第63話 強化合宿初日
馬車があまり舗装されていない緩やかな山道を登っていき、やがて木々に囲われた場所を走り抜けたと思ったら、少し開けた所に出る。
「思っていたよりも凄いな」
馬車から降りると、目の前の平地に堂々と立っている大きな屋敷が見える。
「ここが今日から1週間泊まることになる屋敷だ」
「こんなに立派なお屋敷に泊まるとは思いませんでした」
ガウシアはどこか残念そうにそう言う。ガウシアからすれば風情のある宿屋の方が見慣れてなくて良いのかもしれない。
「これはうちの副学長が持っている屋敷だ。因みにここら辺一帯の土地は副学長の土地だから勿論、魔物も居ない。安心して訓練にいそしんでくれ」
訓練というか半分遊びみたいなもんだがな。
「そういえば気になっていたのですが、学長さんってお忙しいのではないですか?」
「セシル君、そこは安心してくれ。1週間の全ての仕事を副学長に任せてきた! これで私もお前達と一緒にあそ……訓練ができる」
今、完全に遊べるって言おうとしてたな。副学長さん、可哀想に。
「学長って結構自由な人なんだね……」
「彼女は実力で学長を任されているからね。多少の自由は利くさ」
クリスは学長の事情に詳しいらしくそう説明してくれる。これが果たして多少の自由なのかどうかは疑問だが。
「それじゃあ、全員にこの部屋番号札を渡す。受け取ったものはその番号が書かれている部屋にいったん荷物を置いてからまたここに再集合してくれ」
そうして俺達は学長から番号札を受け取り、屋敷の中へと入っていく。
「ようこそ、メルディン王立学園の皆様」
中にはズラッとタキシード服の者とメイド服を着た者が並び、俺達を歓迎してくれる。
「ああ、みんなに紹介しよう。今回、掃除や料理をしてくれる方々だ。失礼のないように」
そう言うと、各々屋敷の人たちに一通り挨拶をしながら玄関を進む。中央を進んでいくと、二股に分かれる豪華な階段がある。
俺は手元にある『205』と書かれた番号札を見る。一つ目の数字が階数を表しているらしい。
「俺は2階か」
「どこの部屋?」
「205です」
「205か。私は204だから隣だね」
そう言ってリア様が204と書かれた札を見せてくる。
「それは良かったです」
「私は206だね。ということは私もクロノの隣かな?」
カリンがそう言って札を見せてくる。
「まあ、人も少ないし近くに集めてるんだろうな」
「そうみたいですね。私の番号も208番とかなり皆さんと近いですし」
「私は207」
そうして各々の部屋へと入っていく。予想通りクリスとセシル会長の部屋も俺達と比較的近い。
しかし、レイディ学長の部屋や他の教師陣の部屋は少し離れている。生徒の部屋と教師の部屋が離れているのは心情的にありがたいな。
俺はガチャリと部屋のドアを開け、中に入る。予想はしていたがかなり広く、とても一人用の部屋とは思えない程だ。
持ってきた大きなカバンをドサッと部屋の端っこの方に置くと、制服から動きやすい服に着替えると、部屋を出る。
廊下には既に着替えた後のクリスとリア様が話しているところであった。
二人ともいつの間にそんなに話すようになったんだと思いながら二人の下に行く。
「うむ、クロノ。来たか」
「あら、遅かったわね。クロノ」
「リア様とクリスが早すぎるんですよ」
その証拠にこの3人以外誰も廊下に出てきていない。
「そういえば髪の毛を結ぶ姿は新鮮ですね」
「戦っている時に邪魔だったからね。ちょっと結ぼうかと思って」
金色の髪の毛を一つに結んでいるリア様の姿に少しドキッとしてしまった。
「ここで話しているのもなんだし、先に訓練場に行って待っていようか」
「そうね」
そうしてクリス、俺、リア様という何とも奇妙な組み合わせで訓練場へ向かう。しおりに描かれた地図によると訓練場はここから少し行った場所にあるらしい。
そうして歩いていると、先に着いている者が一人いた。黒い長髪をたなびかせてそこに立っているのはカリンである。
一番乗りだと思っていたからまさかである。
「カリンさん、早いな」
「いつでも戦えるように戦闘服を下に着ているから早いのかも」
道理で早いわけだ。
「そんなものをいつも下に着てて暑くないのか?」
「暑いかな? あんまりわかんないや」
そうしてカリンと合流し、4人で話しているとぞろぞろと人が集まってくる。
「よし、皆集まったな。では、まずは基礎訓練から始めるぞ! しかし基礎訓練だからといって手を抜くなよ? これを真剣にやるかどうかで後の訓練に大きく差が出るからな」
一番最後にやってきた学長の言葉で訓練が開始する。
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