第二十八話 ドナドナドーナードーナー

藍華をのーせーてー


ドナドナドーナードーナー


悲鳴は木霊するー




なにを、されたんだろうね


講習をする場所からちょっと離れたところでポイ捨てされた藍華は、丸まっていた。小刻みな震え付きで。


ほんと、なにされたんだろうね。


「あのぉ」


「何かしら?」


「傷口開いたのは一応、自分のせい、なんですけど。」


「え、そうなの?」


「はい。ちょっと......お手洗いに行きたくなった時に走っちゃって、それで開いちゃったもので。」


「............ 」


おぉ、しゅ、修羅が治まっていく。


成功かな?いやまぁ、一応事実を述べただけですし。


「そう。藍華、ごめんなさいね。私の勘違いだったみたい。」


「あ、あぃ。」


呂律が回ってない。本当に、何をされたんだ藍華さん。まぁ、哀れみはするが当然だとは思う。


「でも、自分が怪我人で、死に際をさ迷っていたことを忘れちゃだめよ?」


「ヒェ」


おっと此方に矛先が。


まずいまずい、俺も片隅でガクガク震える藍華みたくああなりたくはない。


「えと、治療をしてくれたって言ってましたけど..........」


「あぁ、そういえば自己紹介をしてなかったわね。貴方を治療した者で族長の妻、水仙よ。よろしくね。」


「あ、えと、よろしくお願いします。時亜 迅です。」


「ふふっ、よろしくね?ジン君。そういえば......今は傷が開いてるけど、調子はどう?」


「全身の筋肉痛と多少の目眩はありますけど、一応は大丈夫です。」


「まだ貧血の症状は残ってるみたいね。..........本当は増結作用のある食事を摂るのが一番良いのだけど、生憎そんなものはなくてね。ごめんなさいね。」


「いえいえ、気にしなくて良いですよ。生きてるだけで儲けものですよ。」


「............ 達観してるわね。」


「達観なんてしてませんよ。実際死にかけて、そう思っただけですし。」


「まぁ、そう言ってくれるなら助かるのだけど。傷が開いてるのはよくないから、少し粗っぽくなるけど許して。」


そう言うと、青いメッシュの入った白い狼のスイセンさんが開いた傷口に自分の鼻先を当てた。


わ、わぁ。生き物の息吹きを直に感じる........なんもわからんけど。


んぉ?おお?なんか、ピリピリする?


「ふぅ、一応簡易的な治癒魔法をかけておいたから、出血程度の症状は治まるはずよ。」


治癒魔法だって?すげぇ、本当に異世界っぽい単語出てきたな。というか、今のが治癒の魔法なのか。とは言っていたが、イメージしていたものとは違うな。


もっとこう、劇的に怪我が治るとか、人間の治癒能力を強制的に上げるから壮絶な痛みを伴うとか、そんなものを予想していたけど、うーむ、地味だなぁ。


いやまぁ、そうだよな。


地球、ひいては日本で描かれている異世界物の魔法っていうのは、あくまで人間が想像して書いたもので、さらに言えば視聴者ウケするようにいろいろ誇張されたり改変されたものにすぎないからなぁ。


俺のいた世界こちら側で知られている魔法よりも今いる異世界こっち側の魔法の方がよほどリアリティを感じるし、というかリアルだし.......納得できるものがある。


にしても、やはり呆気なさを感じられずにはいられないんだよな、スイセンさんには申し訳ないけど。


でも、効果は確かにあった。さっきムズムズという擬音が付きそうな感覚の後、液体が腕を伝う感覚がなくなった。本当に止まったんだろう。


なんてことを思っているとズズイとスイセンさんが顔を俺に近づけてきた。


びっくりした―

「今回は仕方ないけど、次もし同じことをしたら容赦はしないからね?それなりの理由があるなら許すかもしれないけど。」


あ、ダメカモシレナイ。イル、イルヨ。ウシロニハンニャ様ガ。


「も、もちろん気を付けますよ!」


こうなったら首を思いきり縦に振るしかない。藍華さんがああなったのを見て横に振れる人がいるなら教えてほしい。少なくとも俺にそんな度胸はない。


「分かればいいのよ。貴方はただえさえ危険な状態だったんだから、本来なら絶対安静でいてほしいんだけど、流石にそれはつらいと思ったから。」


え?そんなに危険な状態だったの?俺。


「えと、なんかスミマセン。」


「謝らなくていいのよ。貴方は死ぬにはまだ若すぎるし、若い子を助けるのは年長者の役目だもの。」


優しい人だなぁ、スイセンさんは。というか、年長者か。今スイセンさんてなん―「女性の年齢乙女の秘密について考えるのはご法度よ?」


ニコォと笑うスイセンさん。


あれもしかしてここが俺の墓場かな?


「いやいやいや、そんなこと考えてませんよ!」


というかなんで俺の考えていたことを的確に当てれるんだよ、ってまぶしっ!


突如として視界の右端から光を感じて目をつぶってしまった。あぁ、目がチカチカする、一体なんの光―


「............」


ごとり


「...............」


あぁ、なるほどね?鎌風さんの懐?毛の中から出てきたわけだね?とてもきれいに光っているねぇ。でもさっきまで光ってなかった気がするんだけど、どうして光っているのかなぁ。


「フゥン?」


ダラダラダラダラダラダラ


おっかしいなぁ?俺風邪でもひいたのかな?もしかしたらひいちゃったかもしれないなぁ。傷のせいかもしれない。悪寒さむけ冷や汗はっかんが止まらないんすよ。


あと、何だろうねぇ動悸がはげしいんだよね。





あ、あぁ、さらに動悸が激しくなっていくよ。





僕はもうおしまいみたいだ、さよなら今世また来世で―


「そろそろ講義が始まる時間だな。」


その時、手が差し伸べられたような気がした。こ、このチャンスを逃してはいけないっ!


「そ、そういえば鎌風さん!俺、鎌風さんの講習を受けに来たんですよ!」


そんな"ここで俺を巻き込むのか!?"みたいな顔をしながら全力で顔をそむけても無駄ですよ鎌風さんフフフフフ。俺が助かるために貴方も道連れだぁ。被害を受けないためには俺を助けるしか道はないんですよ?


「そ、そうか。君も参加しに来たのか。だが体調が万全な状態ではないだろう?戻って安静にしていたらどうだ?」


「いやいや、この村で過ごすからには少しでも早く役に立ちたいと思ってましたし、それに講習を受けたらどうだ?ってヤマトさんから言われたので。」


「や、大和ぉ、なぜこんな時にそのような助言を..........」


聞こえてますよぉ、鎌風さん。傷を広げたのは実質ヤマトさんのせいでもあるからさあなたも巻き添えですよ。


「..........なら仕方あるまい。水仙様。私は急がねばならず、彼も私の講習に来たがっていますので、今から彼を連れていきたいのですが、よろしいですか?」


おぉおぉ、お顔が大変ひきつっておられますね。原因は俺なんだけど。


「.................まぁ、いいわ。貴方が講習に遅れてしまってはいけないものね。」


よ、よっしゃぁ!なんとか助かった!自分の機転の良さに感謝だな。よぉし後で鎌風さんに何か言われそうだけどともかくこの場から早く逃げ去って―「今回は見逃すけど........次はないからね?」


............あぁ、ばれてらぁ。


気配を消し音も立てずに俺の耳元でそうつぶやいたスイセンさんはすたすたとこの場を去った。




しばらくして、場を支配していた緊張が解けると、


「まぁ、一人の時は気を付けたほうがいいだろうな。」


そう鎌風さんは言って講習所へと歩を進めた。



俺はそのあとを(何とか立ち直ったっぽい)藍華とともについて行くが、脳内に流れるあの音楽はこびりついて離れなかった。








/////////////


「っくしゅん!ん"ぁ"?...........そういやあいつ怪我人だったが....咥えたまま走ってよかったのか?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る