第4話
「アニキ、いますよね?」
「ああ、いるな」
夕方に差し掛かってきた頃。
私は美咲さんと美杏ちゃんの後ろを歩きながらアニキにコソリとそう話しかけた。
うわぁ、ここまで来んの?
信じらんない、ないわぁ。
え?何がいるって?
そんなの私たちがぶっ飛ばす対象に決まってるでしょ。
「ちょっと仕事してきます」
アニキにそれだけ言い、私はその場を離れた。
ーー
「おい、アレだろ。夜月の妻子ってのは」
「らしいですね」
テーマパークのアトラクションの裏。
あまり人のいない場所で俺たちはタイミングを見計らっていた。
もうどんな手を使っても構わない。
アイツを、夜月を俺たちと同じ目に遭わせられるのならば。
「これからどうしますか?」
隣で部下の坂田が言う。
「俺が合図をしたらーー」
「俺が合図したら、何だって?」
後ろから聞こえてきた声。
驚いて振り返ればそこには一人の女が立っていた。
高校生くらいの餓鬼だがモデルか何かしてても可笑しくないような容姿をしている。
ただ、その佇まいには相手を圧するような威圧感があった。
只者じゃない。
背筋が凍るような気分だ。
「なんだい、嬢ちゃん。ここはーー」
「うっせーな、黙れ雑魚が……って、どっかで見た事ある顔だな。えーっと、あ、夜月恨んでる下沢組のヤツか」
二マーっと笑う女の顔には見覚えがあった。
坂田が隣で後退っている。
「お前、あん時の情報屋か……!」
「よく分かったな。ごめんな、今は夜月の情報売ってないんだよ。矢神の組長には世話になってるもんでな」
胡散臭い野郎だとはあの時から思ってたが、どうやら夜月の、矢神のヤツらしい。
てことは、俺たちに流してた情報も全部ガセかもしれない。
「お前、よく巫山戯た情報を……」
「何か誤解してないか?私が売った情報は正しいぞ」
ヘラッとした態度で言い放つ女。
そんなヤツを信用出来るわけが無い。
「おい、坂田!あの女をーー」
坂田に指示を出そうと横を見る。
しかし、そこには誰もいない。
驚いて前に視線を戻せば、女が失神した坂田の上に座っていた。
「いやー、遅いね。びっくりするくらい」
「おま、どうして!?」
警戒して一歩後退った、その瞬間。
女は俺の後ろにまわって何か刃物を首に押し当てていた。
なんなんだよ、この女!異様に速え!
もう変な汗が身体中からふきだしているような気分だ。
「ちょっと寝てろ。後でちゃんと沈めてやるから」
女の声が後ろから聞こえ、俺は意識を失った。
ーー
「アニキ、終わりましたー」
「ああ、そうか」
相変わらずどこか掴みどころのない態度だ。
ニコニコ笑顔で戻ってきた時雨に俺は軽くそう返した。
「で?どうだったんだ」
「下沢組のヤツらでした。弱かったです」
ケロリとした顔で言う時雨だが、コイツの弱かったは基本的に信用してはいけない。
というか、報告が「弱かったです」はおかしい。
まあ、初めて会った時から戦闘狂の節があったしな……。
「にしたってこんな所にまでついてくるなんて。驚きですよ」
時雨は呆れたように肩をすくめるが、俺は少々下沢組のヤツらに同情した。
まさかここまで来てこんなガキに負けるなんて思ってもみなかったんだろうな、ソイツらは。
「時雨ちゃん、大丈夫だったの?」
「だいじょーぶ?」
「大丈夫ですよー」
心配そうに話しかける姐さんとお嬢に時雨は笑顔のままこたえた。
コイツよりも相手を心配した方がいい気がする。
生意気でどこか掴みどころがないが、優秀なことに間違いは無い。
身体能力も頭もいい。ついでに言うなら、勘も結構当たる。
何より、このまま育てば顔も体もいい商売道具になるに違いない。
そして、本人もそのことを自覚している。
だから、強いのだろう。
自覚してる奴は強い。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
「うん!」
「そうですね」
姐さんの言葉にお嬢は明るく、時雨はニコニコと笑いながら返事をする。
俺はそんな三人の後ろ姿を静かに見守っていた。
華のJKですが、組長の家族の護衛してます 波野夜緒 @honcl
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます