第48話 一大決心
今、俺とリア様は馬車に揺られ、ある所へと向かっていた。そのある所というのはアークライト領である。事が終わるまではセキュリティが甘い学生寮にリア様を置いておくわけにはいかないと判断した結果だ。
あの荒くれ共に関してはすぐに衛兵に知らせておいた。直にあの場所で捕縛されている奴ら全員連行されることだろう。
そして一応、少しの間学園を休むことになるため、ガウシアに連絡して学園側に伝えてもらった。
「ねえ、別に家に戻る必要はないんじゃない?」
「そういうわけにはいきません。あの学生寮に居たから攫われたのですから」
特に女子寮だと俺が関与できない。あいつのことだ。また攫いに来兼ねない。それならば公爵家にいったん避難しておくのが無難だろう。
公爵様も強いし何より学生寮の時よりもセキュリティが段違いだ。
「いつまで学園に行けないのかしら?」
「少なくとも今回の黒幕を叩きのめすまではダメです」
「今回の黒幕?」
「そのことについては着いてから公爵様と奥様とご一緒にお話しいたします」
それから半日くらい馬車に揺られてアークライト領に着く。
♢
アークライト領に着き、数時間馬車に揺られ続けて、ようやく公爵家に着く。
俺とリア様は御者に運賃を払い、降りる。
「ん? クロノか? 学園はどうした? って、リーンフィリアお嬢様ではありませんか!? ちょ、ちょっとお待ちください!」
いつもの門兵のドーグさんがリア様のお姿を見るとすぐに屋敷の中へと駆け込んでいく。
そうして現れたのは執事のゴードンさんではなく、公爵様とその奥様であった。
「父上、母上!」
リア様のそのご様子に公爵様と奥様は何も聞かれない。
「公爵様、お話があります」
意を決して公爵様に進言する。
「取り敢えず、中にでも入りなさい。そこで話を聞こう」
そうして屋敷の中に入り、いつも客室として使っている部屋へ連れていかれる。
「まずは、公爵様と奥様にお詫びしなければならないことがあります。この度、私の不注意によってリア様が攫われましたことをここに深くお詫び申し上げます」
俺は部屋に着くと、ソファに座ることなく開口一番に頭を下げて謝罪する。
「ふむ、その辺も含めてゆっくり話を聞こう。そんなところに立っていないで座り給え」
「はい、失礼します」
公爵様のご厚意により、俺はソファに座ってからリア様の誘拐の経緯について話した。
「……なるほど」
そう一言つぶやくと、公爵様は座りながら突然俺に向かって頭を下げる。
「い、いきなりどうしたのですか!? 頭をお上げください!」
「いや、一人の親として、私は君がリアを救ってくれたことを感謝したいのだ。せめて頭くらいは下げさせてくれ」
「私からも、ありがとうね、クロノ君。娘を助けてくれて」
そう言うと奥様までも頭を下げる。
「と、取り敢えず顔をお上げください! このままでは私の心臓が持たないです!」
こちらからすればリア様を危険な目にあわせてしまって申し訳なさがあるというのに更にそこに公爵様と奥様から頭を下げられると申し訳なさで胸が締め付けられてしまう。
「ハハハ、そうか。ならやめておこう」
公爵様は笑いながら顔をあげられる。
「相変わらずいたずらがお好きですこと」
「何を言う。感謝しているのは本当のことだし、頭を下げたいと思ったのも本当のことだぞ? まあ、少し長くやり過ぎたがな」
ちょーい! 悪戯やったんかーい!
「それにしてもクロノ君、いつからリアのことをリア様と呼ぶようになったのかかしら?」
「それは私も気になっていたな」
俺が気を抜いているとズバッと奥様に切り込まれる。
公爵様と奥様二人に見つめられてしまう。
「そ、それは……」
助け船を求めるようにちらりと横に座っていらっしゃるリア様の方を見る。
リア様は仕方ないわねと言わんばかりに息を吐かれる。
「最初に私が頼んだのよ。学園生活を送るうえでリーンフィリアお嬢様と呼ばれるのがいやだったから」
「「へえ~」」
「何よ、その反応!」
公爵様と奥様の反応にリア様はプンスカと腹を立てられる。
「そんなことよりクロノ! 私達に話があるんでしょ!」
お二人の目から逃げるようにして俺に話を振る。
「おっと、そうだったな。して、クロノ君。話とは何だね?」
遂に話すときが来たか。
ごくりと生唾を呑み込み、意を決して話し始める。
「今まで黙っていて申し訳ありません。私は実は勇者の息子なのです」
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