第60話 転入生
「で、では転入生を紹介する。転入生は中へ」
「はい!」
聞き覚えのある声が教室の外から聞こえた後、教室の扉がガラリと開く。
「おはようございます、私の名前はカリン・“アークライト”と言います! 皆さんとはお久しぶりですね。本日からSクラスの一員となります。よろしくお願いします」
「「「「「ええええっ!!!! カリン先生!!!? それにアークライト!?」」」」」
思いもよらない転入生の姿にクラス中の生徒が驚く。事前に知っていたであろうギーヴァ先生ですら額に手をやっている。
この話にはいろいろと深いわけがある。
♢
~アークライト家にて~
リア様や奥様や公爵様、そして先輩方に迎え入れられた後、俺とカリンは客室へと連れていかれた。そして、今、その客室に俺とカリン、机を挟んで公爵様が座っている。
「それでクロノ君。一つ聞いても良いかな?」
「はい、どんなことでもお答えします」
「何故カリン殿がここにいるんだい?」
公爵様がジトッとこちらを見つめながら問う。
「私もこの度、家から追い出されまして」
カリンがてへっと言わんばかりに後頭部を押さえて言うと、公爵様は頭を抱える。
「……あの辺境伯はいったい何を考えているのだ。幼い子を家から追い出すだけでなく、英雄をも追い出すとは」
あきれたようにそう吐き捨てると公爵様はこちらに向く。
「それで、カリン殿。貴殿はこれからどうするつもりなのか?」
「私もアークライト家の使用人になりたいのです」
「えっ!?」
冒険者になるんじゃなかったの!? 俺も聞いていなかったため驚きである。公爵様に聞くというのはあくまで住居とかそういうことのつもりだったんだが。
「いや、カリン殿。流石に英雄を使用人などにすれば世界中から私が非難されてしまうではないか……」
公爵様もこれには困った様子で腕を組んで考え込む。
すると、突然部屋の扉がガチャリと開いた。
「どうした? リア」
入ってきたのは偉く自信満々な顔をしたリア様であった。
「話は聞かせてもらいました」
そう言うと、こちらまで歩いてきてソファに静かに座るとこう言い放った。
「カリン先生、いえカリンをアークライト家の養女にすればいいと思います!」
♢
「……ってことでリア様の提案を受けた公爵様が最終的にそうしようと言ってその日のうちに手続きを済ませたんだ。一応、イシュタル家にも確認を取って両者合意のもとで成立した」
「へえ、そういうことだったんですね」
「公爵様、中々豪快」
昼休みになぜかは分からないが、本人たちにではなく俺に問い詰めてきたガウシアとライカに事の顛末を伝える。
「それにしても相手方がまさか了承するとは思わなかったわね。絶対お父様がなにかしたでしょ」
公爵様とイシュタル家当主との合意の場に居合わせた俺は分かっている。公爵様がリア様誘拐の件を出して鬼のように脅迫なさったことを。あの時の公爵様のお顔はまさに鬼神であった。
よっぽど根に持っていらっしゃったようだ。そりゃ当然か。
「ふふ、私がイシュタル家にとって不要の存在だっただけかもしれないけどね」
「それは無いでしょ」
「彼らは私のことを順位でしか見ていなかったから。愛情なんてものはないから言うことを聞かなくなったらそれで用済みなんだと思うよ。私からすればそっちの方が都合よかったけど。こうしてリアの姉妹になれたし、クロノとも一緒に居られるから」
気まずい空気が流れる。その話題にこっちがどう返せばいいのか分からないだろうが。
「うん? 少々暗かったかな?」
「ああ。だいぶな」
「ごめんね。そんなつもりで言ったわけじゃないんだ」
「ま、まあ、取り敢えず学食に行きましょうか。早く行かないと満席になってしまいますよ」
ガウシアの苦し紛れの話題逸らしによってなんとかその場を乗り切った。
♢
帰り、いつも通りのメンバーにカリンを加えて寮への道を歩く。
「そういえばカリンとリアは同じ公爵家の令嬢。クロノはどっちの付き人?」
「そりゃ、リア様だろ」
どういう意図をもってそんなことを聞いたのか? リア様の付き人なんだから当然俺の選択肢はリア様しかない。
「ホントに~?」
リア様が何故かこちらを振り返って聞いてくる。
「どうしてリア様が聞いてくるのですか」
「別に~。ところでさ、カリンに敬語を使わないのなら義姉妹の私にだって当然敬語を使わないわよね?」
「確かにそうですね。カリンさんに対してため口なのにリアさんに敬語を使うのはおかしいです」
うぐ、痛いところをついてくるな。
「そ、それとこれとでは話が違うのです!」
最早理由にもなっていないような強引な返しである。更に詰めてこられるのは必至。
「まあまあ、二人とも。クロノが困っているから」
助かったぞ、カリン!
「でもクロノ。いつか私の付き人にもなってくれて良いんだよ?」
「お前もかい!」
俺の叫び声が辺りに響き渡った。
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