第14話 復讐始まる

 クコと家に戻った僕は、少し遅めの朝食を取る為に居間に入り、食卓の前に座る。


「おはよう、崇。今日は早起きして、どこかに行ってきたみたいだが、何してたんだ?」

「おはよう、父さん。ただ散歩してただけだよ。最近、運動不足だったから」


 僕は、現在自分自身に起きている事を親には告げていない。


 変な心配はかけたくないし、今自分の体はほとんどまがい物で、妖怪たちと戦っているなんて信じてもらえないと思ったからだ。


 居間の襖が開き、そこから良い匂いが入って来た。


「はい。あなたのリクエスト通り、お揚げ入りの味噌汁よ。あと、あなたの好物の厚揚げ豆腐も用意したわ」

「ありがとう、天川。今日の朝食は僕の好きな物ばかりだよ」

「ええ、あなたの好物はちゃんとリサーチしたわ」

「…………」


 隣を見るとそこには母さんではなく、割烹着姿の天川がおぼんに置かれたおかずを食卓に並べていた。


「天川。何をしている?」

「あら、愛する人の朝食の用意をするのは、恋人の役目でしょ?」


 思いもよらない出来事に、ポカンと口を開いていると、台所から母さんが出てきた。


「乙姫ちゃん。この焼き魚もお願い」

「はい、お母さま」


 二人は仲良く朝食の用意をしている。


「母さん。天川のこと紹介したっけ?」

「もう、崇君ったら水臭い。こんな可愛い彼女さんがいるなら、ちゃんと言ってよ」


 母さんのその言葉を聞いて、僕は違和感を覚えた。こういうのもなんだが、母さんは僕を溺愛している。いきなり出てきた自分の息子の彼女と言い張る見知らぬ女性と、仲良くするとは考えられない。


「いや、母さんこそ僕の知らない間に、随分と近しくなったみたいだね」

「ええ、乙姫ちゃんとは話が盛り上がってね。それに……ふふっ、約束もしたし」


 母さんは、何故か不安になる含み笑いをした。


 僕は不安になり、天川の耳元に寄り小声で話しかける。


「おい、僕の可愛い彼女という人」

「何かしら? 私の可愛い彼氏」

「一体何をした?」

「外堀を埋める次は、胃袋を掴もうと思ってね。ほら口開けて、あなたの大好きな餡かけ厚揚げ豆腐よ」


 天川は、僕の口元に箸ですくった厚揚げを持ってくる。


「母さんにだ。一体何の約束をしたんだ? それに、別に僕は厚揚げ豆腐が大好物じゃない」


 僕の問い詰めに、天川は箸で持っていた厚揚げ豆腐を口の中に押し込んできた。そして、僕の耳元に小声でささやく。


「別に……ただ、意見が一致しただけよ。あなたの純血を守るって」


 彼女の言葉に、危うく僕は口に入れられた厚揚げ豆腐を落としそうになった。


「乙姫ちゃん。お互いに頑張りましょうね」

「ええ、お母さま。私に任せてください」


 この時、彼女の復讐劇に僕は初めて恐怖心を覚えたのであった。

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