第14話
2.才能世界とルリカ
何の言葉も飲み込めずに、吐き気がする僕は胃のものを吐き出す代わりに、叫ぶように言葉を吐き出した。
僕に才能が無いことを百歩譲って受け入れたとしても、僕に才能なんかあったら、もっとこの世界は生きやすいはずだ。
何かの間違いだ。
元の世界に戻してほしい。
何も無いこの世界でいきなり生きろと言われても僕は生きられない。
思いの丈、全てを先生にぶつけた。
だが先生は心中、お察しします、と頷くばかりで何も変えてくれない。
そういえば抜け出す出口を探していたはずなのに、出れたら戻してくれと懇願する僕は傍から見ればとても滑稽だろう。
押し問答を繰り返して、先生を通して、少しずつこの世界のことを知る。
ずっと僕を無いものにしていたはずの、この世界のことを。
この世界は1年ずっと巡るらしい。
なんで元の世界は、10月しか巡らなかったのか。
それは本人の感情と深く関わっているらしい。
10月の何かが忘れられない、とか。
少女は。
あの少女は一体なんだったのか。
あの、僕と同じようにこの世界が終わらないことを知っていた少女は。
そのことを問いただすと先生は驚き、少し困惑した。
迷うような沈黙の末、先生はとても似ている子が才能を伸ばす実験を受けている、と僕に告げた。
才能を持たない者の為の救済処置と才能を伸ばす実験。
同じ、才能を持たない者に与えられる選択肢だ。
救済処置は才能を持たない人間の世界の生活を送らせるというものだが、実験は違う。
才能を持たないことを知った上で、過酷な生活をさせるのだ。
無いものを生み出す作業。
お金が膨大にいるというのと、その過酷さに、実験が行われた数は驚くほど低い。
少女はその実験の最中(さなか)にいる。
同じ終わらない世界で出会った、同じ、才能を持たない人間。
この実験室の中に、少女はいる。
「本来、患者同士は接触できないはずなんですが」
独りごちるように言って、先生は、車椅子に未だ慣れずに乗っている僕を案内してくれた。
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