Case.13
あれから一時間があっという間に過ぎ、僕たちの前には再びロブストさん……もといロブスト教官が立っている。
「では、オリエンテーションを再開する」
「あ、待ってください。あの二人がまだ……」
そう。約束の時間になってもレオーネさんとアムルさんの姿はなく、それに気がつかないわけがないロブスト教官が、そのまま再開しようとしているのだ。慌てて手を挙げながらその旨を伝えると、微笑みながら肩を竦めた。
「気にかけてくれて感謝する。だが、あの二人なら大丈夫だ。先に訓練棟に移動して準備を手伝ってもらっている」
「訓練棟ですか?」
教官は、「あぁ」と頷いて、全員の方に向き直った。
「今から君たち全員で訓練棟に行ってもらう」
訓練棟というからには訓練をするのか、それとも見学だろうか。
教室にいた他のヒトから「何をするんでしょうか」と質問が飛ぶ。
「まぁ、かくれんぼだな、簡単に言えば」
(かくれんぼ……)
かくれんぼ?
その答えに、きっとこの教室にいる全員が同じようにぽかんとした表情をしていたのだろう。教官は喉の奥で抑えたようなククッ、という笑い声を漏らす。
「毎年やってることだ。きっと気に入る」
それ以上は向こうに着いてからののお楽しみだと言って、手元の端末に視線を落とす。その様子から特に難しく考えたり不安になる必要はないと判断して、僕は肩に入れていた力を抜いた。
「全員いると思うが、念のために出席をとるぞ。確認が取れたら移動するから、そのつもりで」
僕らの名簿をみるために、端末を操作していたらしい。名前を読み上げ、端末と返事をした人とを交互にみながら出席がとられていく。
自分の順番が回ってくるのを待っていると、隣りにいた富樫さんに制服の裾をクイッ、と軽く引っ張られる。
「か、かくれんぼって何だと思う? もしかして、かくれんぼみたいな訓練で、クリアできなかったらお家に帰されちゃったりするのかな……⁉」
「そんなんじゃないと思うけど、そうだったとしても、富樫さんなら大丈夫でしょ」
「またそんな無責任なことを~!」
頭を抱える富樫さん。
その横で、僕は他の事を考えていた。
(懐かしいって……)
今日ここに来たときに感じたそれと。
ヴァッシ先生に言われた『懐かしい匂い』
偶然なんだろうか。
だとしても、不思議と胸がざわつく。
ここにきてからずっと、何かを忘れているような、もしくは何かを思い出そうとしているような。そんな不思議な感覚が、からだのどこかにある。
何かが起こりそうな予感を感じながら、僕は自分の名前が呼ばれるのを待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます