第37話 試合前
「はあ~、緊張する~」
1年Sクラスの控室に戻り、トーナメント表が貼り出されると、試合の組み合わせを見ながらリア様がそう零す。
「大丈夫ですよ。だってあのカリン先生に認められたほど強くなったんですから」
実を言うと、カリンが一週間過ごしてきた中で一番成長したのはリア様だと言っていたのだ。実際、今測れば能力強度も大幅に上がっていると思う。
「……私も頑張らないとですね。特待生という席に甘えていたかもしれません」
「ガウシアはかなり頑張っている。リアの伸びが異常」
ガウシアの成長スピードは決して他の者に劣るほどではない。寧ろ、優れていると言えるだろう。この点に関してはリア様の成長速度が異常なだけだ。
「私の方が嫉妬したくなるんだけどね」
まあ、リア様の伸びが凄いと言っても能力強度はまだガウシアの方が高いからな。
リア様からすればガウシアの方が凄いと思っていらっしゃるようだ。
互いに互いのことを嫉妬している、まさにライバル関係みたいで微笑ましい。
「何笑ってる? クロノ」
「ん? 笑ってたか?」
「ちょっとだけだけど」
どうやら少しだけ感情が表に出てしまったらしい。
「クロノは余裕そうね」
ジトッとリア様に睨まれる。
「いえいえ、そんなことは。私も緊張しておりますよ」
嘘だが。第一、リア様と当たりさえしなければ緊張はしない。流石にこの大会で手を抜くと、リア様に嫌われてしまうだろうから能力を出して戦わないといけなくなるからな。
「本当かしら?」
「本当ですとも」
リア様からの疑いの眼差しをハハッと笑ってごまかす。
「クロノさんって不思議な方ですよね。その性格という意味ではなくて、強さに関してなんですけど」
「どこが不思議なんだ?」
「十分不思議。普通、能力強度が5万くらいの人間は私の拳を防ぐことなんてできない」
「そうなのか?」
言われてみれば自分のことではあるが、確かに少し変わっているかと見つめなおしてみて思う。ただ、俺の場合は本気で測ってあの数値なんだよな。だから手を抜いているというわけではない。本気のベクトルが他の人とは違って下げることに関してだけど。
それに俺は別に必要以上に弱い姿を見せようともしているわけでもないし、普通にライカの拳は防ぐし、普通に選考試合は勝ち進もうと思っている。
傍から見れば確かに不思議な存在だ。
「それより、クロノ。あなた一回戦目らしいわよ。準備しておいた方が良いんじゃない?」
リア様がトーナメント表を指差す。
見ると、一番左にクロノ、と書かれている。
「おっと、本当ですね。では私は待機場所まで行ってきますね」
そう言うと、俺は3人から離れ控室から出て試合待機場所へと向かう。次の試合に出る者はここで待たないといけないらしい。付き人である俺がリア様から離れるのは不本意ではあるが、ルールなので仕方が無い。
それにいざとなったら以前とは違って『コミュニティカード』があるため、その分気持ちは楽だ。
待機所に着くと既に俺の対戦相手が居た。
「君が対戦相手のクロノ君だね。見た感じ1年生かな?」
「はい、そうです」
「そうかい、それは可哀想だね」
「ん? どうしてです?」
「だって一回戦目で僕という絶望的な存在と当たってしまったんだから」
男、確かクエル先輩だったか?はそう言うと、キランという効果音が出そうなくらい白い歯を見せる。
「僕は2年生Sクラスの中で上から5番目の実力者だからね」
「はあ、そうですか」
思っていたよりも俺の反応が鈍かったのが気になったのか、少し不思議そうな顔をする。
「あんまり落ち込まないんだね」
「落ち込む? 負けていないのにどうして落ち込む必要があるのですか?」
「へえ、君は僕に勝てるとでも?」
「はい」
特にためらうことなく俺が返事をする。
「フフフ、生意気じゃないか。でも良いよ。そういう無謀な精神、悪くない」
そこまで言うと、選手入場のアナウンスが聞こえる。それに従い、クエル先輩はスタスタと試合会場へと向かっていく。
「君の力がどの程度なのか。先輩である僕が教えてあげるよ」
「お手柔らかにお願いします」
そう言うと、俺も待機場から出ていくクエル先輩の背を追いかけるのであった。
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