14話 思わぬ歓迎
お風呂騒動からしばらく経った後。
俺はミステルと一緒に、屋敷の食堂のテーブルに座っていた。
ルーク、そしてお風呂で出会った少女も同じテーブルにかけており、そのかたわらにはクロエさんが控えていた。
「ごめんなさい、私。お兄ちゃんのお客さんがお風呂に入っているなんて、知らなくて……!」
風呂場で出会った少女は顔を真っ赤にして俺に謝ってきた。
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。誰もいないことをいいことにストレッチをしていただけとはいえ、驚かせるようなポーズをとってしまいまして……」
俺も少女に対して真摯に頭を下げる。
結局、その後すぐにやってきたクロエさんが事情を説明してくれたおかげで、この少女から変態認定を受けるという最悪の事態はなんとか免れることができた。
ちなみにこの子の名前はアリシアといって、ルークの妹らしい。言われてみればなんとなく顔立ちが似ているように思われた。
「ははは……ごめんよアリシア。食事の準備ができたらキミにも声をかけようと思ったんだけど」
ルークは苦笑いをしながら妹に声をかけた。
「本当だよ、お兄ちゃん! 私も王都からくる冒険者様と会えると思って楽しみにしていたんだからね!? それがあんな……あんな……」
顔を真っ赤にしながらぷんすかと怒っているアリシア。
(そうだね、まさか全裸でブリッジしている姿が初対面とは夢にも思わないよね。消えたい)
「ニコ、アリシアさんといつ知り合ったのですか?」
「ミステル。お願いだから聞かないで」
「……?」
不思議そうな表情で、ミステルは首を傾げた。
「それでは皆さん、改めましてルーンウォルズへようこそいらっしゃいました。ささやかですが食事の席を設けさせていただきました。どうぞ楽しんでください」
ルークの言葉を受けて、クロエさんが俺たちの前に料理や飲み物を配膳してくれた。
テーブルの上にはふわふわのパン、新鮮な野菜を使ったサラダ、燻製が香るスモークチキンなど、どれもこれも美味しそうな料理が並ぶ。
野営の時に食べたミステルの魔族ジビエも美味しかったけど、こういう料理を見ると心躍るものがある。
料理をひとくち口に運ぶと、どの料理も見た目通り、いや、見た目以上に素晴らしい味だった。
「美味しい!」
思わず叫んでしまう。
ミステルも黙々と料理を口に運んでいく。表情はあまり変わらないがすごい勢いだ。きっと美味しいんだろう。
俺たちはあっという間に目の前の料理を平らげていった。
「すごい……美味しかったです。こんなに美味しい料理は初めて食べました」
「ありがとうございます。本当はもっと豪華な料理でおもてなししたかったのですが。なにぶん、街の流通が滞っていまして、食材調達にも限りがあって……」
「いやいや、十分すぎるくらい豪華ですよ。めちゃめちゃ美味しかったですし」
「ふふ、そういっていただけると嬉しいです。この料理はクロエが腕によりをかけて作ってくれたんです」
「えっ!? これ全部クロエさんが一人で作ったんですか? すごくありませんか?」
「えっへん、スーパーメイドはダテじゃないってばよ」
これだけの料理を一人で作ったとなると、腕前もさることながら、その手際のよさもハンパない。
「そういえばクロエさん以外の使用人はいないんですか?」
「ええ、領主の館といっても、ここに住んでいるのは僕とアリシアの二人だけなので。使用人も住み込みで働いてもらっているクロエ一人だけです。僕が着任する前はそれこそ数十人規模の使用人が住んでいたみたいですけどね」
なるほど、クロエさんはたった一人で料理や掃除、身の回りの世話まで全部こなしているのか。なかなかにスーパーな使用人だ。自己紹介で自分のことをスーパーメイドと名乗っていたけど、実際その通りなのかもしれない。
「クロエは僕たちが生まれてすぐのときから、従者としてずっと一緒だったんです。ほとんど家族みたいなものですかね」
ルークは懐かしむような口調で言う。
たしかに生まれたばかりの頃から一緒に過ごしてきたなら、使用人というよりももはや家族同然の存在なのだろう。
「メイドとして、当然」
クロエさんがえっへんと言わんばかりに胸を張り、頭の猫耳がぴこぴこと揺れる。
「あの……ニコ様、ミステル様。お二人は王都エルミアで冒険者をされていたんですよね?」
クロエさんに関する話題がひと段落したタイミングで、おずおずといった様子でアリシアが質問をしてきた。
「はい、一応……」
「わぁ、すごい。私、王都に行ったことないんです! どんなところなんですか? やっぱり人がたくさんいて賑やかなんでしょうね!」
アリシアは外からやってきた俺たちに興味津々といった様子だ。ランランと目を輝かせる彼女に、俺は少し困ってしまう。
正直、エルミアにはあまりいい思い出はないからだ。
「それに、お兄ちゃんに聞いたんです。二人はあの有名な冒険者パーティ
アリシアは純粋無垢な表情を俺たちに向けた。
思わず俺とミステルは顔を見合わせてしまう。立場が誤解されて伝わってしまっているみたいだった。
俺たちがすでに
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