第61話 学長からの呼び出し
「それじゃあ、この辺で全体に対する連絡事項は終わりだ。さあ、帰った、帰った」
ギーヴァ先生の言葉でSクラスの生徒たちは立ち上がり、帰りの準備をし始める。
「……っとそうだ。クロノ、リーンフィリア、ライカ、クリス、ガウシア、それとカリン。この後、学長室まで来てくれ。話がある」
「話?」
リア様の疑問の声に俺達は同じように首をかしげる。
「あっ、もしかして闘神祭についてのことではないですか?」
「だとしたら闘神祭に出ない私が呼ばれるのはおかしいと思うけど」
「まあ、行ってみたら分かるんじゃないか?」
「クロノの言う通り。行けば分かる」
♢
コンコン。
「入れ」
「失礼します」
ぞろぞろと学長室に入っていくと、中にはクリスとセシル会長、それと部屋の奥に座る、鋭い目つきをした女性、レイディ・メルトキル学長がいた。
取り敢えず俺達は学長の席の前に置かれているソファの空いている所に腰を掛ける。
ていうかクリス殿下早ッ! さっきまで同じクラスにいたよね?
「うむ、全員揃ったな」
「それで話とはいったいなんなのでしょうか? やはり闘神祭のことですか?」
ざっと見渡すと、選考試合を勝ち抜けた俺、リア様、ガウシア、クリス、セシル会長と選考試合には出られなかったが闘神祭に出ることは許されたライカが居るから普通ならそう思うが、カリンがいるのが分からない。
「おお、察しが良くて助かる。そうだ、まさに闘神祭のことだ。とはいっても闘神祭に向けた合宿についての話なのだがな」
「合宿……ですか」
「メルトキル学長。私が生徒会室の資料を漁ってみた限りではそのようなことをした記録はなかったはずなのですが」
セシル会長が疑問を問いかける。
「ああ、今年が初めてだ」
今年が初めて? どうしていきなり合宿をしようとなったのだろうか?
「実は今年から闘神祭が個人戦ではなく団体戦になったんだ。それでお互いの力を把握するのに全員で合宿に行ってはどうだろうかと試験的にやろうとなったのだ。私の一存で」
一存なら「なったのだ」ではなく、「したのだ」に訂正してほしい。
「まあ、事前に伝えていなかったから今回は任意でということになる。クリス君、これをみんなに回してくれるかな?」
学長に一番近い所に座っているクリスが学長から紙を手渡される。
「わかりました」
「はい、クロノ」
「ありがとうございます、リア様」
順々に紙が回っていき、俺の手元にも紙が回ってくる。
「今回集まってもらったのはその合宿に参加するか否かという意思を聞くためのプリントを配りたかったからなんだ。期日は合宿に出る2日前、つまり1週間後くらいまでだな。参加する場合はその参加というところに丸を付けて、参加しない場合も同じ様に参加しない方に丸を付けて出してくれ。あ、それとこの合宿に参加せずとも闘神祭には出られるから安心してくれ」
「学長、質問があります」
「ん? どうした?」
「私は闘神祭には出場しないのですが?」
「ああ、忘れていた。今回、カリンさんには生徒に頼むのは悪いとは思うのだが、講師としてついてきてくれないかと思ってな。ほら、そこにSランク冒険者がいるだろう? 流石にここの教職員のだれもこの子に訓練を満足につけられないと思ってな」
「ああ、そういうことだったのですか。では、これで」
カリンはカバンの中からペンを取り出し、「参加する」に丸を付けると学長に差し出す。
「おお、早い判断、助かる」
「じゃあ、私も」
「私も。楽しそうだから」
「私も早めに出しておきますね」
カリンに倣い、リア様、ライカ、ガウシアが「参加する」に早々に丸を付けて学長に提出する。
「私も勿論参加だ」
クリス殿下も予想通り参加するに丸を付けて提出する。
「後は、クロノ君とセシルさんだけだな」
まあ、リア様が行くのであれば俺に選択肢はない。俺も参加するに丸を付けて提出する。
「すみません。私は少し考えさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいぞ。もとよりそのつもりだったからな」
そうしてセシル会長以外が提出して、大まかに合宿の内容を伝えられて解散となった。合宿当日にまたプリントとして配るらしい。
「クロノ君」
学長室から出ると、クリス殿下に呼び止められる。
「どうされましたか? クリス殿下」
何気に接点は無かったため、珍しいなと思い呼びかけに応える。
「殿下はよしてくれ。同じクラスの仲間だ。クリスと呼び捨てにしてくれ」
爽やかな笑みを浮かべてそう言ってくる。
「分かった。じゃあクリスも俺のことはクロノと呼んでくれ」
俺は特に殿下呼びする必要はないと判断し、すぐに外す。俺がかたくなに敬称をつけるのはアークライト公爵家だけだからな。王家であってもそれは変わらない。
「うん、ありがとうクロノ」
「それでどうしたんだ?」
「いや、合宿で男なのは私とクロノしかいないからな。一緒にいる機会も増えるだろうから今のうちに仲良くなっておいた方が良いだろう?」
グーサインを前に突き出してニカッと笑う。俺もつられて頬を緩める。
「そうだな、よろしくなクリス」
「よろしく! 後、リーンフィリアさんもライカさんもガウシアさんもよろしく! ではまた明日!」
俺の肩越しにリア様たちに向けて言うと、クリスはそのまま去っていく。
「どうして私達はおまけなのよ」
「ふふ、面白い人だね」
「変わってる」
「変わってますね~。良い人そうですけど」
女性陣から好き放題に言われるクリスに俺は心の中で励ます。大丈夫、お前はいい奴だ。性格は変わってるけど。
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