第70話 主人と付き人

「よし、これで全員だね。後はガウシアとセシル会長とクリスさんだけだね」


 屋敷に着いたカリンはそこにいる者の数を数えてそう呟く。


「……教師として不甲斐ない」


 学長はクロノを置いてきたことを悔いているのか、俯いてそう吐き捨てる。流石に迷惑になるだろうと思っているのか、あの場所に戻ろうなどとは言いださなくて、カリンはホッとしている。


「カリン」


「あ、ガウシア。それにクリスさんも。無事だったんですね」


 ガウシアとクリスがカリンの下に姿を現す。


「はい。クロノさんに助けられまして。あちらにセシル会長もいらっしゃいます」


 ガウシアがそう言って指をさすと、それに気が付いたのか、セシル会長もニコリと笑って手を振る。


「しかし、この襲撃はいったいなんなのだ?」


「魔神教団らしいよ。クリスさんも知ってるんじゃないかな?」


 クリスの問いにカリンはそう答える。


「なるほど、奴等の仕業か。それにしても私達を襲う理由が分からないが」


「そういえば、能力強度を集めるとか言っていましたねー。どういうことなんでしょうか? 冒険者のライカさんはなにか知ってます?」


「知らない。能力強度はあくまでただの強さの指標。集めるものじゃない」


「そうですよねー。私もその認識なのですが」


 結局のところ何が目的なのかが全く分からず、一同は首をひねる。その一方でクリスだけは難しい顔をして考え込む。


 そして、何かに気が付いたかのように顔を上げる。


「あれ? そういえばリーンフィリアが見当たらないな。君たちと一緒じゃなかったのかい?」


「えっ? ホントだ。さっきまで横に居たのに」


 カリンも今気づいたようで驚く。


「もしかして」


 そして、森の方を向く。




 ♢



光の剣ホーリーブレイド!」


 既に光の鎧を纏った後の本気のリア様による一撃が猛烈に迫りくる風の渦をいくつかかき消す。


「リア様。屋敷に戻ったのではなかったのですか?」


 俺はリア様の横に立ち、そう聞くとリア様は当然といった顔でこう告げる。


「付き人は主人と一緒にいるものよ。ってことは私はここにいなくちゃいけないでしょ?」


「なんですかその理論!? 危ないですから早く戻ってください!」


「あら? 私を守りながら勝つ自信が無いのかしら?」


「そういうわけではないのですが」


「大丈夫。私だって戦えるんだから」


 光の鎧の輝きが先程までの疲弊したリア様とは思えないほどに強まる。


「君、能力強度高そうで良いね」


 風の渦の間を縫ってレイジーがこちらに向かってくる。


 目の前にあいつが居て、周りには風の渦がある。ここでリア様と言い争いをするほど不毛なことはない。


「リア様、あいつは別格です。十分に気を付けてくださいね」


「オッケー! 行くわよ!」


「ちょ、気を付けてって言ったじゃないですか!?」


 俺の言葉を聞いた瞬間、光の速さでレイジーへと突っ込んでいってしまう。


「スロウ」


「ブレイク」


 レイジーの言葉に重ねるようにして破壊の力を使い、妨害を阻止する。


 スロウの効果がかかっていないリア様はそのまますさまじい速度で光の剣を振り下ろす。


覇光はこう!」


 地面を削るほどの極大の光の柱がレイジーを襲う。


「クイック」


 レイジーは自身に能力をかけ、瞬間的にその場から移動する。


 流石に自分にかける能力の効果を破壊することはできない。


「忘れてないかい? まだこっちにはこいつらがあるんだよ?」


 勢いが増幅された風の渦が突っ込んでいったリア様を囲い始める。


「させるか!」


 俺はリア様に襲い来る全ての風の奔流を吹き飛ばし、横に並ぶ。


「こうなったら仕方ありません。二人で倒しましょうか」


「そうこなくっちゃ」

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