Case.14

 ___あなたは、誰、ですか。


 辛うじて聞き取れた声と、ぼやけてみえる輪郭に「相棒……?」と返した俺の声は、酷く震えていた。


 違うのに。

 そんなはずないのに。


 どうして俺は、お前以外のにそう呼びかけた?

 俺の相棒は、お前だけであるべきなのに。







 ・









 ・








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「おいおっさん、どこ連れてく気だ」


 医務室から連れ出した生意気なドーベルマンの小娘一人と、それを諌めるおとなし気なドーベルマンの小娘一人。


「もう一度医務室送りになりたくないならその生意気な口の利き方に気をつけろ。俺はロブスト教官ほど優しくない。」


 生意気な方を睨みつけると、威勢のいい舌打ちが返ってきたがそれ以上何か聞かれることもなかった。


『Kー9』とは名ばかりの俺に、普段表に出るような仕事が回ってくることはない。というより、俺自身が避けている。それでもこの季節は新入どもが入ってきてしばらく慌ただしい日が続くため、役立たずの『おれ』でもできるような雑務は必ず引き受けることになっている。


 後ろからついてきていることを微かな足音で確認しながら、無言で歩いていく。エレベーターの前にたどり着いたところで、今度はおとなし気な方が「すみません、」と声をかけてきた。


「なんだ」

「私たちはどこに向かっているのでしょうか。先ほどいた教室はすでに通り過ぎてしまっています」

「ロブスト教官からの伝言だ。『医務室から訓練棟へ連れていけ。』これ以降の質問は受け付けない。以上」

「……はい」


 視界の端で、質問をしてきた方の尻尾が内側にしまい込まれるのを捉え、逆にもう一人の方の尻尾が逆立つのが見えた。


(双子か姉妹ってところか。)


 以前、教官が話していた悪徳獣人ホールダーの現場で保護したという二人だろう。

 あの小さかった子どもたちが、信じられないほど立派になったと喜んでいた。


(いくら訓練のためとはいえ、教官もこの子たちも堪えただろうな)


 イヌ科の獣人が幼少期に強制服従させらてしまうと、それはその後の人生に大きな影を落とす。ホルモンバランスの急激な変化によって自分の意思とは関係なく突発的に服従してしまったり、他のイヌ科の獣人と比べて犯罪や事件事故に巻き込まれやすくなったりする。もちろん、トラウマによるパニックも。


 生涯離すことができない爆弾を抱えているみたいなものだ。


 この二人が医務室へ運ばれることになったのもそれが原因だろう。こんな爆弾を抱えながら、警察学校の試験だけではなく、『Kー9』の試験に合格しているぐらいだからその体力や精神力は並大抵のものではないが、今回は相手がロブスト教官だったことが災いしている。それと同時に、教官だったからこれだけで済んだとも。


(爆弾を抱えているのは俺も同じか……)


 少し下にずれたサングラスを押し上げ、エレベーターの到着を待つ。

 この薄暗い視界にももう慣れた。


 これがなければもっと悲惨だ。


 青と黄色、それとすべてが灰色がかった世界。


(いっそ全てを奪ってくれればよかったのに)


時折聞こえる耳鳴りが忌々しい。

エレベーターを待つ間にもそれは何度も聞こえてきた。


ようやくやってきた四角い箱は、ゆっくりとその扉を開けて。後ろの獣人二人に先に入る様に促し、最後に乗り込む。


行先は、ここから五階上に登って、さらに渡り廊下を渡った先。





その場所はこの季節、『品評会会場』となる。

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K-9 チカラシバ @ambrostar

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