第3話
「楽しそうですね、お二人」
「そうだな。夜月組長のために写真でも撮っておくか」
遊園地、ポッピングランド園内。
メリーゴーランドに乗っている美咲さんと美杏ちゃんを私はアニキと見ていた。
私も小さい頃は好きだったなー、メリーゴーランド。
園内は賑やかで楽しげな音楽が聞こえてきたりポップコーンの甘い匂いがしてくる。
来るなら遊びに来たかった。
「アニキ、メリーゴーランド乗ってくださいよ」
「何言ってんだ、お前」
「何って、全力で笑ってやりますよって意味ですけ……」
その瞬間、頭に拳骨が落ちてくる。
いや、普通に痛いな!
パワハラだ!
「暴力反対〜」
「俺に言うか、それ」
訳:ヤクザに言うか、それ。
まあ、その通りですけれども。
頭をさすっていれば、美咲さんと美杏ちゃんが戻ってきた。
「メリーゴーランド、久しぶりだったけど結構楽しいわねぇ」
「たのしかった」
乗り終わった美咲さんと美杏ちゃんは楽しそうにそんなことを喋りながらやってきた。
楽しかったなら何よりだ。
私は頭が痛いけど。
いや、自業自得なんだけど。
「次はどこ行きますか?」
「そうねぇ。時雨ちゃんはどこ行きたい?」
美咲さんに聞かれ、パンフレットを見ながら一瞬悩む。
「……スペーススピリッツ」
「絶対言うと思った」
つまり、アトラクションのジェットコースターだ。
アニキが神妙な顔でこちらを見てくる。
はいはい、美杏ちゃんがいるのにすみませんね。
身長制限のある絶叫系で。
すると、一連のやり取りを見て美咲さんが何かを思いついたような顔になった。
「二人で行ってきたら?」
「「護衛の意味!」」
思わず声が揃った。
待て待て待て。私たちがここにいるのは(一応)護衛なんですよ?
この二人から離れた瞬間夜月組長に殺される。
ていうか、ヤクザと二人ではないわ。
私とアニキで何すんの?
……あ、ジェットコースター乗るのか。
「うーん、美杏ちゃんはどこ行きた……」
そう言いかけて、美杏ちゃんが一点をジーッと見つめていることに気づく。
何見てるんだ?
美杏ちゃんの視線をたどれば、そこにはポップコーンを売っている車。
あそこで売ってるアイスとか食べたことあるわ。
「美杏ちゃん、あれ食べたいの?」
こくこくと首を縦に振る美杏ちゃん。
やっぱ食べ物か。
「あらぁ。じゃあ、ポップコーン食べましょうか」
パンフレットにかいてあるケースを指さして私は美咲さんと美杏ちゃんに聞く。
「ケースあるのでそれも買います?美杏ちゃん、何がいい?」
「んー?シンデレラ」
「おー。女の子って感じ」
王子様が来るまで待つなんて信じられない、継母も義姉もぶっ飛ばせよ。そんで、家を乗っ取ってしまえ。
ーーという考えを幼少期に持っていた私としてはThe・女の子の解答がなんだか新鮮だ。
女子力の欠片もなくて悲しくなってくる。
「時雨は……興味無さそうだな」
そして、それを察してくるアニキ。
「その通りです」
私はアハハと笑う。
まあ、普段の私を見てれば容易に想像はつくだろうけどね。
そもそも、こんなことしてる時点でそういうわけだ。
あとは察してくれ。
「じゃあ、私買ってきますよ」
そう言って私はその場から離れた。
ーー
「甘」
第一声がそれだった。
「食レポ下手くそですか」
私のジト目をよそにアニキは顔をしかめる。
「普段、甘いもんは食わねぇんだよ」
「確かに、コーヒーはいつもブラックですよね」
「お前は毎回カフェオレ飲んでるけどな」
そんな雑談をしながらのんきにポップコーンを口にほおりこむ。
……キャラメルポップコーン、甘。
カフェオレは好きだけど、これはまた違う甘さだ。
うん、買わなくてよかった。
私とアニキじゃ食べきれないわ。
いくつかポップコーンをくれた美杏ちゃんにありがとう〜と言えば、少し照れたような顔になった。
可愛い。
「……このポップコーン入れをアニキが持ってたら面白い絵面になるのに」
「お前は俺に殴られたいのか??」
「そんなMじゃないですよー」
カシャッ
お決まりのやり取りをしていれば、シャッター音がしてアニキと一斉に音がした方を見る。
そこにはスマホを構えた美咲さんがいた。
「美咲さん、何撮ってるんですか」
「だって、二人とも楽しそうだったから、つい……」
楽しそう。
思わずアニキを顔を見合せ、首を傾げる。
楽しそうとは。
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