第三十話 異界の知識①

ふと、冷静になってみて思ったことがある。




机要らなくね?って。




いや、四足歩行手を着いたままでどうやって書くの?というかノートをとるの?


人基準だったからこの部屋に何の違和感も感じなかったけど、動物が使うと考えるととても不自然だ。


「皆、刻石は持参しているな?」


?こくせきとはなんぞ。


「あぁ、迅はそういや貰ってなかったナ。んー、そうダ。俺のヤツを特別に貸してやるヨ。」


藍華さんが気付いたようでそのこくせきとやらを俺に貸してくれた....のはいいんだけど、手渡ししてくれないかな?地面からガリガリ音がするんだけど傷付いてない?


「あ、ありがとう..........?」


そして見てみれば、板?でも地面と擦れた時の音からすると、


「石?」


「あぁ、そうダ。俺達はこれに習うことを書き込むんだヨ。」


あぁ、と書いて刻石こくせきか。ほーん、藍華さんの言い様からノートっぽいんだけど、え?


「こ、これだけ?」


「?これだけだガ、何か他に要るのカ?」


「えと、ペンとか消しゴムとか、鉛筆とか。」


「ぺん、けし......なんだソレ?」


「え?」


「いや、ハ?これさえあれば書けるだろ。」


「書ける..........!」


おいおい、それまじで言ってんのか!?


「もしかして、爪でこう、ガリガリと削っていくってこと?」


「ア?それしかないだロ。」


うわー、そうだった。これが人間との感覚の違いってことなのかもな。藍華さんたち牙狼族は大きなくくりで見れば動物。俺たち軟弱な人間とは違い自然界で生き抜くために進化していった存在だから、あらゆるところが人間よりも強い。爪でもおんなじことが言える。だけどね、


「藍華さん。俺、爪で書こうとすると痛みで死んじゃうよ。」


「エ?.........ア。」


ようやっとお分かりになられましたか。とても気まずそうに眼をスススと逸らしていく藍華さんを見ればさすがの俺でも感づける。


「あぁー、そうカ、何かその、悪かったナ。.......だが、そうなると、どうやってこれから習うことを書くんダ?」


そう、そこなんだよ問題は。俺この石をどのようにしてノートとして利用すればよいかという問題が発生するのだ。ふむ、どうすべきか。


「..............!」


いや、あるじゃん解決策!気づいたならすぐ行動に移すべし、よし!


「物体生成、物体構築。」


授業中だからこう、光とかは抑えた感じで迷惑が掛からないように。そう念じるとあら不思議。本当に光量を抑えて発動した。いやー、この能力って何でもありですごいね!


「?どうした?迅。」


「いえ、何でもないです。あと、書くことに対しては何とかなりそうなので、大丈夫です。」


「お、おぉ、そうカ。それならよかっタ。」


さっきの事をまだ引きずってるのか気まずそうな反応をされた。種族が違うんだから違いがあるのは当たり前だし別に気にしなくてもいいのに。


会話することもなくなったので鎌風さんの方向を見る。俺が手に持っているのは手で持ちやすいように創りだした木の破片である。先っぽはちゃんと鋭いし、ゴブリンもどきならぬ通称エンペラーゴブリンなるモンスターの首を切り取ったぐらいの鋭さと頑丈さを備えてるんだから、石ぐらい削れるだろと考えていたが、予想通り。


試し書きならぬ試し削りでは耐久性、削り加減それぞれがとてもよろしかったため大満足。これで安心して講習を受けれる、と思っていたのだが.....気付いてしまった。


俺、魔法の知識まっさらやん、と。


この世界で常識とされてる話をさも当たり前のようにされたらついていける自信がまったくない!地球こちら側と同じ認識で使えるっていう考えは多分甘いだろうし、そもそも空想のものだったから使えるっていう具体的なイメージ湧かないし。どーすればいいんだろ?


物体生成、構築これは多分魔法とは違うよなぁ。」



名称は勝手に決めちゃったけど、魔法を使っているような感覚が全くしない。よくあるマナ消費による倦怠感らしきものがないし。


「........ま、なんとかなるやろ。」


そう思わせて。



「さて、では講習を始める........前に、君達は前回出した課題を終わらせてきたか?」


おっと、何か流れが変わったぞ。前回の、課題?俺今日からだしそんなの貰ってないのだが?


「初めはその答え合わせをする。持っている者は机上に置くように。」


そう鎌風さんが言うと、他の狼達が徐に自分の体毛の中から別の石板を取り出した。え、お前達の体の構造どうなってんの?どうやったら縦に石板を入れられるの?それも魔法?


「では始めるぞ。藍華と迅君は分からないだろうから、口頭で伝えることを書き取ってほしい。」


おぉ、流石は隊長さん。やってない人への対応もしてくれる。ここは優しさに思いっきりあやかろう。


「前回、とは何なのかについて、君達の基礎知識を試したが殆んどが誤った認識をしていたな。課題はそれを問うものだったが、自信を持って答えられるよう学んだだろうか。魔法の知識は生きる上で必ず身に付けなければならないものだ。普段の生活から戦闘まで、幅広く我々を支えているものの理解を深めることで、いざという時に役だつ。しっかりと聞くように。」


ほうほう、魔法は生きる上で大切ねぇ。こっちの科学技術が丸ごと魔法に入れ替わってると想定すれば良いのかな?となると、尚更今回の解説はありがたいな。鎌風さんに感謝。


「ではまず、題材である魔法とは何なのかについてだ。論理的に言うならば、我々がを通し、を消費することにより、詠唱に対応する現象を発現させるというものだ。ファイアボール等が良い例だ。詠唱をし、手元に火の玉を生み出し発射する。」


ほうほう、ありきたりだがいい例だな。てか、ファイアボールあるんだ。もしかして向こうの知識が案外通用したり?


「だが、勘違いしてはいけないのが、その様な現象はということだ。」


ん?無から産み出されてはいない?


「先程までの説明からすれば、魔法とはただただ便利なものであるという印象を受けるだろう。だが、必ず魔法には発動するための対価を必要とする。それが魔素........分類別で言うだ。」


ほう?まぁ、あっちじゃなかった訳じゃないが、聞き慣れない単語が出てきたな。体内の魔素か。分類と言うからに、体外のものもありそうだな。


「体内魔素はそれぞれの個体毎に貯蔵量、一度に取り込む量が違う。貯蔵量、取得量は基本鍛えれば増えるが限界はある。そして、我々が使う魔法は段階に応じて一定量の魔素を消費する。体内魔素は自然に体内に貯蓄されていくが、魔法を乱用すれば.........分かるな?必ず体内魔素が枯渇する。」


おぉ、よくある設定だ。テンプレならこの後魔素が枯渇した時の危険性について話しそう。


「魔法の危険性の一つはそれだ。。目眩、吐き気、幻覚、幻痛、個体によって眠気もあるそうだ。そして、体内魔素が完全に枯渇した場合、死に至る可能性がある。」


..........うわぉ、デメリットがでかい方そっちの方だったか。よくあるパターンの気絶するとかじゃなく死に至る.........か。あくまで可能性があるって表現してるけど、そう言うからには死人が出たってことだろう。


鍛えれば貯蔵量とかが増えるって言ってたけど、もしかしてノベルものの気絶を繰り返して、なんていう荒業以外の方法なのかもしれない。


「だから、我々は無闇に魔法を使う戦い方ではなく、魔法を切り札、あるいは決め手として用い、肉体と爪での戦闘を軸とした鍛え方をしている。戦闘訓練において魔法を禁止している理由がこれで分かっただろう。」


ほほーん。戦闘訓練のときは魔法は禁止なのか。じゃあどうやって魔法を用いた実戦訓練をするのだろうか?


ふと周りを目だけで見渡すと、頷いている狼や必死に書き写す狼、やや不服そうなオーラを出す狼等々、それぞれがそれぞれの反応をしていた。んー、不服そうな奴がいることが少し不安だ。


「.........ここまでで質問はあるか?」


出た、言われても周りの雰囲気的に手を挙げられない質問。そう言うのちょっとやめてほしいんだよなぁ.........ん?


井黒いぐろ。」


「はい。」


おお、ここで手を挙げられるのか。すげぇな。だけど、不安ではある。何せ先程不服そうにしていたのは彼だからだ。


「魔素の枯渇が危険なのは口酸っぱく言われてきたから分かるけど、じゃあいつ俺達は魔法を用いた実戦が出来るんですか?」


やっぱそうだよなぁ。あの説明で不満そうにするのは自分が魔法を用いた実戦をしたいからだよなぁ。どうしてそこまでしたいのかは分からんが。


「この講習において基礎知識を学び、訓練において講師がその実力を認めた時に実戦訓練に参加させるようになっている。実戦訓練を行わないことはない。安心するといい。それまでは魔法訓練で自身の魔法の腕を磨いてほしい。」


「...........分かりました。」


大人しく引き下がった。取り敢えずは納得したようだ。よかった。若干空気がピリピリしてたし、あの状態だと息苦しかったし。


「他はないか?.......無さそうだな。では次に魔法の種類についてだ。」


おぉ、ここからは面白い内容になりそうだ。まぁ、刻石の半分近くが埋まっちゃったけど、どうにかなるだろ。


「魔法には大きく分けて二種類、更にそれぞれに段階が存在する。その二種はだ。全てを含め魔法と言っているが本来はこの二つに分かれている。」


へぇ、魔法と魔術は違うんだ。向こうだとどっちがどっちか分かんなかったけど。作品毎に同じ意味だったり違ったり。


「魔法は先程の通りが、魔術は使ものだ。」


...........ん?何だって?


「根本的な違いが分かるだろう。魔法と魔術は同じ様に捉えられる傾向が多いが実際は説明で言った通りだ。魔術は詠唱がない代わりにを必要とする。そして、最も大きな違いはマナを用いることだ。」


ほう!ここでマナか。先程の体内魔素と何か違いがあるのだろうか?


「マナとは魔素を区別するためによく用いられる用語で、本来は、またはと言う。言葉通り体の外にある自然から成る魔素だ。体内魔素とは違いどれだけ使おうが減ることはない。そのため、魔法とは違い連続の使用が可能だ。しかし、魔法と同様大きな欠点がある。それは多くの素材を消費すること、そして発動には必ず魔術陣の描かれた媒体を用意しなければならないことだ。」


な、長い説明だ。書いてる手が腱鞘炎になりそうで嫌になるが得られるものの方が大きいからよしとする。


また周りを見渡すと欠伸をする狼や頭を完全に下に向ける狼がちらほら見られるようになってきた。俺は何もかも新しく感じるけど、やはりここでは当たり前のことなのだろうか。


「更に、使う度に媒体ごと全て消費されるため、複数使用するなら大量の魔術陣を描き、必要な素材を集める必要がある。一長一短というヤツだ。事前準備を行えるなら魔法より優秀なものの様に感じるかもしれないが、やはり使用コストが高いことが難点だ。」


確かに、戦闘の度に求められる素材を多量に消費して...........と考えると費用対効果は薄そうだ。


「だからと言って使うな、とまでは言わない。両方の長所短所を理解し適宜使い分けられるようにしろ、と言っているのだ。基礎的なこの知識を曖昧なものにしない。この当たり前を大切に出来るものが立派な戦士もとい牙狼の民となれるのだ。これで居眠りする様な者は決して先へは進めないぞ。」


そう言って睨みを効かす鎌風さんからの言葉とプレッシャーから顔を上げられない奴等がまたちらほらと。鎌風さんもちゃんと見てるんだな。俺も高校の授業中に寝てたけど、ちゃんと聞かないといけないとは思ってるからな。


「........ここまでで質問は?」


今回は流石に手は上がらなかった。顔を下に向けてる奴等は除くとして、他はちゃんと覚えてるんだな。


「.........これで課題の範囲の解答は終わりだ。では、これから今回の講習の内容に入っていく。魔法及び魔術における属性と階級についてだ。」



ちょ、鎌風さんもう脳ミソいっぱいなんですけど。まだ続く感じですかね?

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