーっと。何でだ?めっちゃ困るんですけど、どうしてこうなった?


何故か目の前にいる狼と話すタイミングが被って気まずくなってしまった。ど、どうしよう。次のタイミングを、いや、ここだ!


「「あっ、あの!あっ」」


ま、また被った。さ、流石にもうタイミングを掴めないぞ。背中が嫌に熱くなって、顔がヒヤッとした感覚を覚える。恥ずかしくて体温が上がる感覚だ。


えぇ、どうしよう。


「..............君は...初めて来た?」


お?向こうから機会を!?よし、


「時亜 迅です。よろしくお願いします。」

「う、うん。よろしく。」


.................会話伸びねぇ。えぇ、うわぁ、この世界にマンガやアニメがあるわけ無いだろうしなぁ、ゲームなんて以ての外だろ。広がる様な共通の話題が一つもない。どうしよ。



「君はぁ、ユウキさん、ですよね?」


「え、あ、はい、そうですけど。」


「よ、よかった。自己紹介されてないし、パッと見だと見分けがつかなくて。」


「あ、そう、だね。僕たちは匂いとか、関わった時間とかで見分けられるようになってるから。」


「............ 」

「............ 」


みんなぁ(誰?)、気まずいよ!どうしよう!?言葉が見つかんねぇ!


「えと、その、よく、鎌風先生にあんなふうに反抗できたね。」


「え?」


「いや、鎌風先生ってものすごく強くて、結構怖い狼だから、中々意見を言える狼なんていなくて、だから―」

「間違ってる奴に偉いも偉くないも関係ねぇよ。」

「っ!」


「ある程度の間違いなら俺だってあそこまで強くは言わなかったさ。俺も流石に礼儀の一つや二つは覚えてる。目上の人にどう接すべきかは十分理解してる。だけど、あれはどう考えてもダメだろ。」


「.................。」


「他人のトラウマ引っ張り出してやらせるやり方なんてドクズのそれだ。脅迫と何ら変わらない。いい大人が声を大にして、ではないが、それを普通の手段と言わんばかりにスラスラ台詞を出したのが気に食わなかったんだよ。もっと別の言い方があっただろうし、念頭にあんなこと思い浮かんでも、間違ってもあれを口に出しちゃいかなかった。途中まではもっともなことを言っていたんだがな。」


「.............でも、間違ってるなんて、強い力を持つような奴に言えないよ。」


「?あー、まぁ普通ならそうだな。俺もそう上からどーのこーの言える立場じゃないから、むしろ間違ってる事を間違ってると言えないタイプの人間だ。」


「え?ならどうして、」


「まぁ、頭に血がのぼったからな。」


「頭に、血が登った?」


「あれほど酷いやつじゃないけど、似たようなことで別のことをやらされていた事があったからな。藍華さんと自分が重なって見えたんだろうよ。」


「重なって、か。」


「そうそう。可笑しいと思わないか?他がこうだからお前もこうなれって。自分は自分、他人は他人だろ?皆違って皆いいだ。向き不向きはある程度ある。だから、よっぽどひどくない限りは個人の得手不得手を真っ向から否定して矯正するよりも好きなことやらせたほうがいいと思うんだ。」


「...........分かんないよ。」


「まぁ、理解されなくてもいいさ。これもあくまでおれの意見であり考え方なんだから。」


「でも、いいね。その考え方。君みたいな考え方ができたら、僕は......」


「ん?」


「い、いや、何でもないよ。」


「そっか。」


明らか事情ありそうだけど、無理に距離を詰めるのは以ての外だな。............いやぁ、こんな重たい話した後にこんな話すんのか。言いづれぇ。


「............ あのさぁ、ユウキ、がよければなんだが。」


「?」


「あの、友達.............は無理でもここでの話し相手になってくれないか?」


「え?」


「ここに来てからそんなやつ誰もいないし、藍華さんはあんなんになっちゃったし。心細いから、な?」


「心細い........?あんなこと平然としてたのに?」


「あ、あれはあれなんだよ。」


「全然説得力ないし、むしろさっきの出来事で一人になる道にまっしぐらなんじゃない?」


「ぐ、ぐうの音もでねぇ。」


ほんとよく面倒事に首を突っ込みがちなんだよなぁ。はぁ。


「..........ぷっ、ふふふ。」


「何が面白いんだ、おぉん?」


此奴人が苦しんどるのに笑いやがってぇ!


「はぁ、面白い。久しぶりに笑ったよ。うん、いいよ。友達、なろうよ。」


「え?」


「な、なんだよ、君が言ったんじゃないか。」


いや、そうだけど、なんか軽くね?っていうか、理解が追いついてないっていうか。


「まぁ、そういうことだから、よろしく。迅君。」


「お、おぉ、よろしく、結城さん。」


「さん付けは止めてよ。なんかむず痒いから。」


「そうか。なら、よろしく結城。」


「うん!」



彼は、とても晴れた優しい笑顔で、そう答えた。




これでボッチ回避だやったぁぁぁぁ!



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